LGBT法案 衆院内閣委で与党案の修正案可決 来週にも衆院通過へ

LGBTの人たちへの理解増進に向けた法案は、自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党の4党が合意した与党案の修正案が衆議院内閣委員会で可決されました。修正案は来週にも衆議院を通過する見通しです。

LGBTの人たちへの理解増進に向けた法案は、自民・公明両党の与党案と、野党側からも立憲民主党や共産党などの法案、日本維新の会と国民民主党の法案のあわせて3案が提出されています。

衆議院内閣委員会で審議が始まるのに先立ち、9日朝に自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党の4党の国会対策委員長が国会内で会談し、維新の会などが提出した法案の内容を盛り込んで、与党案を修正することで合意しました。

修正案では「性同一性」という表現を「ジェンダーアイデンティティ」に改めるほか、性的指向などの多様性に関する学校教育について「家庭および地域住民その他の関係者の協力を得つつ行う」という文言を新たに加えています。

衆議院内閣委員会では、修正案について、自民党が「4党で法案をよりよくするための修正だ」と理解を求めたのに対し、立憲民主党は「修正案が出てきたのはけさであり、もっとしっかり中身を議論すべきだ」と指摘しました。

そして採決が行われた結果、与党案の修正案が自民・公明両党と維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決されました。

4党は、修正案を来週にも衆議院を通過させ、今の国会で成立させたい考えです。
与党案の「性同一性」という表現は、おととし超党派の議員連盟がまとめた法案の「性自認」という表現をめぐって、自民党内から「男性が『性自認は女性だ』と偽って女性用のトイレや風呂に入るなど、悪用されるおそれがある」という指摘が出たことを踏まえ、より客観的な表現だとして改められました。

これに対し、立憲民主党などが「変えるべきではない」と反発していたところ、日本維新の会などは「どちらの表現も英語にすれば同じだ」として「ジェンダーアイデンティティ」という表現を用いる案を提案していました。

自民党内には「むやみに英語表現を使うべきではない」などと慎重な意見もありましたが、なるべく多くの党の賛同を得たいとして、修正することを決めました。

《修正案に合意した4党国対委員長は》委員会採決前

自民 高木国対委員長“維新と国民が提出した法案ほぼ受け入れ”

自民党の高木国会対策委員長は、記者団に対し「自民党として、幅広い賛同を得ることが必要だと考え、法案を修正することにした。内容は、日本維新の会と国民民主党が提出した法案をほぼ受け入れたと考えて頂いていい。修正により、多くの国民に理解していただきたい」と述べました。

公明 佐藤国対委員長「法案に安定性持たせることが極めて大事」

公明党の佐藤国会対策委員長は、記者団に対し「修正しても与党案の骨格は変わらず、法律的な意味の変化もなく、与党として、より幅広い賛同を得て法案に安定性を持たせることが極めて大事だ。衆議院だけでなく、参議院でも十分に審議を行って、いまの国会での成立に全力を尽くしていきたい」と述べました。

維新 遠藤国対委員長「国民の理解 深まる法案になれば」

日本維新の会の遠藤国会対策委員長は、記者団に対し「『性自認』か『性同一性』かで 国民の中に不安や不信が渦巻いていたが、それを柔らかくするための最大の表現が『ジェンダーアイデンティティ』だ。完璧だとは言わないが、国民の理解が少しでも深まる法案になればと心から願っている」と述べました。

国民 古川国対委員長「与党に受け入れられたという判断で合意」

国民民主党の古川国会対策委員長は、記者団に対し「修正内容は、われわれが日本維新の会と出した法案の内容を丸のみしており、与党に受け入れられたという判断で合意した。急な話ではあったが、世の中のためを考えれば、判断は好ましいのではないか」と述べました。

《各党や政界の反応は》

自民 世耕参議院幹事長 “党議拘束外す必要はない”

LGBTの人たちへの理解増進に向けた法案をめぐって自民党の代議士会では、「内心に関わる問題だ」などとして、採決の際、党議拘束を外すよう求める意見が出されました。

これについて、世耕参議院幹事長は記者会見で「基本的に、わが党は総務会で了承された案件は党議拘束が自動的にかかるというのが運営のルールだ」と指摘しました。

その上で、公明党と日本維新の会、国民民主党との間で与党案の修正が行われたことについて「党議拘束を外すよう求めている人たちも率直に賛成しやすい内容になったのではないか」と述べ、党議拘束を外す必要はないという考えを示しました。

立民 泉代表「まさか野党側が崩れ与党側に乗るとは想定せず」

立憲民主党の泉代表は、記者会見で「自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党によって、超党派の議員連盟でまとめた案よりも後退した案が可決されるのではないかという状況は本当に残念だ。まさか野党側が崩れて与党側に乗るということは想定していなかった。『性自認』という表現のわれわれの法案がベースであるべきだ」と述べました。

立民 安住国対委員長「英語をそのまま法律に使うことは汚点に」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し「日本語に訳すと面倒くさいから『ジェンダーアイデンティティ』という英語をそのまま法律に使うことは、日本の保守政治家のやることではなく恥ずかしい話だ。日本の法律史上、まれにみる汚点になる」と批判しました。

維新 馬場代表「代替案を出して正すことが野党のあるべき姿」

日本維新の会の馬場代表は、LGBTの人たちへの理解増進に向けた法案で、維新の会などが主張した内容を盛り込む修正が行われたと指摘したうえで「協議をして、お互いが納得できる形で決着させることが国会の中で戦うということだ。 政府や与党の案がいつも正しいわけではないので、代替案を出してただしていくことが、これからの野党のあるべき姿だ」と強調しました。

公明 石井幹事長「維新・国民案を丸飲みしたものではない」

公明党の石井幹事長は、記者会見で「幅広い合意によって、法案としての安定性が高まると判断して修正に応じた。維新・国民案を丸飲みしたものでは決してなく、骨格は与党案であると理解している」と述べました。そのうえで「法案の成立によって、多様性が尊重され、すべての人が互いの人権や尊厳を大切にする共生社会につなげていく大きなきっかけになるのではないか」と指摘しました。

共産 田村政策委員長「差別と偏見を助長しかねない」

共産党の田村政策委員長は、記者会見で「超党派の議員連盟と当事者で議論を重ねてきた方向から遠ざかるほうへと事態が進んでしまったことは極めて重大だ。差別と偏見を助長しかねないものになっていて、参議院では、当事者も含め、十分に時間をとって審議を行うべきだ」と述べました。

国民 榛葉幹事長「野党第一党の立憲民主党が反対したのは残念」

国民民主党の榛葉幹事長は、記者会見で「最後まで粘り強く交渉してよりよいものをつくろうと、与野党を超えて4党が『対決より解決』を選び、ぎりぎりになって成案を得たことは評価したい。野党第一党の立憲民主党が反対したのは残念だ」と述べました。

松野官房長官「国会において議論が進むことを期待している」

松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「いずれも議員立法であり、政府としてその内容や審議スケジュールについてコメントする立場にないが、国会において議論が進むことを期待している」と述べました。その上で「多様性が尊重され、すべての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向け、引き続きさまざまな国民の声を受け止め、しっかりと取り組んでいく」と述べました。