“同じ部屋にいるだけで空気感染も” はしかの怖さは【6/1版】

国内で「はしか」の感染が広がりつつあります。

はしかは同じ部屋にしばらくいるだけで空気感染し、発症すると重症化して命に関わることもあり、専門家は「侮ってはいけない病気だ」と警戒を呼びかけています。

最新の感染状況、症状の特徴、感染が疑われる場合の対処法などについてまとめました。(6月1日現在)

広がりつつある「はしか」 これまでに6都府県10人

感染力が強い「はしか」。

それを端的に示すケースがことし報告されました。

4月、インドから帰国した茨城県内の30代の男性の感染が確認。
その後、同じ新幹線に乗っていた東京都内の30代の女性と40代の男性の感染が確認されました。
さらに、その後、この男女のどちらかと接触した子ども2人の感染も確認されています。

国立感染症研究所は「感染性を有する期間に不特定多数の方と接触があった可能性があり、今後、広域的な感染拡大の可能性が危惧される」として注意を呼びかけています。

国立感染症研究所などのデータでは、ことしの感染者数は先月21日の時点で10人となりました。
21日までの1週間で3人増えました。

感染者の報告があった地域は、茨城県、東京都、神奈川県、新潟県、大阪府、兵庫県の6都府県となっています。
はしかの1年間の感染者数は、全数調査が始まった2008年には国内で大規模な流行があり1万1013人に上りました。

しかし2015年には35人にまで抑え込み、すべて海外から入り込んだケースだったため、日本はWHO=世界保健機関からはしかの「排除状態」にあると認められました。

2019年にははしかの感染の報告が相次ぎ、1年間で744人が感染したと報告されましたが、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降は海外との人の往来が少なくなったこともあって低い水準となり、おととしは6人、去年も6人でした。
ことしは5月の時点ですでに上回っています。
はしかに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授
「インドから帰国した人をきっかけに3次感染まで起きていて、さらに感染が広がるのか、収束するのか、注視する必要がある」

“同じ室内にいただけでほぼ確実に感染” 極めて高い感染力

はしかに警戒が必要な理由は、感染力が極めて強く、重症化したり死亡したりするケースがあることです。

はしかはウイルス性の感染症で、患者がせきやくしゃみをすることで放出された粒子にウイルスが含まれていて、それを吸い込むことで感染します。

空気感染のほか、飛まつや接触を通じて広がることもあり、感染力は極めて強く、免疫がない場合、感染者と同じ室内にいただけでほぼ確実に感染するとされています。

まわりの人に免疫がなく、対策がとられない場合、患者1人から何人に感染を広げるかを示す「基本再生産数」は「12から18」とされ、「2から3」ほどとされてきた新型コロナウイルスなどより感染力は格段に強いとされています。
先月、新幹線で同じ車両に乗っていた人で、感染が確認されたほか、2019年には、大阪の商業施設でアルバイト店員の感染が確認され、売り場を訪れていた買い物客らに感染が広がりました。
国立感染症研究所ではしか対策に取り組んできた神奈川県衛生研究所の多屋馨子所長
「同じ場所に数分間、短い時間一緒にいるだけで感染してしまう可能性がある。それほど感染力が強い病気だ」

症状は?重症化・死亡のケースも

はしかに感染したときに出る主な症状は、発熱やせき、発疹などです。

中山特任教授によりますと、熱は2日ほどでいったん下がったあと再び上がるのが特徴で、40度近くまで上がり、発熱は1週間ほど続くということです。

また、発疹は症状が出始めてから数日たたないと出ないため、最初のうちは、はしかと判断しにくいこともあるということです。

さらに、感染による合併症として肺炎や脳炎が引き起こされ、重症化するケースもあります。

特に脳炎については、およそ1000人に1人の割合で起き、中には亡くなるケースもあります。

アメリカのCDC=疾病対策センターによりますと、はしかに感染した子ども1000人中、1人から3人は、呼吸器や神経系の合併症で亡くなるとしています。

「『命取りの病気』と言われる」

はしかウイルス
はしかの特効薬はなく、症状に応じた治療をするしかないため、専門家はワクチンなどで感染を防ぐことが重要だとしています。

2007年には、日本国内でワクチンを接種していない0歳から1歳の子どものほか、1回しか接種していない10代や20代を中心に感染が広がりました。

また、中高年でも、感染を経験しておらず、ワクチンを接種していないか1回しか接種していない人では、感染した場合は命にかかわることもあるとして、専門家は注意を呼びかけています。

