米FRBが利上げ再開「動かない日本」に影響は?専門家QA 経緯も

アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は26日、0.25%の利上げを決定し、政策金利は22年ぶりの高い水準となりました。

そしてこのFRBの決定に続き、28日には日銀の金融政策決定会合の結果が発表される予定です。

これまで「利上げの欧米」「動かない日本」と言われてきましたが、この構図が変わるのか注目されます。

0.25%利上げ決定 22年ぶりの高水準に

FRBは25日と26日、金融政策を決める会合を開き、26日に0.25%の利上げを決定したと発表しました。

これによって政策金利は5.25%から5.5%の幅となり、2001年以来、22年ぶりの高い水準となりました。

前回、6月の会合ではそれまでの金融政策の影響を評価するためなどとして利上げを見送りましたが、今回、再開に踏み切りました。

インフレ率は鈍化傾向が続いていて、先月の消費者物価指数は3.0%の上昇と2年3か月ぶりの低い水準となりました。

一方でFRBが目標とする物価水準を依然として上回っているうえ、インフレの要因である人手不足や賃金の上昇が続いています。

FRBのパウエル議長は会合後の記者会見で、利上げに踏み切った理由について「雇用は依然として引き締まった状態だ。バランスは改善しつつあるもののインフレ率を物価目標の2%に戻すにはまだ長い道のりがある」と述べました。

パウエル議長はこれまでに今回の会合を含めて年内にあと2回の利上げが必要になるという考えを示唆していましたが、追加利上げについては今後発表される経済指標をみて会合ごとに判断していく考えを強調しました。

日銀 金融政策決定会合を開催 金融緩和策の修正は?

一方の日銀。27日から金融政策決定会合を開いています。

焦点はいまの金融緩和策を修正するかどうかです。

今回の会合で日銀は、3か月ぶりに今年度から3年間の消費者物価の見通しを示します。

企業の価格転嫁の動きが広がり、物価が日銀の想定より上振れて推移する中、日銀は3か月前にプラス1.8%としていた今年度の物価の見通しを2%台に引き上げるとみられます。

そのうえで日銀は来年度・2024年度と2025年度の物価の見通しをふまえて金融政策の方向性を判断するものとみられます。

日銀の会合は28日も開かれ、どのような決定をするのか注目されています。

パウエル議長 会見での発言

話をアメリカ、FRBのパウエル議長に戻します。

パウエル議長は会合後の記者会見で「雇用は依然として引き締まった状態だ。雇用増加はことし初めのペースを下回ったが、依然として力強い。労働市場の需給バランスは改善しつつあるもののインフレ率を物価目標の2%に戻すにはまだ長い道のりがある」と述べました。

そのうえで「GDPのデータと力強い消費を目の当たりにしていて、経済は堅調だ。このため、自信をもって3月以来3度目の利上げに踏み切った。経済はこの事態をうまく乗り切っているようだ」と述べ、利上げを行っても景気が悪化していないことに自信を示しました。

そして「金融政策は望むような十分な効果を発揮するほどには引き締め的ではなく、その期間も十分ではなかった。インフレ率が物価目標の2%に向けて持続的に低下していると確信できるまで、金融引き締め策を続けるつもりだ」と述べました。

また「6月の消費者物価指数の低下は歓迎すべきものだが、1つのデータ、1か月のデータにすぎない。さらにデータを見る必要がある。インフレ率に注目し、経済指標全体がさらなる利上げの必要性を示唆し、われわれがその結論に達すれば利上げに踏み切る」と述べました。

今後の利上げについては「会合ごとに判断していく。今後の会合での利上げやそのペースを含めて何も決めていない。しかし、さらなる金融引き締めの必要が適切かどうか評価していくつもりだ」と述べました。

そして「2%の物価目標に到達するだいぶ前に利上げは停止すると考えている」と述べるとともに「利下げはことしはないだろう。多くのメンバーが来年の利下げを予測している」と述べました。

また、アメリカの景気の先行きについて「FRBのスタッフはことし後半からは景気が顕著に減速すると予測するが最近の経済の堅調ぶりをみるともはや景気後退を予測していない」と述べました。

2人の専門家に聞く 今回の利上げ【QA】

FRBが決めた利上げの再開と今後の見通しについて専門家はどのように見ているのか。

アメリカの大手資産運用会社PGIMのチーフ投資ストラテジスト、ロバート・チップ氏と、2009年から2018年までニューヨーク連邦準備銀行の総裁を務め、この間、金融政策を決めるFRBの会合で副委員長だったウィリアム・ダドリー氏の2人に聞きました。

大手資産運用会社 チップ氏は…

Q.今回のFRBの決定をどう受け止めたか?
A.失業率が非常に低く、雇用の増加が続いている今の時点でのFRBの主な使命は、インフレを確実にコントロールすることだ。
パウエル議長の記者会見では、このところの物価上昇率の低下は一時的なものである可能性があり、油断することなく確実に物価上昇を低下させるというメッセージに時間が費やされた。
パウエル議長は慎重な姿勢で臨んでいた。

