消さないで…ツイッター“休眠アカウント”削除 故人の扱いは?

消さないで…ツイッター“休眠アカウント”削除 故人の扱いは?
数年間、利用されていないアカウントを削除している

ツイッターを運営するアメリカの起業家イーロン・マスク氏のツイートが波紋を広げています。

「アカウントは亡くなった兄そのもの。残せるものなら残して欲しい」

病気で亡くなった兄のツイートを日々見返しているという女性。

その思いを聞きました。

投稿で知る兄の闘病の日々

大阪府に住む、ゆりさん(53歳・仮名)。

兄の晴彦さん(当時56歳)を3年半前、がんで亡くしました。

6つ違いで、幼いころはよく遊んでくれたという晴彦さん。

大人になってからは東京で就職し、1人暮らしをしていたそうです。
がんが見つかったのは2018年11月。

その時点で転移がありました。

ツイッターには闘病の記録が、詳しく投稿されています。
2019/6/12
「今回で超音波内視鏡による治療は3回目1クール終了 効果がなければ数ヶ月の余命」
2019/7/21
「朝から調子悪く、午後まで食事とれず。14時あたりにパン1個とビスケット1枚を吐きそうになりながら食べて薬を飲みました。それほど熱くないのに顔が汗だく」
10か月あまりの闘病の末、晴彦さんは息を引き取りました。
ゆりさんはよく見返すツイートがあるそうです。

がんが見つかってすぐのころの投稿です。
2018/11/25
「ライトアップで夜間開館中の六義園に来ました。スタンプが5個集まったのでカレンダーGET 来年のカレンダーは励みになります」
都立庭園の秋のスタンプラリーは晴彦さんが好きなイベントでした。
趣味のカメラで紅葉の時期に風景を撮影し、よく画像を投稿していました。

病状が悪化しゆりさんが上京して泊まり込みで看病するようになったころ、2人はこんな会話をしたそうです。

「ことしももみじが赤くなったらスタンプラリーに一緒に行こう。わたしが車いすを押すから」
ベッドの横に予告パンフレットを貼って楽しみにしていたそうですが、かないませんでした。

ゆりさんはこの年、1人でスタンプラリーを回り、兄のツイートを引用しながら、こうつぶやきました。
2019/10/27
「今年は紅葉めぐりスタンプラリーを兄の魂を連れて一緒に廻ろう そして来年のカレンダーもGET!!」
ゆりさん
「今でも兄の過去の投稿に『いいね』を押したり、コメントを書いたりしています。触れないし、声は聞こえないけれど、兄はここにいて会いたいときに会える。ツイッターがあってよかったなと思います。残せるものなら残してほしいですね」

削除は始まっている?

去年12月、ツイッターを運営するイーロン・マスク氏は15億件のユーザー名を解放するとして、利用されていないアカウントを削除する方針を示唆しました。
さらにことし5月には、数年間にわたって利用されていないアカウントの削除を進めていると表明。

それによって「フォロワー数が減少する可能性がある」としました。
これに対し、ツイッター上では

「休眠アカウントの乗っ取り対策としては必要」
「パスワードを忘れてログインできなくなったアカウントを消してくれるのはうれしい」

などと理解を示す声がある一方、消さないで欲しいという声も。

中でも目立つのが、冒頭で紹介した女性のように故人のアカウントを残して欲しいという意見です。

故人のアカウントの削除は、始まっているのでしょうか?

