京都 保津川下り 乗客がスマホで撮影した転覆事故の一部始終

今年3月、京都府亀岡市で観光客を乗せた「保津川下り」の船が転覆し、船頭2人が死亡した事故で、運航会社は12日、事故のきっかけとなった船頭の転落を防ぐ安全対策などの再発防止策を公表しました。

事故はなぜ起きたのか、転覆した舟の乗客が撮影していた映像から振り返ります。

(京都放送局 記者 藤井多聞)

舟に何が起きたのか

「保津川下り」の転覆事故で、当時この舟に乗っていて救助された乗客の1人がNHKの取材に応じました。

女性は娘とともに前から2列目の席に座り、娘は当日、スマートフォンで川下りの様子を撮影していました。
撮影された映像では、冒頭、船頭が巧みな話術で乗客を楽しませ、舟は笑い声が絶えません。

その船頭の様子が「大高瀬」と呼ばれる急流に入る直前で一変し、突然、「あかん、あかん、あかん、後ろ行け、後ろ行け」と叫ぶような声を上げます。

舟の後方でかじを取っていた船頭が転落した瞬間とみられ、別の船頭に代わりにかじを取りに行くよう指示しています。

その後、船頭たちは舟を制御しようと慌ただしく動いていますが、乗客はまだ異変に気付いていないように見えます。

異変が起きてから30秒後、船頭の「おさえろ、おさえろ」という声が聞こえたあと、舟は川べりの岩に突っ込んで乗り上げます。
へさきが上を向き、悲鳴が上がる中、女性の前に乗っていた乗客が座った姿勢のまま後ろにずり落ちていく様子がうつっていました。
女性によりますと、娘とともに川に投げ出されたあと、2人とも救命胴衣が膨らまず、女性は浮いたり沈んだりを繰り返しながらおよそ400メートル流され、救助されたということです。

女性は低体温症で1日入院し、今も、事故を思い出すと気分が悪くなることがあるということです。
女性は「流されている間、死を覚悟しました。事故が起きることを前提にした安全対策を講じてほしいです」と話していました。

運航会社 再発防止策を公表

運航会社は12日、事故のきっかけになった船頭の転落を防ぐための対策などを盛り込んだ再発防止策を公表しました。

事故は、観光客25人と船頭4人の合わせて29人が乗った川下りの舟が岩にぶつかって転覆し、全員が川に投げ出されて、船頭の男性2人が死亡しました。

川下りは今も休止されています。

事故について検証を続けてきた運航会社の「保津川遊船企業組合」は12日、再発防止策を公表しました。

それによりますと、今回の事故では船頭とともにかじのグリップも水中に落ちたため、代わりの人がかじをとれなくなり舟を制御できなくなったとして、舟の足場などに転落を防ぐストラップを取り付けるほか、かじもベルトで固定するとしています。
また、救命胴衣については緊急時に膨らむタイプを全員が身につけていましたが、膨らまないまま最長で600メートル流された乗客もいたとして、緊急時にそのまま浮くベスト型などを備えるということです。
このほか、無線機が無く、事故の把握が遅れ、消防への通報までに20分かかったとして、すべての舟に位置情報がわかるGPS機能付きの無線機を置くとしています。

組合は、こうした再発防止策を近畿運輸局などに提出し、運航再開に備えるということです。
「保津川遊船企業組合」の豊田知八代表理事は「この2か月、問題点を洗い出し、専門家の助言も得て対策をつくり上げた。これから実証して対策を強化していきたい」と話しています。

事故については警察と国の運輸安全委員会が原因などを詳しく調べています。