物価高 影響はアイスクリームから花火にまで

家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる先月・6月の「消費者物価指数」は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が、去年の同じ月より3.3%上昇しました。5月の上昇率、3.2%と比べると0.1ポイント上がり、食料品や電気代などの値上がりが主な要因となっています。

子どもの習い事も…

物価の上昇は、夏に消費が増えるアイスクリームといった食料や子どもの習い事の月謝を含む「サービス」など幅広い分野に及んでいます。

消費者物価指数は食料などの「財」と「サービス」の価格の平均的な変動を調査したものです。

上昇率を詳しくみると「食料」では夏に消費が増える「アイスクリーム」は、去年の同じ月より12%上昇しました。

また、卵や牛乳を原料に使用する「プリン」は12.6%上昇しているほか、「ゼリー」は20.2%、「スポーツドリンク」は12.5%、「ミネラルウォーター」は11.3%上がっています。

また、家電や運動用具では「ルームエアコン」が4.9%、「水着」が8%上昇しています。

また、「サービス」は去年の同じ月より1.6%上がっています。

このうち習い事などの「月謝類」では、スイミングスクールなどの「水泳講習料」が3.7%、子どもの体操教室などの「体育講習料」が2.6%上昇しました。

また、「フィットネスクラブ使用料」は3.3%、「カラオケルーム使用料」は5.6%上がっています。

こうしたサービスの価格は賃金との連動性が高く、専門家などからは人件費の増加を価格に転嫁する動きがさらに広がれば、物価の上昇率が高止まりした状況が続く可能性があるという指摘も出ています。

スイミングスクールの値上げ その理由は

子どもから大人までを対象にしたスイミングスクールを都内で3か所運営する会社では、6月から1か月の利用料金を500円から600円値上げしました。

会社によりますと、値上げの理由は光熱費の上昇だといいます。

東京・江戸川区にあるスクールでは、温水プールの水温維持にかかるガス代や電気代、それにプールの水道代は去年はおととしと比べておよそ50%増えたといいます。

このうち、電気代はおととしの2021年はおよそ340万円で去年は500万円ほどに増えました。

ことしは1月から6月までで電気代はおよそ290万円かかっているということで、現在、政府の負担軽減策はありますが、負担は重くなっているということです。

江戸川区にあるスクールでは、水温を維持するためのボイラーの稼働を通常より1時間ほど早く止めてガスの利用量を抑えるなどの経費の節減に取り組んできました。

ほかのスイミングスクールでも値上げの動きが相次いでいることを受け、今回、値上げに踏み切ったということです。

スイミングスクールに通う子どもの保護者は、「値段が上がると聞いた時は驚きました。子供がプール好きなので家計への影響はありますが、通わせたいです」と話しています。

「東京ドルフィンクラブ」の清水桂さんは、「新型コロナの影響で会員数の減少もあったなか、光熱費の上昇で、苦渋の決断でしたが値上げを行いました。今後も経費削減を行いながらサービスの向上などに取り組みたいと思います」と話しています。

中小企業 4度目の値上げ 消費者の反応は厳しく…

企業の中には、同業他社の値上げの動向などを踏まえて商品価格への転嫁を進める動きが出ています。

長野県上田市にある従業員およそ450人のハムやソーセージの製造販売会社では、ことし9月に一部の商品について5%から25%値上げすることを決めました。

大手の値上げの動きや消費者の動向を踏まえて、去年3月以降、価格への転嫁を進めていて、これで4度目の値上げとなります。

値上げの理由はハムやソーセージの原材料となる豚肉などの価格が上がっていることや電気代の値上がり、それに円安による豚肉の輸入コストの上昇が重なったことだといいます。

去年から商品の包装を見直すなどのコスト削減に取り組んできましたが、生産コストの上昇分を吸収できていないということです。

会社によりますと、これまでの値上げによって、家庭向けのハムなどの商品では売り上げに大きな変化はないということです。

一方、業務用のハムなどの商品では売り上げは去年の同じ時期に比べて3割あまり落ち込んでいて、値上げに対する消費者の反応は厳しいと感じているといいます。

「信州ハム」の堀川善弘社長は、「2年間で4回も値上げすることは過去に例がなく、お客様には申し訳ないが、値上げしても、コストの上昇に追いつかない状況が続いている」としています。