運営会社は明らかにしていませんが、現時点ではそれほど多くないという見方もあります。

故人のインターネットコンテンツの問題に詳しいジャーナリストの古田雄介さんは、故人などの放置されたアカウントを定期的にチェックしています。
古田雄介さん
「10年近く使われていないものなどデータベース化していますが、私が見ている中では削除されたものは今のところありません。ネット上でも故人のアカウントが削除されたという話は広がっていない。ただ削除は運営会社の判断次第のため、今後、削除される可能性はあるでしょう」
そのうえで、こうした動きには運営のリスクを減らす狙いがあると指摘します。
古田雄介さん
「使われていないアカウントが増えるということは、膨大な個人情報を管理するリスクが増すということです。経営の視点で言えば、いつかなんとかしなければならない課題だったと言えます」

「削除」の方針は過去にも

実際、運営会社はおよそ4年前にも使われていないアカウントを削除する方針を示しましたが、その後、撤回しています。

その際「故人のアカウントを保全するための新しい方法をつくるまで削除しない」としていましたが、これまでのところ、そうした仕組みはありません。
またイーロン・マスク氏はことし5月の一連の投稿で、削除されるアカウントはアーカイブに保管されることを示唆していますが、どのようにデータが保管されるのか、また利用者が見られるのかなど具体的な情報はありません。
古田雄介さん
「例えばフェイスブックには『追悼アカウント』という仕組みがあり、死後に家族や友人の要望があれば記録として投稿を残すことができます。ツイッターも過去にそうした仕組みを作るといいながら、それが実現しないままに今回、削除を進めていると発表したことがユーザーの動揺を招いているように見えます。まずは家族や知人などつながりのある人が申し出れば、いったん削除を保留したりデータを保護したりする対応が求められるのではないでしょうか」

故人のアカウント どう守られる?

情報セキュリティーの問題に詳しい明治大学公共政策大学院の湯淺墾道教授は、ツイッターに限らず故人のアカウントなどの扱いについて法的な整備が必要だと指摘します。
湯淺墾道教授
「亡くなった人のアカウントやデータの扱いは、従来の法律で対応するのが難しいケースが多く、各社の利用規約に委ねられているのが現状です。

例えば、個人情報保護法でいう個人情報とは“生きている人”の情報です。SNSのアカウント情報もユーザーが生きているうちは事業者が自由にすることはできませんが、亡くなれば自由にできてしまう。利用規約によってアカウントの権利が事業者のものとなることがほとんどで、一方的に削除したり、遺族にIDやパスワードを教えないといった問題が起こるのです」
一方で、湯淺教授は、残されたデータの中には人格やプライバシーにかかわるものもあり、死んだあとは家族であっても自分のアカウントにアクセスしてほしくない人もいると指摘します。
湯淺墾道教授
「亡くなった人の情報にどの程度アクセスが認められるのか。一方で事業者が自由に扱うことに問題はないのか。こうした課題を解消する法整備の必要があると思います」

私たちにできること

マスク氏が方針を変更したというツイートは今のところありません。

故人のデジタルデータの問題に詳しい古田さんはユーザー1人ひとりが、いざというときに備えておくことも大事だと指摘します。
古田雄介さん
「エンディングノートなどを使って、各種のパスワードなどを家族宛に書き残しておくことをお勧めします。パスワードの数が100を超えているという人も珍しくありませんが、大変な場合は重要なものだけでもいいでしょう」
比較的簡単でセキュリティー面にも配慮できる方法を教えてもらいました。
1.名刺大のカードなどにパスワードを消えにくいペンで書き、修正テープで消す
2.通帳やパスポートといった貴重品と一緒に保管する
スクラッチのようにして剥がさなければパスワードがわからないため、勝手に見られた場合は気づくことができます。
古田雄介さん
「SNSなどのサービスは入れ替わりが激しく、インターネット上にあるものはいつ消えてもおかしくありません。万が一の時に備えて家族で話し合っておく、どうしても残しておきたいものはプリントアウトしておくなど、自衛のための選択肢を自ら持つことが大切です」
おはよう日本ディレクター
中村隆介

2022年入局。
現在2年目。
取材で「アカウントの削除で兄は2度死ぬ」というご遺族の言葉が印象に残った。
ネットワーク報道部記者
杉本宙矢

2015年入局。
熊本局を経て現職。
ツイッターは学生時代から使っているが、当時のアカウントは“休眠中”
ネットワーク報道部記者
松原圭佑

2011年入局。
富山局、大阪局、京都局を経て現職。これまで大学や医療分野を中心に取材。3人の子育てに奮闘中。