インド 290人超死亡の列車事故から1か月 事故原因の捜査続く

インド東部で特急列車などが衝突して290人余りが死亡した事故から2日で1か月です。事故原因について過失致死などの疑いも視野に捜査が続いていて、鉄道当局としては原因の特定を急ぎ、再発防止につなげたい考えです。

先月2日、インド東部のオディシャ州で南部チェンナイに向かっていた特急列車が本線ではないレールに進入し、止まっていた貨物列車に衝突して脱線しました。

その際、脱線した車両が前方から来た別の特急列車と衝突して、乗客など290人余りが死亡、1000人以上がけがをしました。事故現場では線路の復旧作業が完了し、列車の運行が再開しています。

鉄道当局は事故は駅構内の信号機と線路の切り替えを行う装置に何らかの変更があったことが原因で起きたとの見方を示したものの、具体的にどのような変更が事故につながったのか明らかにされていません。

また、インドの主要メディアは事故原因の究明を進めている委員会が調査結果をまとめたと伝えていますが、今のところ内容は公表されていません。

一方で捜査当局は、過失致死などの疑いも視野に捜査を進めているとしています。

バイシュナブ鉄道相は地元メディアの取材に対し、「われわれは事実と根本的な原因を突き止めなければならない。捜査が完了するのを待ち、次の対応を検討する」と述べていて、鉄道当局としては事故原因の特定を急ぎ、再発防止につなげたい考えです。

犠牲者の多くが出稼ぎ労働者か 遺族は

事故があった路線はインド国内でも比較的、貧しい州が多い東部と南部の大都市を結んでおり、犠牲者の多くが出稼ぎ労働者だったとみられています。

インド東部にある西ベンガル州の農村で暮らすサバドラ・ガエンさん(68)は事故で3人の息子を失いました。

3人は大きな農場で仕事をするために、事故が起きた列車に乗っておよそ1000キロ離れた南部アンドラプラデシュ州に向かう途中だったということです。ふだんは農作業の手伝いなど日雇いの仕事をしていましたが、家族に少しでも良い暮らしをさせてあげたいと、年に数か月ほど、より高い収入が得られる南部の州に出稼ぎに行くようになったといいます。

一家は当面、政府の補償金を頼りに生活していくとしていますが、3人の家族を一度に失った悲しみから立ち直れずにいます。

サバドラさんは「3人の息子たちは出発するとき私の手を握って、『仕事に行くから子どもたちのことを頼む』と言いました。精神的に不安定になり、ひどく落ち込み、涙が止まりません」と話しています。

亡くなった長男の妻、アンジタさんは「この1か月、ずっと夫のことばかり考え、胸が張り裂けそうです。今は誰も頼れる人はいません」と話しています。

1か月経過も50人以上の遺体の身元特定できず

またこの事故では、遺体の損傷が激しかったり、身元を証明できるものがなかったりして、犠牲者の特定が難航していて、地元メディアによりますと今も50人以上の遺体の身元が分かっていないということです。

こうした中、家族が事故に巻き込まれて死亡したとみられても政府から補償金を受け取れず、経済的により厳しい状況に追い込まれている遺族もいます。

西ベンガル州に暮らすシバニ・サルダルさん(25)です。出稼ぎ労働者だった夫のサマルさん(27)は事故が起きた特急列車に乗ったことが確認されたあと、行方が分からなくなっています。

事故から1か月がたった今も連絡をとることができず、知人から現場の近くで事故当時の夫とよく似た服装の遺体を見かけたという情報もあったことから、シバニさんは夫が事故で死亡したと考えています。

シバニさんは政府に遺族に支払われる補償金の申請をしましたが、遺体が見つかっておらず、夫が死亡したということを証明できないため、補償の対象外だと言われたということです。このままでは10歳と8歳の2人の子どもを育てるには厳しい状況だといいます。

シバニさんは「夫の死を証明するように言われていますが、証拠がないためできません。常に生活が不安で、どのように生活費や子どもたちの教育費をやりくりすればよいのか分かりません」と話しています。

インドの鉄道専門家 “何かしらの人為的なミスがあった可能性”

インドの鉄道は総距離が6万キロを超え、世界有数の規模を誇り、運賃が安いことなどから国民にとって重要な移動手段となっています。列車事故による死者数は減少傾向にあるものの、多くの死傷者が出る事故はあとを絶ちません。

インド国鉄の元職員で鉄道専門家のスダンシュ・マニ氏は鉄道の安全について、状況は改善されつつあるとする一方、線路や施設などのインフラ設備の老朽化や、列車の衝突を防止する装置の導入が遅れているなど安全管理の体制に課題があると指摘しています。そして今回の事故について、信号の切り替えで何かしらの人為的なミスがあった可能性があるとの見方を示しています。そのうえで、「インドでは適正な本数を超える列車の運行が行われている。列車が走っていない短い時間内に、作業員は点検作業を終えなければならず、必要な作業を省略してしまう傾向がある。安全性を犠牲にして列車を走らせてはならない」と述べました。また、「鉄道安全についてインドが日本から学べることは多い」と述べ、日本から鉄道安全に関するインフラ投資や技術協力などの支援に期待を示しました。