去年の出生率1.26で過去最低 7年連続で前年を下回る

1人の女性が産む子どもの数の指標となる出生率は去年1.26で、7年連続で前の年を下回り統計を取り始めて以降最も低くなったことが厚生労働省のまとめで分かりました。

厚生労働省は2日、去年の「人口動態統計」の概数を公表しました。

それによりますと1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」は、1.26でした。

おととしの確定値と比較すると0.05ポイント低下していて、前の年を下回るのは7年連続となります。

1947年に統計を取り始めて以降では2005年の確定値が今回と同じ1.26で過去最低でしたが少数点以下の詳細な数字の比較で今回は2005年を下回っているということです。

都道府県別の合計特殊出生率は

都道府県別で最も高かったのは
▽沖縄県で1.70
次いで
▽宮崎県が1.63
▽鳥取県が1.60でした。

一方、最も低かったのは
▽東京都で1.04
次いで
▽宮城県が1.09
▽北海道が1.12でした。

また去年1年間に生まれた日本人の子どもの数は77万747人で、おととしより4万875人減少し1899年に統計を取り始めて以降、最も少なくなり、初めて80万人を下回りました。

一方、死亡した人の数は156万8961人とおととしより12万9105人増加し、統計を取り始めて以降、最も多くなりました。

このほか結婚の件数は、おととしが戦後、最も少なくなるなど減少傾向が続いていましたが、去年は50万4878組と、3年ぶりに増加に転じました。
(前年比:3740組増)

離婚の件数は17万9096組で3年連続で減少しました。
(前年比:5288組減)

厚生労働省は「少子化が進む背景には結婚や出産、子育ての希望の実現を阻むさまざまな要因が複雑に絡み合っていて、新型コロナの流行も結婚や妊娠に影響した可能性があるのではないか」としています。

出生数は減る一方

1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」は確定値で統計を取り始めた1947年は4.54でした。

その後は低下傾向が続き1961年は1.96と初めて2を切り、2005年には1.26まで低下しました。

翌年の2006年からは一時、増加傾向となり2015年には1.45まで増加しましたがその後は再び低下傾向となり、おととし(2021)は1.30でした。

また出生率の低下傾向とともに出生数も減少が続いています。

日本人の出生数は確定値で統計を取り始めた1899年は138万6981人でした。

その後、増加傾向が続き第1次ベビーブームにあたる(昭和22年~24年)1949年には最多の269万6638人に上りました。

そのあとは減少傾向となり、1960年代から1970年代半ばごろにかけて一時、増加に転じ第2次ベビーブームにあたる(昭和46年~49年)1973年には209万1983人に上りましたが、その後は再び減っていきました。

1990年代は120万人前後で推移していましたが、2000年代に入るとさらに減少傾向となり、2016年には97万7242人とはじめて100万人を下回りました。

理想の数の子どもを持たない理由は

理想の数の子どもを持たない理由について国の調査では経済的な理由を挙げる夫婦が最も多くなっています。

国立社会保障・人口問題研究所が5年に1回程度行っている出生動向基本調査では、夫婦が「理想とする子どもの数」は2021年の時点で2.25人で、前回の調査(2015年)より0.07人低下しています。

また「予定している子どもの数」が「理想とする子どもの数」を下回っている夫婦に対して理由を複数回答でたずねたところ
最も多かったのが
▽「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」 52.6%
次いで
▽「高年齢で生むのはいやだから」 40.4%、
▽「ほしいけれどもできないから」 23.9%、
▽「これ以上、育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから」 23.0%
▽「健康上の理由から」 17.4%、
▽「自分の仕事に差し支えるから」 15.8%
などとなっています。

子育て世代の声は

去年の出生率が統計を取り始めて以降最も低くなったことについて子育て世代の親に聞きました。

2歳と0歳の2人の子どもを育てる30代の母親は「日本の出生率はほかの国と比べても低いほうだと思いますし、仕事をしたくても子どもを預ける場所が見つからないこともあるなど子育てしにくい国なのかなと感じています。本当は3人目の子どもも欲しいですが経済的にも苦しく難しいです」と話していました。

