マイナンバーカードをめぐるトラブル 健康保険証でも 対策は?

マイナンバーカードをめぐりトラブルが相次いでいます。マイナンバーカードと一体化した健康保険証「マイナ保険証」について、医師などでつくる団体が調査したところ、他人の情報にひも付けられていたケースが、医療現場で少なくとも85件確認されたことがわかりました。

医師や歯科医師でつくる団体「全国保険医団体連合会」は、「マイナ保険証」について全国の保険医協会などを通じて先月から調査を行っていて、これまでに35都道府県の7208の医療機関から回答を得ました。

その結果、医療現場で「他人の情報にひも付けられていた」というケースが、最近の事例も含めて25都府県で少なくとも85件確認され、別の人の情報が閲覧されるおそれがあったということです。

厚生労働省は、去年11月までに別の人の医療情報が閲覧されたケースが5件確認され、すでに修正されたとしていますが、団体は閲覧された事例はさらに増える可能性があると見ています。

今回の調査では、3929の医療機関がシステムの運用開始以降、何らかのトラブルがあったと回答し、その結果、情報を確認できず、窓口で一時、全額負担してもらったケースは少なくとも533件に上るということです。

厚生労働省は、他人の情報の登録は健康保険の組合の入力ミスが原因とみられるとして、組合などに来月末までに点検して報告するよう要請しています。

医療現場ではトラブル相次ぐ

厚生労働省は質の高い医療の提供につながるとしていますが、現場ではトラブルも相次いでいます。

東京・北区の内科や外科の診察をするクリニックでは、少しでも業務の軽減につながればと、おととしシステムを導入したといい、患者の1割弱が「マイナ保険証」を利用しているといいます。
この日は4桁の暗証番号を忘れたという高齢の女性に、スタッフが付き添ってマスクを外して顔認証で本人確認をするよう案内していました。

ただクリニックによりますと、数日に1度はトラブルが起きているといい、他人の情報が登録されていたケースはないものの、「該当資格なし」と表示されるなど情報を確認できないケースが相次いだといいます。

従来の保険証を持参していなかったため、いったん費用を全額負担してもらった患者が4月以降だけでも10人を超え、全額負担と聞いて発熱などの症状がありながら診察を受けずに帰った患者が2人いたということです。

6月2日からは、厚生労働省が「マイナ保険証」で情報が確認できない場合でも、3割などの自己負担分を払ってもらうよう、運用マニュアルを更新しましたが、クリニックでは実際に無保険だった場合、あとで差額を支払ってもらえるか不安もあるとしています。

ほかにも、患者の名前が丸印となり漢字が正しく表示されないケースや、勤務先の企業や団体を示す記号が表示されないケース、それに読み取り機能がうまく作動しないケースもあったということです。
「マイナ保険証」を数回使った50代の女性

「私は特にトラブルなく毎回ちゃんとできました。正しく運用していただけるなら便利でありがたいですが、トラブルも聞くので他人に自分の情報を見られてしまったら嫌だなと不安はあります」
「いとう王子神谷内科外科クリニック」伊藤博道院長

「他人の情報がひも付くことはあってはならないことで、気が付かずに過去の薬を踏襲して間違った薬を出す危険性があり、アレルギーの情報にも関わる。登録時の入力ミスが修正されマイナ保険証のひも付けがきちんと終わって、みんなが安心して運用できるようになって初めて従来の保険証をなくす議論をしてほしいと思います」

「マイナ保険証」めぐるトラブル 何が起きてる?

