西村経産相 処理水めぐり3県の漁業関係者と相次いで面談

東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を、基準を下回る濃度に薄めて海に放出する計画をめぐって、西村経済産業大臣は福島県などの漁業関係者と面談し、地元の理解を得ながら準備を進めていく考えを示しました。

福島第一原発にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水について、政府は基準を下回る濃度に薄めて海へ放出する方針で、ことし夏ごろまでの放出開始に向けて東京電力が準備を進めています。

こうした中、西村大臣は10日、宮城県と福島県、それに茨城県の漁業関係者と相次いで面談し、計画の進捗状況などを説明しました。

このうち、福島県いわき市では福島県漁連の野崎哲会長らと面談し、西村大臣は「福島第一原発の廃炉を進めるにあたって、処理水の海洋放出は避けて通れない課題だ。廃炉を進めながら、みなさんの漁業のなりわいを継続、両立していけるように取り組んでいきたい」と述べ、地元の理解を得ながら準備を進めていく考えを示しました。
これに対して野崎会長は「従来どおり海洋放出には反対の立場だが、福島県民として廃炉の貫徹は望んでいる。今後も協議しながら道を探っていきたい」と述べました。

処理水の放出にあたっては、安全性を評価するIAEA=国際原子力機関が早ければ今月中にも包括的な評価結果を公表する見通しです。

政府は、その評価結果をもとに国内外への情報発信などを行うことにしていて、ことし夏ごろまでとしている海洋放出の開始に向けて、準備は大詰めを迎えようとしています。

西村経産相「意思疎通を密に」

西村経済産業大臣は漁業関係者との面談のあと記者団に対して「宮城県、福島県、茨城県といずれも切実な声や厳しい意見をいただいた。それぞれの漁業関係者から対話は継続するという姿勢は示されたので、意思疎通を密にして安全性の確保や、風評対策に丁寧に取り組んでいきたい」と述べ、漁業関係者との対話を継続しながら支援策などの検討も進めていく考えを示しました。

また具体的な放出時期について西村大臣は「政府としては春から夏にかけて放出する計画としているが、東京電力が工事を完了することなどが前提だ。工事はまだ完了していないので、具体的な放出時期を決めているわけではない」と述べました。

そのうえで今回が海洋放出前の最後の訪問になるのかという質問に対して「まだ具体的な放出時期も決まっていないので、これが最後通告ということではない。繰り返し丁寧に説明したいと思っているので、私自身が足を運んで意思疎通をはかりたい」と述べました。

福島県漁連 野崎会長「協議を続けていきたい」

福島県漁連の野崎哲会長は、西村大臣との面談のあと「国としてはやむをえず処理水の海洋放出を決定せざるをえなかったので、ご理解いただきたいという話だった。この議論はずっと平行線だと思うが、われわれも福島の廃炉の貫徹そのものは目指している。国も丁寧な説明を続けるということだったので協議を続けていきたい」と述べました。

準備は最終段階に

処理水を薄めて海に流す計画について、政府はことし夏ごろまでに開始する方針を示し、東京電力は放出に使う設備の工事と原子力規制委員会による使用前の検査を早ければ今月中に完了させることを目指していて、準備は最終段階に入っています。

福島第一原発では、汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水が増え続けていて、先月18日時点でタンクの容量の97%にあたる、およそ133万トンに達しています。
東京電力は、政府が決めた方針に従い、処理水に海水を加えて基準を下回る濃度まで薄めたうえで、海底に掘ったトンネルを通じて沖合およそ1キロの地点から海に流す計画です。

処理水は放出の前にあらかじめ専用の浄化設備を使って、トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準以下まで下げられます。

その上で海水を混ぜあわせて、トリチウムの濃度を国の基準の40分の1にあたる1リットルあたり1500ベクレルを下回る濃度に薄めて放出されます。

現地では処理水を薄める設備や海底のトンネルもほぼ完成し、東京電力は設備の工事と原子力規制委員会による使用前の検査を今月中に完了させることを目指しています。

計画に沿って処理水を海に放出した場合の人や環境への放射線による影響について、東京電力は国際的なガイドラインに沿って評価しても十分に小さいと説明し、原子力規制委員会もこの評価を妥当だとしています。
また政府はIAEA=国際原子力機関に要請し、安全性を検証する専門家による調査団の派遣を受けていて、IAEAは早ければ今月中にも包括的な評価をまとめた報告書を公表する見通しです。

政府はIAEAの評価を待って放出を始める方針で、設備の完成と合わせて、早ければ今月中にも放出の前提が整う可能性があります。

漁業者への政府の対応は

福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する計画に対し、福島県や周辺各県の漁業者は新たな風評被害への懸念などから、一貫して反対を訴えてきました。

特に地元の福島県漁連は、政府と東京電力が2015年に「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」という方針を文書で示していたことから、地元の漁業者が理解を示す前に、政府が放出を決めたことに強い反発の声が上がっています。

これに対し政府は、風評被害を引き起こさないよう安全性への理解を全国的に拡大させること、風評被害が生じた場合でも漁業者などが事業を継続できるようにする賠償などの仕組み作りを柱とした行動計画を策定し、消費者や流通業界を含む幅広い層に安全性をPRするなどの取り組みを進めてきました。

さらに政府は福島県や周辺地域の漁業関係者を念頭に、水産物の販路拡大の支援や処理水の放出による風評被害で需要が落ち込んだ場合に、冷凍可能な水産物を買い取る事業などにあてる300億円の基金を設置したほか、全国の漁業者を対象に長期的な事業継続に向けた漁場の開拓などの取り組みを支援するため、500億円の基金を新たに設けました。

政府はこうした支援策を打ち出しながら「理解を得られるよう丁寧に説明を続ける」として、福島県を中心に漁業関係者への説明を数百回行ってきたとしています。

ただ、放出を始めるとしている夏ごろまでに理解を得られる見通しは立っておらず、難しい判断を迫られることになります。