トルコ大統領選 現職エルドアン氏が当選 選挙管理委員会が発表

ウクライナ情勢で仲介役を買って出るなど存在感を増す中東のトルコで28日に行われた大統領選挙の決選投票は、現職のエルドアン氏が当選したと選挙管理委員会が発表しました。
20年にわたって長期政権を担ってきたエルドアン氏が引き続きトルコのかじ取りを担うことになりました。

トルコの大統領選挙は、今月14日に行われた投票の結果当選に必要な過半数の票を得た候補がおらず、28日、現職のエルドアン氏と最大野党の党首で、6つの野党の統一候補として立候補したクルチダルオール氏との間で決選投票が行われました。

トルコの選挙管理委員会は、日本時間の29日午前4時半すぎに現職のエルドアン氏が当選したと発表しました。

トルコの政府系の通信社アナトリア通信によりますと、開票率99.85%の時点で得票率はエルドアン氏が52.16%、クルチダルオール氏が47.84%となっています。

エルドアン氏は日本時間の午前6時ごろから首都アンカラで支持者を前に演説し「決選投票はありがたいことに混乱や問題はなく完了した。暫定結果によると国民は大統領の責務を今後5年、私たちに託した」と述べ、勝利を宣言しました。

選挙戦でエルドアン氏はロシアの軍事侵攻が続くウクライナからの農産物の輸出の合意をはじめトルコの仲介外交の成果を誇るなど、首相時代も含めて20年にわたる政権運営の実績を訴えて支持を集めました。一方、クルチダルオール氏は、物価の高騰や通貨安に伴うエルドアン政権の経済政策や強権的な政治手法などを批判して政権交代を訴えていました。

エルドアン政権が続くことになり、引き続き、ウクライナ情勢での仲介外交やトルコが障壁となっているスウェーデンのNATO=北大西洋条約機構への加盟問題の行方などが注目されることになります。

プーチン大統領が当選に祝意伝える

ロシア大統領府は、日本時間の29日午前3時半に、プーチン大統領がエルドアン大統領の当選に祝意を伝えたと発表しました。

この中でプーチン大統領は「親愛なる友よ。あなたの勝利は、トルコの国家元首として献身的に国に尽くしてきた当然の結果であり、国家主権を強化し、独立した、独自の外交政策を追求するあなたの努力を国民が支持していることを明確に示すものだ」とたたえています。

そのうえで「われわれは、友好的な両国関係の強化と、さまざまな分野での互恵的な協力に対する、あなたの貢献を高く評価している。2国間、地域、それに国際的な課題に関する建設的な対話を継続する用意があることを再確認したい」と述べています。

今回の大統領選挙では、ロシアとの関係が焦点の1つとなり、クルチダルオール氏は、ロシアによる選挙介入を主張するなど厳しい姿勢を見せていたことから、クルチダルオール氏が政権を握った場合、ロシアとの2国間関係が見直される可能性があるとの見方が出ていました。

ウクライナ情勢をめぐりロシアが欧米との対立を深める中、プーチン大統領としては、エルドアン氏に早々に祝意を伝えることで、今後の関係維持に期待を示したものとみられます。

ゼレンスキー大統領も祝意伝える トルコ語で投稿も

ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、自身のSNSにウクライナ語とトルコ語で投稿し「両国関係をさらに深めるとともに、ヨーロッパの安全と安定のための協力を強化することを楽しみにしている」とエルドアン氏に祝意を伝えました。

ゼレンスキー大統領としては、エルドアン氏がロシアとの関係を維持しつつ独自の仲介外交を展開してきたことを踏まえ、ウクライナとトルコとの関係を重視しているものとみられます。

バイデン大統領 エルドアン氏に祝意 ツイッター投稿

アメリカのバイデン大統領は28日、ツイッターに投稿し、エルドアン氏に祝意を伝えました。

この中でバイデン大統領は「NATO=北大西洋条約機構の同盟国として、2国間関係および共通の国際的な課題について引き続き協力していくことを楽しみにしている」としています。

アメリカとしては、ウクライナ情勢をめぐってロシアとの関係も維持しているエルドアン氏の出方を注視するとともに、トルコが難色を示している北欧のスウェーデンのNATO加盟に向けて、引き続き協力を働きかけていくものとみられます。

国連 グテーレス事務総長「協力関係強化を期待」

ウクライナ産の農産物の輸出をめぐり、トルコとともにロシアとウクライナの仲介にあたってきた国連のグテーレス事務総長は28日、「エルドアン大統領の再選を祝福する。トルコと国連の協力関係をさらに強化することを期待している」とする声明を報道官を通じて発表しました。

トルコのエルドアン大統領は、ロシアの軍事侵攻が続くウクライナをめぐって、プーチン大統領と直接対話できる数少ない首脳として会談を重ねるなど、仲介役として国連とも協力しながら存在感を高めていました。

スウェーデン首相「安全保障が将来の優先事項」

トルコが難色を示し、NATO=北大西洋条約機構への加盟が実現していない北欧のスウェーデンのクリステション首相は、エルドアン氏が当選したことを受け28日、ツイッターにコメントを投稿しました。

