大学生の採用面接スタート 内定率すでに7割超 前倒しで課題も

来年(2024年)春に卒業する大学生などを対象にした企業の採用面接は、政府のルールで6月1日から始まりました。

ただ、人材不足を背景に採用活動を前倒しして行う企業も増えていて、大学生の内定率は、すでに7割を超えています。

学生たちにとっては、就職活動の早期化や長期化が大きな負担となる一方、大学や企業でさまざまな取り組みが進んでいます。

企業の採用面接 政府ルールは6月1日から

来年(2024年)春に卒業する大学生などの採用面接は、政府のルールで6月1日から始まり、1日の朝、小倉こども政策担当大臣が大手商社の伊藤忠商事を訪れ、面接会場などを視察しました。

この商社では、1日からオンラインによる1次面接が始まるということで、小倉大臣は、面接に向けた準備の様子などを確認していました。

情報サービス大手の4月下旬の発表によりますと、求人倍率は1.71倍と前の年の同じ時期を0.13ポイント上回り、コロナ禍からの景気回復に伴い、企業の採用意欲の高まりが顕著になっているということです。

採用面接 前倒しする企業が増加 背景には人材不足

一方、こうした人材不足を背景に、政府のルールによる開始時期よりも前に採用面接を行う企業が増えているのが実態で、大学生の内定率は、5月中旬の時点で72.1%と、前の年の同じ時期より6.7ポイント上昇しています。

視察のあと小倉大臣は、「残念ながらルールを守っていただけていない企業や業界があるのも事実だ。守っていただいている方が不利な状況に立たされることはあってはならないので、さらに働きかけを強めていきたい」と述べました。

就職活動の早期化・長期化 「オワハラ」も

早期に内々定を得ながら志望度の高い企業を目指して就職活動が長期化する学生や、その過程で内々定先の企業から就職活動を終わらせるよう強要される「オワハラ」を受ける学生もいます。
都内の大学に通う4年生の女子学生は3年生の5月ごろから就活を始め、すでに2つの企業から内々定を得ています。

ただ、志望度の高い企業の面接が残っているため、1日以降も、就職活動を続けるということで、活動期間は1年を超えています。

女子学生は「長いと感じますが大事な1年だと思っています。本当は出たかったサークルのイベントは就活で2、3回休みましたが、将来のためインターンや就活を選択しました」と話していました。

活動が長期化する中、ある企業の最終面接で内々定を告げられたあと、内々定を得ているほかの企業や選考が進んでいる企業に辞退の連絡を入れるよう指示された経験があるということです。

女子学生は「頭が真っ白になり、就職活動を終わらせないと内々定が取り消されるのではと怖く感じました。オワハラで迫ってくるような企業は仕事をしていく時にも『こうしないといけない』と決めつけられるような働き方になるのではと未来を考えてしまい、魅力は下がってしまうと思う」と話していました。

4月に就職活動を終えた男子学生「囲い込むのはやめて」

一方、都内の大学に通う男子学生は、大学3年生の6月ごろから就職活動を始め、5つの企業から内々定を得ました。

このうち1社への就職を決めことし4月に就職活動を終えました。

男子学生は「サークル活動に参加できないことが重なり残念でしたが、就活をおろそかにはできませんでした。3年の秋以降は時間的な制約が多かったです」と話していました。

この学生も内々定を得たうちの1社から大学の推薦状の提出を求められ、内々定先や選考途中の企業の辞退を迫られましたが、推薦状の提出を断り最終的に別の企業への就職を決めたということです。

男子学生は「『待っているので最終的にうちに決めてほしい』という企業と、推薦状の提出や他社の選考の辞退を求めてくる企業だと前者で働きたいです。企業の担当者は採用の人数や時期を考えていて大変だと思うが、学生からすれば、新卒の就職活動は1回だけで、満足して自分の働く企業を探したいので、学生を囲い込むのはやめてほしいです」と話していました。

推薦状求めないよう企業に呼びかける大学も

こうした状況に、大学側も懸念を抱いています。

最近は、企業が内々定を出した学生に対し大学や教員の推薦状を求めるケースが目立ち、内々定の辞退に対する心理的な抑止効果を狙っていると見られるということです。
立教大学は、ことし1月、公式ツイッターで「企業のみなさまへ『やめてください』」と題し、理系の推薦など一部を除いて推薦状を求めないよう呼びかけましたが、その後も、学生からの相談は続いているということです。
立教大学キャリアセンターの藤澤瞬さんは「早くにキャリアに対する意識を醸成できることはよいが、腰を据えて勉強できる期間が1年生と2年生の時だけという状況で学業に支障をきたしている。インターンや面接などのスケジュールが不明瞭なのが問題で明確にしてほしい」と指摘しています。

また、「年々、推薦状を求められるケースが多くなってきているが内々定の辞退を防ぐために推薦状を求めるのはなくしてほしい。学生からもオワハラをするような企業には行かないという声や評価が下がったという声を聞くので有効な手段ではない」と話しています。

大学3年生もこの時期から就職活動に

いまの大学3年生などの間でもこの時期から就職活動に力を入れ始めようという動きが出ています。

政府の就活ルールでは、いまの大学3年生などが一定以上の日数で就業体験を含む形で行われるインターンシップに参加した場合、企業が事前に明示すれば参加した学生の評価を来年度の採用活動に活用できることになっていて、専門家などは就活の早期化がさらに進むとも指摘しています。
こうした中、5月27日には、東京ビッグサイトで再来年春に卒業する大学3年生を主な対象とした就活フォーラムが開かれ、およそ4000人の学生が参加しました。