中山特任教授は「はしかの最も重篤な合併症は脳炎で、熱が出て発疹も出ているときに、トロトロとして呼びかけても反応しないような状況が続くのが初期症状だ。はしかは昔から『命取りの病気』と言われる。特効薬もなく、侮ってはいけない病気だと認識してほしい」と話しています。

そして、感染が疑われる場合は医療機関に連絡したうえで受診してほしいと呼びかけています。

妊娠している女性は特に注意を

妊娠している女性は、特に注意が必要です。

妊婦がはしかに感染すると、合併症のリスクが高いとされ、流産や早産の可能性も指摘されています。

また、感染を防ぐためのワクチンは、ウイルスの毒性を弱めた「生ワクチン」で、妊娠している場合は接種を受けることが適当ではないとされています。

はしかを防ぐためには、あらかじめワクチンを接種しておくことが大切です。

ただ、妊娠していることに気付かずにワクチンを接種してしまっても、リスクは低いとされています。

治ったと思っても…長い潜伏期間を経て脳炎を発症することも

はしかが治ってから5年ほどたって以降、10万人に1人の割合で「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という病気を発症することがあります。

SSPEは、中枢神経系に潜んでいたはしかのウイルスの感染によって、長い潜伏期間を経て発症します。

元気に暮らしていたのにもかかわらず、急に日常の行動ができなくなったり、異常な行動が目立つようになったりすることがあり、亡くなることもあります。

国立感染症研究所によりますと、はしかのウイルスに2歳未満で感染し、4年から8年の潜伏期間の後、6歳から10歳ごろに発症することが多いとされていますが、成人でも発症するケースもあるとしています。

多屋所長は「ワクチンを接種して、はしかへの感染を防ぐことが重要だ」と指摘しています。

海外旅行での感染にも注意

国立感染症研究所は、新型コロナの影響で制限されていた国際的な人の往来が徐々に増えていることも、はしかの感染拡大に影響する可能性があると指摘しています。

WHOやCDCによりますと、現在インドやインドネシアなどではしかの感染が拡大しています。

このうちインドネシアでは去年以降、感染者数が大幅に増加していて、ことし1月からのおよそ3か月間ではしかが疑われるケースが2100件報告されているということです。

専門家は、海外旅行に出かけた際に感染し帰国後に発症するケースや、海外から日本を訪れた観光客が感染しているケースもありうるとしています。

また、ことしの夏休みに海外旅行を予定している場合、ワクチンの接種歴などを確認しておくことが大切だとしています。

はしかかな、と思ったら 受診前に連絡を

はしかのウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期間は10日から12日とされています。

はしかは、発熱やせき、鼻水といった症状が出ているときに特に周囲に感染を広げるため、はしかを疑って受診する場合、連絡なしに医療機関を訪れるのではなく、医療機関や保健所に事前に電話して、指示をあおぐことも大切です。

また、厚生労働省は、感染を疑う症状がある場合には公共交通機関の利用を控えるよう呼びかけています。

ワクチン接種でほぼ確実に予防できる

はしかはワクチン接種で、ほぼ確実に予防できるとされています。

日本では予防接種法に基づくはしかのワクチンの無料での定期接種は1978年10月に開始されました。

その後1歳の時点での1回の接種だけでは免疫が下がることがあると分かり、2006年6月からは、はしかと風疹を予防する「MRワクチン」が使用され、1歳のときと小学校に入学前の1年間のあわせて2回行われています。