そこで会社では、値上げに頼らず利益を確保しようとしています。

いま取り組んでいるのが長野県産の豚肉をつかった新たな商品の開発で、地元産の豚を使うことで贈答用などの需要を取り込みたい考えです。

素材にこだわるなどして価格はこれまでの家庭向けの商品より5割ほど高く設定しています。

今後、付加価値を高めた商品開発を進めることで稼ぐ力を伸ばしていきたいと考えています。

堀川社長は「原材料価格の上昇が相次ぐ状況に対応していくためにも、コストカットに加え、付加価値の高い商品開発に積極的に取り組み、多くのお客様のニーズに応えていきたい」と話していました。

“夏の風物詩”花火大会にも影響

記録的な物価高は、“夏の風物詩”のあり方も変えようとしています。

8月に開催される松江市の花火大会では、花火の打ち上げにかかる費用などが大幅に増加する見込みで、これまでは限定的に設置していた有料の観覧席を去年の10倍に増設する方針です。

松江市中心部の宍道湖で行われる「松江水郷祭」は100年近い歴史を持つ花火大会で、ことしは8月5日と6日の2日間開催されます。

ただ、火薬などの原材料価格の高騰で花火の製造費用が上がっていることから、大会を主催する団体「松江水郷祭推進会議」の試算では、ことし、花火の打ち上げにかかる費用はコロナ禍前の2019年と同じ規模で開催すると想定した場合、およそ1.5倍になるといいます。

また、会場の警備にかかる費用も、人手不足が深刻化する中、他県からも警備員を確保するためおよそ2.6倍に膨れ上がり、開催費用は全体で少なくとも3000万円の増加が見込まれるといいます。

ことしの開催費用は、総額で少なくとも2億1000万円にのぼり、過去最大になる見通しです。

こうした事態を受け、主催団体では安定的な財源を確保しようと、有料の観覧席を大幅に増設することを決め、ことしは、去年の10倍にあたる2万6000席を設置する計画です。

有料席の価格は、土手などに座る1人あたり5500円のものから飲み放題のプランがついた4人席で5万円のものまで幅広く設定されています。

これまで無料で花火を見ることが当たり前だった市民たちからは、さまざまな声が聞かれました。

30代女性「皆が納得してチケットを買うのであればいいと思う。ただ、ちょっと価格が高いように感じる」

70代女性「年金生活で余裕がないので、お金を払ってまで見たいとは思わない。無料の立ち見でいい」

60代の男性は、「お金がないと成り立たない部分があるのではないか。『大会の継続』という明確な目的があれば問題ないと思う」

主催団体としては、打ち上げる花火の数を去年より6500発多い過去最大の2万発にするなど内容の充実も図り、地元の住民などの理解を得たいとしています。

主催団体の事務局を担う松江商工会議所まちづくり推進部の佐々木護室長は、「これまでは企業の協賛金などで費用を賄ってきたが、限界を迎えている。やり方を変えないと大会の継続が困難な時代になっているので、さまざまなチャレンジをして続けていきたい」と話していました。

専門家 “値上げの裾野が拡大”

今後の物価上昇の見通しなどについて、ニッセイ基礎研究所の上席研究員、久我尚子さんに聞きました。

Q.物価の上昇が続いています。最近の特徴は?

A.上昇の主な要因が替わってきていることが非常に特徴的です。
昨年度の物価上昇はエネルギーや食品などの財、モノの価格上昇が中心でした。

いまは外食やレジャーなどモノからサービスに価格上昇が移ってきています。

加えて、大企業だけではなくて中小企業にも価格転嫁をする動きが広がっていて、値上げの裾野が広がっています。

適切に価格転嫁し従業員の賃金を上げないと、人手不足の中で労働者が集まりにくくなっているという現状も背景にあると思います。

Q.長引く物価高が消費に与える影響は?

A.直近では消費は活発化しています。

コロナ禍の3年余りで外出関連の消費支出が減り、家計の状況を見ると貯蓄が増えたと思います。

少しの値上げであればコロナ禍で控えていた消費の欲求がたまっている部分もあるので、吸収できると思います。

ただ今後、賃金の上昇が物価の上昇を上回っていかないと可処分所得は増えていかないので、節約志向が高まってしまうという懸念があります。

実質賃金はまだマイナスで推移しているが、それがいつごろプラスになってくるのかというところが大きなポイントです。

Q.今後の物価の見通しは?

A.輸入物価と国内の企業物価を見るともうピークアウトしています。

特に輸入物価は大幅に低下している状況なので、コスト増は落ち着いてくるでしょう。

ことしの夏ごろには上昇率が3%台を下回ってくると予想しています。