熊本の「通潤橋」が国宝に指定へ 近世最大級の石造アーチ

熊本県にある近世最大級の石造アーチとされる「通潤橋」が、国宝に指定されることになったほか、新たに8件が重要文化財に指定されることになりました。

これは、23日に開かれた文化庁の文化審議会で永岡文部科学大臣に答申されました。

新たに国宝に指定されるのは熊本県山都町にある「通潤橋」です。

水源に乏しい周辺の農地を潤すため、およそ170年前に建てられた水路橋で、近世最大級の石造アーチとして技術的にも完成度が高いとされています。

2016年の熊本地震や2018年の豪雨で橋の一部が崩れるなどの被害を受けましたが、復旧工事を経て2020年に放水を再開し、現在も地域の農耕活動を支えているということです。

新たに8件の建造物が重要文化財に指定へ

また、新たに8件の建造物が重要文化財に指定されることになりました。

このうち、京都市の真宗本廟東本願寺内事は、大正時代に建てられた寺の宗主と子弟のための大規模な二世帯住宅で、建築家の武田五一が設計し、和洋を取り入れたデザインが優れているということです。

新たな指定により、建造物の国宝や重要文化財への指定は2565件となります。

山都町 梅田町長 「びっくりしている」

「通潤橋」がある熊本県山都町の梅田穰町長は「正直に言ってびっくりしている。保存活用をどうしていくか、われわれに課せられた大きな課題だと思う。通潤橋は町民の心の支えで、町にとっても通潤橋を盛り込んだ観光がメインとなっている。国宝の指定によって、多くの人に来てもらって通潤橋への認識を深めてもらいたい」と話していました。

土地改良区の理事長「維持管理大変だが国宝に指定され励み」

通潤橋を通して流れる水は、およそ6キロ上流にある川から取水されたもので、水資源の乏しい白糸台地という地域の棚田に送られています。

現在でも155世帯の農家が管理する、およそ108ヘクタールの水田で利用されています。

国宝に指定されることについて、地元の通潤地区土地改良区の阿部主税理事長は「驚きと喜びでいっぱいだ。通潤橋の水がなければ、私たちの地区は米づくりができない。先祖代々、維持管理をしてきたことで、地域の農業が守られているということは、はっきりと言える」と話していました。

通潤橋の水路の土砂を取り除いたり、草刈りをしたりする維持管理の作業は地元の人たちによって続けられていて、阿部理事長は「高齢化もあって維持管理をする作業は大変ですが、国宝に指定されることは作業するうえでの励みになり、これまでどおりがんばっていかなくてはいけないなと思う」と話していました。

専門家 「町全体での保存活用 今回の評価に」

「通潤橋」について、土木工学の専門家で「通潤橋保存に関する検討部会」の座長を務める熊本大学の山尾敏孝名誉教授は「企画立案から完成にいたるまで、地元の役人が主体となって行われ、完成して使われてきた。さらに、今まで残っているということが一番大事なことだと考える。石橋であることに加え、農業用の水利施設でもあるという複合的な構造物であることや、これまで町全体でどうやって守ることができるか研究し、保存活用をしてきたことが、今回の評価につながったと考えられる」と話しました。

また、熊本地震や豪雨災害からの復興のため、内部調査をできたことが、優れた技術の評価の裏付けになったとしたうえで、今後の国宝としての保存活用について、「今後も調査研究をしながら維持管理をしていくとともに、国宝になった理由を、多くの人にきちんと説明していく工夫が必要だと思う。通潤橋は放水でよく知られているが、これをきっかけに、放水だけではない通潤橋の価値を知ってもらうことが必要だ」と話していました。

観光客「こんなに大きな石橋 見たことがない」

通潤橋について、福岡県久留米市から来た観光客の男性は「国宝に指定されるのはすごいと思う。こんなに大きな石橋は見たことがない」と話していました。

熊本市から来た観光客の男性は「すばらしいことだと思う。熊本県内で国宝が増えてくれるのはうれしい。農業用水のために緻密に計算し、これだけのものをつくった当時の人たちの知識はすごいと思う」と話していました。