Q.パウエル議長は「もはや景気後退は予測していない」と述べたが、経済の見通しをどうみるか?
A.アメリカは成長率が1%台近辺の緩やかな成長が続いている。
これだけ利上げが続き、不確実性が高まる時期もあったが、現時点では、景気後退の可能性はかなり低くなっている。
景気はソフトランディング(=軟着陸)の確率が高まり、個人的な意見では、市場には非常に好都合な経済環境だと思う。

Q.今後の利上げの可能性についてどうみているか?
A.パウエル議長は経済データ次第だと言った。
今後の金融引き締めには少し消極的だったかもしれない。
私は利上げが最終的な局面に入っていると考えている。
インフレが収まっていくというのが基本的なシナリオだ。
今回の利上げが最後の利上げで、今後12か月以内に利下げが行われる可能性があるとみている。

元副委員長 ダドリー氏は…

Q.なぜ、前回の会合で利上げを見送り、今回再開したのか。
A.FRBは、金融政策が効果を発揮するまでに時間がかかるため、金融引き締めをやり過ぎることを懸念して前回は利上げを見送った。
しかし、その後、経済がかなり堅調であることが分かり、さらなる引き締めが必要だと判断した。

Q.歴史的に異例の利上げにもかかわらず、なぜ経済が堅調なのか。
A.コロナ禍でアメリカ政府が家計や企業にかつてない大規模な財政支出を行ったことで、景気を減速させることが難しくなっている。
今回の会合の声明では、経済活動の判断が「緩やかに拡大」に引き上げられた。
ほとんどの人が景気が上向きだと受け止めているだろう。
その象徴的な例が住宅市場だ。
住宅ローンの金利が大きく上昇しているが、中古住宅の供給が限られていることもあって、住宅市場は回復し始めている。

Q.インフレ率を目標の2%に戻す鍵は?
A.雇用市場をさらに減速させる必要があるが、FRBはまだ達成できていない。
農業分野以外の就業者の増加数はまだ20万人を超えているが、FRBは5万人台にまで下がることを望んでいる。
また、サービス産業では人手不足による賃金の上昇がインフレを招いている。
賃金を下げないかぎり、インフレを抑えこむことはできない。

Q.FRBはいつ2%に物価を戻せるのか?
A.かなり長い時間がかかると思う。
FRBも前回6月の会合で示した予測で、2025年末まで2%には戻らないと見ている。

Q.今後の金融政策をどう見ている?
A.今回の会合での利上げ再開はサプライズではなかった。
ただ、唯一意外だと感じたのは、前回、これまでの金融政策の効果を評価するために利上げペースを緩めると強調していたが、今回は、次回9月の会合は『ライブミーティング(会合の時点で判断する)』だと明確にしたことだ。
今回で利上げを打ち止めにするのか、追加の利上げを行うか、FRB自身が現時点では確信を持てていない。
パウエル議長が伝えたのは、今後発表される経済指標しだいだということだ。

FRBの金融政策 これまでの経緯

2021年12月以降、消費者物価が7%以上となりインフレが加速したことから、FRBは2022年3月の会合で0.25%の利上げを決めてゼロ金利政策を解除。

金融引き締めへと転換します。

利上げは3年3か月ぶりでした。

さらに去年5月の会合で22年ぶりとなる0.5%の利上げと、「量的引き締め」と呼ばれる金融資産の圧縮に乗り出すことも決めました。

しかし、その後もインフレに収束の兆しは見えず、6月以降、11月の会合まで4回連続で0.75%という大幅な利上げを決めました。

その後発表された消費者物価指数は上昇率が前の月を下回る傾向が続いたことなどから去年12月の会合では利上げ幅を縮小し、0.5%の利上げを決めました。

去年3月にゼロ金利政策を解除し利上げを開始して以降、利上げ幅の縮小は初めてでした。

さらに、ことし1月31日と2月1日に開いた会合では0.25%の利上げと、上げ幅を縮小し、会合後の会見でパウエル議長は「インフレが収まっていく過程が始まった」と言及しました。

しかし、その後再びインフレの根強さを示す経済指標が相次ぎ、パウエル議長は3月7日の議会証言で今後の経済指標しだいで「利上げのペースを加速させる用意がある」と述べました。

市場ではインフレを抑え込むために0.5%の大幅な利上げに踏み切るという観測が高まりました。

この議会証言の直後、3月10日と12日に「シリコンバレーバンク」、それに「シグネチャーバンク」と銀行破綻が相次ぎました。

3月の会合では利上げが金融システムに及ぼす影響を踏まえ0.25%の利上げにとどめました。

また5月の会合では直前に「ファースト・リパブリック・バンク」が史上2番目の規模で経営破綻しましたが、FRBは再び0.25%の利上げを決めました。

去年3月以降、利上げは10回連続でした。

こうした中、先月13日と14日に開かれた金融政策を決める会合ではそれまでの金融政策の影響を評価するためなどとして利上げを見送りました。

FRBが金利を据え置くのは2022年3月に利上げを開始して以降、初めてでした。

今回の会合では物価の低下傾向が続く一方、インフレの要因として指摘される人手不足が続いていることなどから市場関係者の間で再び利上げを行うとの見方が強まっていました。