会場には150社以上の企業がブースを設けて説明会を開いたほか、エントリーシートの書き方や面接の練習を行うコーナーもあり、学生が次々に訪れていました。
参加した3年生の男子学生は「3年になったらすぐ就活でもう学生生活は終わりかと思っています。ようやくコロナが収まり旅行にも行けるようになりましたがあきらめるしかないです」と話していました。

また、3年生の女子学生は「まだサークルも部活も楽しみたいと思っていましたが就活が頭の片隅にちらつきます。先輩たちを見ていると1年もの間、就活に拘束されていてつらそうなのでその段階に入ったのかと思うとしんどいです」と話していました。

大学が対面形式での面接を練習する場

コロナ禍でオンラインでのコミュニケーションが定着し対面での面接に不安を抱える学生が多いとして、対面形式での面接を練習する場が設けられた大学もあります。
茨城県の筑波大学では、コロナ禍で大学生活を過ごしてきた学生から対面での面接が不安だという声が寄せられていたということで、同窓会が大学に呼びかけて対面での面接の練習を行っています。

学生が志望する企業などの中にはオンラインと対面とを併用して面接を行うところが多いということで、この日は、対面での最終面接を控えている学生など5人が、実際を想定した15分間の面接に参加しました。

練習のあとには面接官役からの振り返りも行われ、話の内容だけでなく、入退室のふるまいや受け答えの際の視線にも気をつけた方がよいといった対面形式ならではのアドバイスもありました。

4年生の女子学生は「対面だとどんなにいいことを話しても、指先とか足先の動きひとつで印象が変わってしまうので、緊張します。何回か練習をさせてもらって、良い経験になったと思います」と話していました。

4年生の男子学生は「言葉がしっかりと出てくるか、熱意を伝えられるかというところが難しかった。くせが出てしまう部分もあったので、改善して、今後に生かしていきたいです」と話していました。

面接練習の開催を呼びかけた同窓会の瀧下芳彦さんは、「今の就活生は入学当初からコロナで人と接する機会も少なく、対面面接が初めてという人もたくさんいます。1回、経験すればかなり自信がつくと思うので、ぜひ自信をもって臨んでもらいたいです」と話していました。

人材確保にむけた企業の取り組み

インターンシップを採用活動の一部に導入

企業の間で採用活動を早める動きが加速するなか、大学3年生を対象にしたインターンシップを採用活動の一部に導入する企業も出てきています。

大手商社の住友商事は、採用活動の一部にインターンシップを新たに導入し、大学3年生を対象にこの夏の参加募集を6月1日から始めました。

政府は、こうしたインターンシップによる採用活動の前倒しは、2026年春に卒業する学生から一部で導入する方針を示しています。

一方、住友商事は、政府のルールで6月1日開始となっている採用面接については、実態としてほかの多くの企業が前倒しして行っているのに対して、大部分の採用面接をルールを守る形できょう1日から始めていることから、会社として政府のルールの要請により応えているとしています。
住友商事の佐々木亮人事部採用チーム長は「インターンシップを経験した学生は会社の仕事や人間をしっかり理解してくれている。人材の獲得競争がかなり激化しているのでそこに遅れないように人材を確保していきたい」と話しています。

初任給の引き上げで採用の拡大を狙う

人材の獲得競争が激しくなるなか、初任給の引き上げで採用の拡大を狙う企業もあります。

全国で宿泊施設を展開する「星野リゾート」は、現在60か所ある施設を来年からさらに順次増やす計画を進めています。

コロナ禍からの回復に伴う観光需要の高まりでこの会社でも宿泊施設の稼働率が上昇していて、東京・豊島区の宿泊施設では去年は30%程度だった稼働率がことし4月はほぼ満室となりました。

会社では、事業の拡大にあわせて従業員を増やす方針で、来年の新卒の採用人数はことしの1.7倍以上に増やす計画です。

観光業界で人手不足による人材の獲得競争が激しくなっていることから、会社では3年ぶりに初任給を引き上げることを決めました。

このうち▽大卒の初任給は、21万4800円から24万円に、2万5000円あまり引き上げます。

▽短大・専門学校卒は18万8000円から20万円に、▽高卒は17万1900円から18万円に、それぞれ引き上げます。

会社では、初任給の引き上げのほかにも、入社時期を年に4回設けるなどして、採用を強化しているということです。
人事責任者の佐野歩さんは、「観光産業は、日本を代表する基幹産業になっていくと信じている。業界をリードしていく思いで、待遇面の改善を通じて、若者に選んでいただける産業にしていきたい」と話していました。

小規模な企業からは不安の声

小規模な企業からは人材を確保できるか不安の声が上がっています。

茨城県東海村にあるIT関連企業は、AIを活用した画像認識のソフトウェアの開発などを行っていて、従業員は代表を含めて5人です。

会社では業績の拡大を受けて、来年春には正社員を新たに1人採用したいと考えています。

しかし仕事の内容を知ってもらおうと、学生のインターンやアルバイトを募集したところ、ことしこれまでにインターンに参加した学生は1人だけでした。

このため会社では、オフィスに近い茨城大学日立キャンパスに会社を紹介するポスターを掲示するなどして、学生からの認知度を高めようとしています。

しかし、多くの企業で採用活動の前倒しが進んでいるうえ、きょうからは大手企業の採用面接も本格的に始まるため、会社では人材を確保できるか不安を感じています。

「ヒューマンサポートテクノロジー」の小野浩二代表は、「社員を採用できないと仕事を進められなくなるリスクも出てくるし、将来性にも影響する。会社の魅力や成長性を学生に伝え、なんとか採用につなげていきたい」と話していました。