この中で、祝意を示したうえで「われわれの共通の安全保障が将来の優先事項だ」として、NATO加盟問題をめぐり、早期の事態打開が必要だという認識を示しました。

スウェーデンは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、去年5月、NATOへの加盟を申請しましたが、加盟国の1つのトルコがトルコからの分離独立を掲げるクルド人武装組織への支援をやめるべきだとして、スウェーデンの加盟に難色を示しています。

エルドアン政権が続くことで今後、スウェーデンのNATO加盟問題の行方にどのような影響を与えるのかも焦点となっています。

岸田首相 祝意表す書簡を発出

岸田総理大臣は、エルドアン大統領の再選に祝意を表す書簡を発出しました。

この中では「日本とトルコは歴史的に強いきずなで結ばれており、来年は外交関係樹立100周年の節目の年を迎える。これまで育んできた友好関係を礎に、あらゆる分野での関係を力強く発展させ、共に新たな100年に向けて歩んでいきたい」としています。

その上で「同時にロシアによるウクライナ侵略から生じているさまざまな問題をはじめとして、地域や世界が直面する諸課題の解決に向けて、ともに取り組んでいく所存だ」としています。

クルチダルオール氏 事実上 敗北を認める

クルチダルオール氏は28日夜、首都アンカラで演説し「この闘いの先頭に立っていくことを私たちは続ける。最も悲しいことは国がさらなる困難に直面することだ」などと述べ事実上、敗北を認めた形です。

一方、連立を組んだ善良党のアクシェネル党首はアンカラで記者会見し「選挙はエルドアン氏の勝利で終わった。結果がすべてだ。国民がわれわれに与えた野党としての任務を継続していく」として敗北を認めました。

大統領府付近では写真など掲げた市民が集まる

現職のエルドアン氏の当選が発表されたことを受けて、首都アンカラ中心部の大通りは、勝利を祝う支持者であふれかえりました。

このうち、大統領府の付近ではトルコの国旗やエルドアン大統領の写真などを掲げた市民が集まり、大声で歌ったり、踊ったりして喜んでいました。

支持者ら 喜びや期待の声

エルドアン氏の当選について、支持者からは喜びや期待の声が聞かれました。

このうち40歳の女性はNHKの取材に対して「今回の勝利をとても誇りに思います。彼は20年間、たくさんのことを実現し、トルコのためだけでなく、パレスチナやシリアを支援するなどイスラム諸国のために努力してきました。こんなリーダーはこれまで世界にいなかったはずです」と喜んでいました。

また28歳の男性は「彼は内政でも外交でもすばらしい考えを持ち、私たちが期待したことをかなえてくれました。よりよい未来にしてくれることを願っています」と期待を示しました。

一夜明けアンカラの市民からはさまざまな声も

大統領選挙の決選投票から一夜明けた29日、首都アンカラの市民からは期待や失望など、さまざまな声が聞かれました。

エルドアン氏に投票した42歳の男性は「彼は勤勉でただ1人、この国を治める力を持っていてほかに代わる人はいません」と喜びをあらわにしていました。

また、27歳の男性は「エルドアン大統領は、誰とでも一緒に座って話ができるリーダーです。ウクライナ情勢をめぐって多くの国がどちらか一方を支持する中でもトルコは中立的な立場で双方との関係を維持できています。地政学的に難しい場所にあるトルコで経済を安定させるために、これからも周辺国との関係を大事にしてほしいです」と期待を語りました。

これに対し、クルチダルオール氏に投票した41歳の女性は「不満な選挙結果です。昔は自分もエルドアン大統領に投票していましたが、間違ったことばかりするのでもう何も期待できません」と落胆していました。

また、49歳の男性は「エルドアン大統領は経済のかじ取りをうまくできず国民の購買力を低下させてきました。誤った政策を改めてほしい」と注文をつけていました。

一方、同じようにクルチダルオール氏に投票した33歳の女性は「選挙に勝ったのはエルドアン氏なのだから、彼が大統領にふさわしいのだと思います。有権者に約束したことをしっかり実行してほしいです」と話していました。

20年にわたるエルドアン政権 経済・外交・安全保障は…

首相時代を含めて20年にわたるエルドアン政権下で、トルコは都市開発やインフラ整備などを推し進めて外資を積極的に呼び込み、国民1人当たりのGDPは最初の6年間でおよそ3倍となるなど、記録的な経済発展を遂げました。

一方で近年、「高金利は景気を冷やす」というエルドアン氏の信念のもとで政策金利の引き下げを進め、去年10月には前年同月比で85%を超えるインフレを記録しました。

食料品などの価格が跳ね上がり、通貨リラも過去2年でドルに対して半分の価値となるなど、市民生活に大きな影響が出ました。

外交面ではNATO=北大西洋条約機構の加盟国である一方、中国とロシアが主導する上海協力機構への加盟を示唆するなど、独自のバランス外交を推し進めています。

なかでも、ロシアの軍事侵攻が続くウクライナをめぐっては、国連とともにウクライナ産農産物の輸出の再開を実現させるなど、存在感を高めてきました。

一方でNATOへの加盟を申請しているスウェーデンについては、トルコからの分離独立を掲げるクルド人武装組織への支援をやめなければ認めないとして、トルコ側は一歩も譲らない姿勢を示していて、今なお加盟が実現していません。

エルドアン氏は20年前、EU=ヨーロッパ連合の加盟を目指すことを公言していたものの、政権の強権化を指摘する欧米諸国とのあつれきもあり、加盟への道筋は今も見えていません。