「マイナ保険証」は、2021年10月から全国で本格的な運用が始まりましたが、別人の情報が登録されるなどさまざまなトラブルが発生しています。

「マイナ保険証」は、専用のポータルサイトで自分の医療費や薬の情報を確認できます。

また、患者側が個人情報の共有に同意すると、医療機関側も情報を確認でき、国はデータを基により良い医療の提供につながるとしていて、来年の秋には今の健康保険証を廃止する方針です。

しかし、5月、厚生労働省は去年11月までのおよそ1年間に他人の情報が登録されていたケースが7312件確認され、このうち実際に医療費や薬などの情報が閲覧されたケースが5件あったと明らかにしました。

いずれも修正の対応が取られたということです。

ただ、今回の「全国保険医団体連合会」の調査では、医療現場で他人の情報にひも付けられていたケースが、最近の事例も含めて少なくとも85件確認されていて、団体では閲覧された事例はさらに増える可能性があるとみています。

なぜ他人の情報が?

【原因1:登録時のミスが…】

厚生労働省は、健康保険の組合などが、加入者の健康保険証とマイナンバーカードの情報をひも付けて登録した際に、誤って入力したことが原因とみています。

7312件のうち、9割以上の7100件余りは中小企業の従業員が加入する組合「協会けんぽ」の自主点検で判明しました。

「協会けんぽ」は、企業側から加入者のマイナンバーの情報を受け取って登録していましたが、企業側が記入した番号が間違っていたり、親子の情報を取り違えていたりして誤登録が起きたといいます。
【原因2:同姓同名で生年月日も一緒の別人が…】

残りのおよそ200件は、ほかの複数の健康保険の組合で確認されています。

国によりますと、加入者のマイナンバーが分からず住民基本台帳のシステムに照会して保険証にひも付ける作業をしていたところ、カタカナの氏名と生年月日、それに性別の3つの情報だけで調べたため、同姓同名の別人を誤登録してしまったケースなどが起きたということです。

別人情報の登録 再発防止策は?

厚生労働省は、すでに修正済みの7300件余り以外にも、誤った登録がなかったか、およそ3400ある全国すべての健康保険組合に、点検して7月末までに報告を求めています。

また今後、住民基本台帳のシステムで照会する際は、カタカナの氏名と、生年月日、性別だけでなく、漢字の氏名と住所の5つが一致しているか確認の徹底を求めています。

国は、こうしたデータ入力時のヒューマンエラーをチェックするためのシステムの改修も進めていますが、来年度になるということです。

ほかにもトラブル 一時全額負担や勝手にひも付けも

医療現場では「マイナ保険証」では登録情報を確認出来ず、患者に窓口で一時全額を負担してもらうケースも出ています。

国は6月、運用マニュアルを更新し、医療機関に対し、3割などの自己負担分を窓口でいったん支払ってもらい、後日正確な情報を確認するよう求めています。

このほか国によりますと、本人が希望していないにもかかわらず、健康保険証とマイナンバーカードが一体化されていたケースが5件確認されました。

国は意向確認を徹底するよう自治体に周知しています。

私たちができることは

厚生労働省は、自分の情報が正しく登録されているかは、専用のポータルサイトで確認ができるとしています。

もし医療機関や薬局で別の人の情報が表示された場合などは、「国民向けマイナンバー総合フリーダイヤル」0120-95-0178に問い合わせてほしいとしています。

“命や健康に直接関わる重大な問題に発展する可能性も”

マイナンバー制度に詳しい中央大学の宮下紘教授は「マイナンバーカードをめぐるさまざまなトラブルの中で一番大きなリスクに発展する可能性があるのが『マイナ保険証』だ。ヒューマンエラーで別人の情報が登録されてしまいその情報をもとに患者の取り違えが起きると、飲んではいけない薬を飲んでしまう人の命や健康に直接関わる重大な問題などに発展する可能性があり、ほかのトラブルとは質が違う」と指摘しています。

その上で、政府が今の健康保険証を来年秋に廃止する方針について、「誤入力が見られる状況であり、やや性急な印象だ。ミスを総点検し、リスクがなくなくなったと確認できてから、『マイナ保険証』を広く使っても決して遅くない。従前から使ってきた保険証の方が利便性があると感じる方もいると思うので、現在『1年』としている併用期間を長く認め、新たに出てきたトラブルに対処していく。そうした進め方の方がマイナンバー制度全体への信頼が高まると考えている」と話しています。