京王線 無差別襲撃事件 初公判 被告側が起訴内容一部争う姿勢

おととし、東京 調布市を走行中の京王線で乗客が切りつけられ、車内が放火された事件で、殺人未遂などの罪に問われている被告の初公判が開かれ、被告側は、放火により乗客が死亡する危険性はなかったなどとして、起訴された内容の一部を争う姿勢を示しました。

無職の服部恭太被告(26)は、おととし10月、調布市を走行していた京王線の車内で、当時72歳の男性の胸をナイフで刺して大けがを負わせたほか、まき散らしたライターオイルに火をつけ、乗客12人を殺害しようとしたとして、殺人未遂や放火などの罪に問われています。

東京地方裁判所立川支部で開かれた26日の初公判で、被告は「男性をナイフで傷つけたことや火をつけたことは争いません。12人が殺人未遂の対象になるかはわかりません」と述べました。

弁護士は「ライターを投げた時点で12人の乗客は逃げていて、死亡する危険性はなく、殺意もなかった」と述べ、12人に対する殺人未遂罪は成立しないと主張しました。

検察は冒頭陳述で「人間関係や仕事でのトラブルをきっかけに大量殺人をして死刑になろうと考えるようになり、人の多いハロウィーンの日に逃げられない特急電車内で乗客を刺して焼き殺す計画を立てた」と主張しました。

また、証拠として被告が、事件のおよそ4か月前にネットショッピングで犯行に使用したナイフを購入していたことや、携帯電話に「逮捕され、死刑になるのが目的」とか「殺害予定は10人」などのメモを書き込んでいたことを説明したほか、映画に登場する悪役「ジョーカー」の格好をして事件の直前にみずから撮影したという写真も法廷内のモニターに映し出されました。

審理は27日以降も続き、判決は7月31日に言い渡される予定です。

事件を起こした背景が明らかに

初公判では、被告が人間関係や仕事でのトラブルなどから人生に絶望し、事件を起こした背景が明らかになりました。

検察と弁護側の冒頭陳述の詳細です。

事件までのいきさつ

事件までのいきさつについてです。

検察は、「高校を卒業後、職を転々としていた被告は、交際していた女性から別れを告げられ、勤務先のコールセンターでもトラブルがあり、死にたいと考えるようになった。大量殺人をして死刑になろうと考え、無差別殺人をしようと刃物を注文した」と主張しました。
また「小田急線内で起きた刺傷事件の報道を見て、人が多いハロウィーンに逃げられない特急電車の中で乗客を刺して焼き殺す計画を立てた」と述べ、事件の2か月前に小田急線で起きた切りつけ事件が引き金のひとつになったと主張しました。

弁護側は、被告の生い立ちも踏まえ、「小学生時代からいじめにあい、中学に入ってからもいじめが続いた。高校卒業後、希望していた介護の仕事に就いたものの、人間関係でうまくいかなくなり、自殺を図るなどした。過去に自殺を図って死ねなかったこともあり、確実に死ぬために死刑になろうと考えた」と説明しました。

争点は“乗客12人への殺人未遂”

争点となったのは、車内にライター用オイルをまいて火をつけた行為が殺人未遂罪にあたるかどうかです。

検察は「ライターに火をつけた時点で、車両の連結部分付近にいた乗客12人が火事で死亡するなどの危険性があった」として、殺人に着手したといえると主張。

弁護側は、12人に対する殺人未遂罪は成立しないと主張しました。
その理由として「ライターに火をつけた時点では具体的な危険性はなく、殺人に着手したとはいえない。ライターを投げた時には乗客たちはすでに逃げていたため、実際に死亡する危険性はなかった」としています。

また、殺意についても、
▽検察が「連結部分に複数の乗客がいることや、人を死亡させる行為であることを認識していた」と主張したのに対し、
▽弁護側は「連結部分にいた人数を12人だと認識していないので、殺意は認められない」と主張しました。

乗客の安全をどう守るか 国や鉄道会社が模索

京王線や小田急線の車内で無差別な襲撃事件が相次いだことを受け、乗客の安全をどう守るか、国や鉄道会社の模索が続いています。

おととし10月に起きた京王線の事件では、「非常通報装置」が複数作動したものの、車掌や運転士がすぐに状況を把握できず、ホームドアと列車のドアがずれた位置で停車したことなどから、多くの乗客が窓から避難する事態となりました。

事件を受けて国土交通省は、車内の状況把握のため防犯カメラなどの設備を充実させることや、ホームドアと列車のドアがずれて停車した場合は双方のドアをあけて誘導するといった対策を示したほか、非常用設備の機能や使い方をわかりやすく表示するためのガイドラインを定めました。

このうち列車内の防犯カメラをめぐっては、今月国の検討会で、利用者が多く輸送密度が一定以上となる主に3大都市圏の路線を走る車両と、すべての新幹線を対象に、ことし9月にも新たに導入する車両には防犯カメラの設置を義務づける方針が了承されました。

すでに京王電鉄では事件を受け、車内の状況をリアルタイムで本社や司令所などと共有できる高性能の防犯カメラの設置を進めていて、5月末時点で87%まで進み、今年度中に全車両への設置を目指しています。

また、改札やホーム、列車内で警戒にあたる警備員の胸に新たに小型のカメラを装着し、万が一に備えて映像を収録する対策も行っています。

ほかの鉄道各社も、有事に備えた訓練といった日頃の取り組みとともに、防犯カメラの設置など新たな保安対策も進めていて、乗客の安全をどう守るか模索が続いています。