2歳と0歳の2人の子どもを育てる父親は「結婚している人が減っているとこともあると思いますし、若い人のお金がないことも大きいと思います。若い人向けの施策を充実させてほしいと思います」と話していました。

1歳の子どもを育てる30代の母親は「そもそも子どもはいらないという知人も多く、昔と違って結婚したら子どもを持つという人だけではなくなっていると思いますが、子どもが欲しいと人が諦めずにすむようなサポートがあるといいと思います」と話していました。

過去最低の出生率で方針転換 兵庫県加西市

出生率が1.0を割り込むまで低下し、将来への危機感から子育て支援策を大幅に拡充する方針転換を行った自治体があります。

兵庫県の中山間地域にある人口およそ4万人の加西市は、ここ10年ほど出生率が国や県の水準を下回る状況が続いていて、おととし(令3)は過去最低の0.91にまで減少しました。

さらに1年間に生まれた子どもの数も減少傾向が続き、令和3年度は174人とこちらも過去最少となりました。

以前から若い世代の定住促進などに取り組んできましたが、このまま減少傾向が続けば地域の活力や産業を維持できないとして昨年度(令和4)からは子育て支援策を拡充したうえで、市の中心施策としてPRしています。

その中身は
▽0歳から5歳までの保育料の無料化
▽すべての保育施設や学校での給食費の無料化
▽高校3年生までの医療費の無料化
▽1歳までの子どもがいる世帯へのおむつなどの無料宅配
▽子どもが病気で学校や保育園などに通えない場合に利用する「病児・病後児保育」の無料化です。

所得制限はなく、市の試算では子どもが生まれてから高校卒業まで1人につきおよそ250万円分の負担軽減になるとしています。

5項目に及ぶ無料化は全国的にも珍しく、市内で子育て中の母親からは「他の市では給食費とか教材費とかいろいろかかると聞きますが、加西市では保育料も給食費も医療費も無料ということで、1人あたりにかかる費用が大きく軽減されているのでとてもありがたいです。子育てにお金があまりかからないので、もう1人子どもがいてもいいかなと考えています」という声が聞かれました。

一方で加西市の子育て支援関連の予算は5つの無料化を始める前と比べ2倍以上に増加しています。

市は好調なふるさと納税を財源にあてることで、今後、10年程度は支援を継続できるとしています。
加西市人口増政策課の小菊啓靖課長は、「少子化による影響は小学校の統廃合や町の行事ができなくなるなどの社会的な影響のほか、もの作りや農業など産業の担い手がさらに減少することにもなります。10年後、20年後も見据えた持続可能なまち作りを考えると早急な対応が必要で、安心して出産や子育てができる環境の整備に市をあげて取り組んでいきたい」と話していました。

専門家「成長段階に応じた多岐にわたる支援を長期的に」

少子化の問題について経済学の観点から研究している東京大学大学院経済学研究科山口慎太郎教授は去年の出生率が過去最低になったことについて、「若い世代が安心して家庭を持つことができない経済状況になっていることや女性の社会進出が進む一方で家事や育児の負担が女性に偏っていることなどの社会問題に加え、子どもを持たないことや結婚をしないことへの価値観の変化といった要因も重なっているのではないか」と分析しています。

また、少子化が社会に与える影響について、「少ない現役世代で多くの引退世代を経済的に支えなければならないので、社会保障の財政がかなりひっ迫してしまう。また人口規模が減ると生産性が上がらなくなり、1人あたりのGDPも下がるため結果として生活水準が下がることになる」と指摘しています。

その上で、国に対しては「子どもを望む人と実際に持てている人との間に大きな開きがあることは憂慮すべき事態で改善に取り組む必要がある。ただ、手厚い支援であっても継続して行われなければ誰もが安心して子どもを持てるような世の中にはならないので、子どもを持つ前の段階から成長段階に応じた多岐にわたる支援を長期的に行っていくことが求められる」と話しています。

また、自治体の取り組みについては「出生率の減少に危機感を持っている自治体は積極的に対策を行っているが、中でも実際に出生率が上昇している自治体では、給付やサービスの充実のほか子どもや子育てをしている人を応援する機運も地域全体で生み出していると感じる。少子高齢化や人口流出の深刻度は地域によって異なるが、こうした成功事例も参考にしてほしい」と話していました。