中山特任教授によりますと、ワクチンを2回接種することで95%以上有効とされ、免疫はほぼ生涯続くということです。

現在は、はしかと風疹の混合ワクチンの接種が行われています。

そのワクチンの添付文書によりますと、接種後の副反応として記載されているのはメーカーによって異なるものの発熱が「5%以上」から「28.3%」、発疹が「5%以上」などとなっています。

はしか単独のワクチンを接種していた1984年から2008年までに440万人を対象にした調査では、発熱があった人が10%から20%、発疹が出た人が5%から10%だったとしています。

また脳炎になった人が2人いたということですが、中山特任教授によりますと、ワクチンとは異なるタイプのウイルスの遺伝子が検出されるなどワクチンとの関連は考えにくいということです。
厚生労働省や国立感染症研究所によりますと、1歳時点のはしかのワクチンの接種率は2010年度以降、目標としている95%を連続で上回っていましたが、2021年度は93.5%に下がりました。

厚生労働省は新型コロナの影響で医療機関や保健所がひっ迫したことや、医療機関の受診を控えるなどして接種を受けられなかった人がいたとみられるとしています。

このため厚生労働省は、新型コロナの影響で定期接種の期間中に接種できなかった場合には期間外でも定期接種と同様に扱うことができるよう運用していて、定期接種の対象者とあわせて接種を呼びかけるよう自治体に求めています。

接種率が数ポイント下がったことについて、専門家は懸念を抱いています。

神奈川県衛生研究所 多屋所長
「1歳の時点でワクチンを受けそびれると、次は小学校の入学前まで接種の機会がない。この接種率が続くと、毎年5万人程度の子どもたちが、はしかのワクチンを受けていないということになり、社会全体に大きなインパクトを与える危機的な状況だ。感染が拡大するとワクチンが不足する事態も考えられるので、今のうちに接種を受けてほしい」

接種したかわからない…そんな時は抗体検査を

おおむね50代以上の人は1回も接種したことがないと考えられます。

それ以降で1990年4月1日までに生まれた33歳から40代の人は子どもの頃に1回接種を受けたとみられ、1990年4月2日以降に生まれた人は2回接種の対象になっています。

子どもの頃に何らかの事情でワクチンを接種していない人もいます。

ワクチンの接種歴を調べる確実な方法は母子健康手帳で確認することです。
母子健康手帳を確認できない場合は、抗体検査を受けて調べることもできます。

また、子どもの頃などに、はしかに感染した場合には、抗体がある可能性もあります。

かかりつけのクリニックや、近所の内科などで「はしかの抗体があるか調べたい」と伝えて受診すれば調べることができます。

結果が判明するまでに1週間ほどかかり費用も数千円必要ですが、確実とされています。

専門家は「ワクチンの接種歴が分からないのであれば、いますぐにでも検査を受けてほしい」と強調しています。

また、はしかの抗体と同時に、風疹やおたふくかぜ、水ぼうそうの抗体も調べることをすすめています。

そして、抗体が十分でなかった場合は、成人であってもワクチンを接種するようすすめています。

厚生労働省は、はしかにかかったことがなく2回の接種を受ける機会がなかった人のうち、特に、医療関係者や児童福祉施設の職員、学校の職員など、はしかにかかるリスクが高い人や、かかることで周りへの影響が大きい人、それに流行国に渡航する予定がある人には、かかりつけ医に相談するなどして接種を検討してほしいとしています。

国立感染症研究所も、はしかの予防にはワクチン接種が最も有効だとして、観光客と接する機会の多い人や、医療関係者、はしかの流行している海外へ出かける予定のある人などに、ワクチンの接種歴を確認してほしいと呼びかけています。
中山特任教授
「はしかはどこで誰が感染するか分からない。治療法がなく命に関わる可能性もあり、ワクチンで予防することの重要性はかなり高い。はしかに感染することを考えればワクチンの副反応は重くなく、てんびんにかけるとメリットはかなり高いと思う。はしかの患者数は減ってきて自然感染してしまうという恐怖が薄らいできているが、はしかの恐ろしさを再認識してほしい」