政府「新しい資本主義」改訂案 労働市場改革や生成AI強化など

政府は6日、「新しい資本主義」の実行計画の改訂案を示しました。構造的な賃上げを実現するため、リスキリング=学び直しの支援などを通じた労働市場改革の推進や、新たな産業創出に向けた生成AIの研究開発の強化などを盛り込んでいます。

政府は6日、「新しい資本主義実現会議」を総理大臣官邸で開き、岸田総理大臣が掲げる「新しい資本主義」の実行計画の改訂案を示しました。

改訂案では「新しい資本主義」に基づく政策は、30年ぶりの高い水準の賃上げにつながるなど着実に進展しているとする一方、新たな課題として、労働市場の硬直化や投資の遅れなどを明記しています。

そのうえで、構造的な賃上げには成長産業への労働移動の円滑化が欠かせないとして、個人のリスキリングの支援などを通じた労働市場改革を推進していくとしています。

また、国内投資の拡大に向けて、各地で半導体やバイオなどの戦略分野の大規模な産業拠点の立地を促進するため、税制や予算面での支援を検討するとしています。

さらに、急速に普及する生成AIについて、各国に遅れはとれないとして、個人情報の漏えいなどへの対応を進めつつ、新たな産業創出に向けて研究開発を強化していくとしています。

会議で、岸田総理大臣は「民間でも賃上げや投資などの面でこれまでの悪循環を断ち切る挑戦が確実に動き始めている。こうした動きをさらに持続的・構造的なものにしていくため、計画の改訂を行うこととした。関係大臣が協力して調整を進めてほしい」と述べました。

政府は、与党とも調整したうえで、今月中に計画の改訂を閣議決定する方針です。

「新しい資本主義」の実行計画の改訂案の主な内容です。

【新しい資本主義の評価】

改訂案では冒頭、30年ぶりの高い水準の賃上げや、企業の投資意欲の高まりなど「新しい資本主義」の実現に向けた政策が着実に進展してきたとする一方、少子高齢化による国内市場の縮小や労働市場の硬直化、投資の遅れなどの課題も明らかになったとして、対応の必要性を指摘しています。

そして構造的な賃上げには、成長産業への労働移動の円滑化が欠かせないとして、個人のリスキリング=学び直しの支援などを通じた労働市場改革を推進していくとしています。

【労働市場改革】

具体的には、リスキリングに労働者が取り組みやすくするため、5年以内をめどに財政支援の比重を企業から個人に改めていく方針です。

また、勤続年数などではなく、仕事の難易度に応じた職務給の制度を日本でも広げる必要があるとして、導入企業の先行事例などを年内にまとめて公表するとしています。

さらに失業給付について、自己都合で離職した人でもリスキリングに取り組んでいれば会社の都合で辞めた場合と同様に受け取れるよう、支給要件を緩和する方向で具体的な設計を行うことも盛り込まれています。

このほか、勤続20年を超えると退職金への課税が大幅に軽減される措置が転職などを阻害しているという指摘を踏まえ、影響に留意しつつ、税制の変更を行うとしています。

そして、格差の是正策として、全国平均の最低賃金をことし中に時給1000円にすることを含め、議論する方針です。

【国内投資の拡大】

また国内投資の拡大に向けて、半導体、蓄電池、バイオなどの戦略分野の投資を促進するため、税制や予算面での支援を検討するとしています。

このうち、半導体の分野では、海外の半導体メーカーの国内誘致や製造装置の導入、それに人材育成を進めるとしています。

そして、日米両国やヨーロッパの有志国が参加する次世代半導体に関する政府レベルの枠組みを設置し、2020年代のうちに次世代半導体の設計や製造基盤を確立することなどを盛り込んでいます。

さらに、AIの利用の急増で情報処理が増加することを踏まえ、データセンターの分散的な立地を段階的に進めるほか、有志国などと連携し、国際海底ケーブルの複線化を速やかに進める方針です。

【生成AIの活用】

世界で急速に普及する生成AIについては、国際的な議論や多様なリスクへの対応を進めつつ利用促進や開発力の強化を図ることを明記しています。

具体的には、政府機関での生成AIの活用は機密情報漏えいなどのリスクがある一方、業務の効率化などに有効な可能性もあるとして、試験的な利用を開始して知見を集積し、共有するとしています。

また、教育現場でも教員の負担軽減などの可能性がある反面、生成AIが宿題に使われるなどの課題もあることから、利用に関するガイドラインをことしの夏までに策定するとしています。

さらに、AI利用の加速に向けて、医療や介護、行政など、幅広い分野でのデータ連携基盤の構築やAI向けの計算に適した電力消費が少ない半導体などの開発を進める方針です。

【スタートアップ支援、企業の参入・退出の円滑化】

革新的なビジネスを生み出すスタートアップ企業を支援するため、投資額を今後5年間で10兆円規模に拡大することを大きな目標に掲げて官民一体で取り組むとしています。

さらに、将来的に10万社のスタートアップを創出することなどにより、アジア最大の「スタートアップハブ」として世界有数の集積地になることを目指すほか、企業が報酬として従業員などに与える自社株購入の権利「ストックオプション」の活用に向け、会社法の改正や税制の見直しを検討する考えです。

そして、スタートアップの創業から5年未満の場合、個人保証を求めない新しい信用保証制度の活用を促進することや、事業の再構築のため、債務の減額を容易にする法律を早期に国会に提出する方針を盛り込んでいます。

【その他】

このほか、国内外の資産運用事業者の新規参入の支援を拡充し、新たな金融商品の開発能力の向上などといった環境整備を推進するため、具体的な政策プランを年内にまとめるとしているほか、認知症などの脳神経疾患に対応するため、新たな脳科学に関する国家プロジェクトを創設し、予防や進行の抑制、治療法などを開発するとしています。