トルコ大統領選 決選投票行われる 現職と野党候補の接戦か

ウクライナ情勢で仲介役を買って出るなど存在感を増す中東のトルコで、大統領選挙の決選投票が行われました。
現職のエルドアン氏と、野党の統一候補クルチダルオール氏の接戦が予想されていて、開票の行方が注目されます。

トルコの大統領選挙は、今月14日に行われた投票の結果当選に必要な過半数の票を得た候補がおらず、28日、現職のエルドアン氏と、最大野党の党首で6つの野党の統一候補として立候補したクルチダルオール氏との間で決選投票が行われました。

選挙戦でエルドアン氏はウクライナからの農産物の輸出の合意など仲介外交の成果や20年にわたる政権運営の実績を訴えたのに対し、クルチダルオール氏は、エルドアン政権の経済政策や強権的な政治手法などを批判して政権交代を訴え、接戦が予想されています。

エルドアン氏は最大都市イスタンブールで投票し「この選挙がわれわれの祖国と国民にとって有益なものになることを祈る」と述べました。

また、クルチダルオール氏は首都アンカラで投票したあと「人々の常識を信じている。必ずこの国に民主主義と自由はもたらされる」と述べました。

投票は、日本時間の28日午後11時に締め切られ、開票作業が始まっていて、国際情勢にも影響を与えうる選挙の行方に注目が集まっています。

投票した人は

大統領選挙の決選投票が行われている28日、首都アンカラで投票を済ませた人からは政権の継続を望む声と、交代を望む声の双方が聞かれました。

現職のエルドアン氏に投票したという58歳の女性は「彼はトルコのすべてを変えて発展させ、たくさんの国から注目を集める国にしました。この安定が続くことを願って投票しました」と話していました。

また、59歳の男性は「エルドアン大統領は道路の整備などを進め、トルコを訪れた人たちがみんな驚くようになるまで発展させました。市場に行けば、この国が豊かであることを今も実感できるはずです」と話していました。

一方、クルチダルオール氏に投票したという70歳の女性は「エルドアン大統領は20年も政権を率いてきたのだからもう十分です。物価の高騰や人権をめぐる状況など、今こそすべてを変えるべきです」と話していました。

また、18歳の男性は「エルドアン大統領が今の地位に残り続けるかぎり、この国の価値を汚すことになります。私たち若い世代の未来のためにクルチダルオール氏に投票しました」と話していました。

ロシアとの関係めぐり立場異なる両候補

今回の大統領選挙で焦点の一つとなっているのはロシアとの関係です。

トルコとロシアは、経済やエネルギーの協力で強いつながりがあります。トルコは天然ガスの3割ほどをロシアから輸入しているほか、南部で建設が進められているトルコ初の原子力発電所もロシアの支援を受けています。さらに、去年1年間にトルコを訪れた外国人観光客4400万人のうち、ロシアからの観光客がおよそ520万人と1割以上を占めています。

こうした結び付きの深いロシアとの関係をめぐり、エルドアン氏とクルチダルオール氏の立場は異なっています。

エルドアン氏は、ウクライナ情勢で仲介役を買って出て、ロシアのプーチン大統領と対話を重ねていて、欧米諸国による制裁には加わらず、ロシアとの関係を保っています。

一方、クルチダルオール氏は、エルドアン政権下でぎくしゃくした欧米諸国との関係改善を打ち出していて、EUへの加盟についても積極的な姿勢です。

選挙期間中にロシアによる選挙介入を主張して自身のSNSで「友好関係を維持したいのならトルコから手を引け」と訴えるなど、ロシアに強い態度で臨んでいます。このため、クルチダルオール氏が政権を握った場合、ロシアとの関係が見直される可能性があるとの見方がでています。

トルコのリゾート地では

ロシア人観光客による経済的な恩恵を受けるリゾート地では政権が交代した場合、ロシアとの関係が見直され、自身のビジネスへの影響を懸念する声も聞かれました。

このうち、トルコ南部のリゾート地には去年、300万人以上のロシア人観光客が訪れ、国別では最も多くなっています。

ロシアによるウクライナ侵攻後もエルドアン政権は、ロシア人観光客の誘致を進めていて、観光都市のアンタルヤでは21日、地元出身のチャウシュオール外相らが市民との意見交換会を開きました。このなかでチャウシュオール外相は「私たちは観光の目標を設定している。『ロシアに制裁を科して、バランス外交を改める』という人がいるが、トルコの特別な地位を損なうだけだ」と述べました。

チャウシュオール外相は集会後、NHKの取材に「クルチダルオール氏の発言は地域に悪影響を及ぼしている。私たちはロシアとウクライナの和平に向けた努力で仲介の役目を続けなくてはならない」としてトルコの仲介外交が、地元経済にも貢献していると強調しました。

こうしたエルドアン政権下でのロシアとの良好な関係を歓迎する観光業界の関係者は少なくありません。

アンタルヤのリゾートホテルでエンターテインメント事業を担当するロマ・オメルさん(35)は、ロシア語を習得し、ロシア人観光客の対応に力を入れています。オメルさんは、ロシアからの観光客が売り上げに最も貢献していて、長期滞在者も多いとしたうえで「ロシア人観光客も選挙の行方を見守っていると思う。不安がっているロシア人もいる」として、選挙の結果次第ではロシア人観光客への影響が出かねないと話していました。

そのうえでオメルさんは「エルドアン大統領は、コロナの世界的大流行や経済危機の中でも観光業を守ってくれた。続投を果たせばもっとよい仕事をしてくれる」としてエルドアン大統領に投票すると話していました。

一方、アンタルヤの旅行会社のハサン・デルトリさん(40)は、ロシアよるウクライナ侵攻が続くなかでも、地域の産業がロシア依存を深めているとして危機感を募らせています。デルトリさんの会社では顧客の8割以上がロシアからの観光客ですが、過度な依存は長期的にはリスクもあり、ヨーロッパからの観光客の誘致を進めるべきだと考えています。

そのうえで「ヨーロッパから観光客が来ないのはエルドアン大統領の政策のせいだ。政権交代すれば観光にも活力が生まれる」として、現政権下で欧米各国との関係がぎくしゃくする中、クルチダルオール氏に期待を寄せていました。