長野4人殺害【28日詳報】“『独りぼっち』に過剰に反応も”

長野県中野市で4人が殺害された事件で、逮捕された容疑者が女性2人を殺害した動機について「2人が話をしながら散歩しているときに『独りぼっち』と自分をばかにしていると思った」などと話していたことが捜査関係者への取材でわかりました。
警察は談笑しながら散歩する2人を見て悪口を言われていると思い込み襲った疑いもあるとみて調べています。

【25日の発生から28日までに取材で明らかになったことをまとめました】

5月25日、中野市江部で近くに住む
▼村上幸枝さん(66)と、
▼竹内靖子さん(70)が刃物で刺され、
その後、通報を受けて駆けつけた中野警察署の
▼玉井良樹警部補(46)と
▼池内卓夫巡査部長(61)が猟銃で撃たれ死亡しました。

警察はこのうち池内巡査部長に対する殺人の疑いで農業の青木政憲容疑者(31)を逮捕し、ほかの3人を殺害した疑いでも捜査を進めることにしています。

このうち村上さんと竹内さんは現場近くに住み、毎日の散歩で容疑者の自宅の前を通っていて、当日も散歩の途中に襲われたとみられています。

これまでの調べで、容疑者は自宅に立てこもった際に説得にあたった親に対し、「被害者の女性が自分を悪く言っていると思いやった」などと話していたことがわかっています。
さらに、このとき、容疑者が親に対し「2人が話しながら散歩しているとき、自分のことを『独りぼっち』とばかにしていると思った」などとも話していたことが捜査関係者への取材でわかりました。

また、容疑者は大学を中退していましたが、親は、警察に対して、「大学時代に『独りぼっち』と言われていじめられ、そのことばに過剰に反応するところがあった」と話しているということです。

容疑者と女性2人は関係は薄かったとみられ、警察は談笑しながら散歩する2人を見て悪口を言われていると思い込み一方的に恨みを抱いて襲った疑いもあるとみて調べています。

説得の親に語ったこと「絞首刑はいやだ」

長野県中野市で4人が猟銃や刃物で殺害された事件で、容疑者が自宅に立てこもった際、説得にあたった親に対して語ったことが捜査関係者への取材でわかってきました。

4人を襲ったあと、母親とおばがいる自宅に立てこもった容疑者に対し、母親は自宅内で、父親は電話でそれぞれ説得にあたりました。

その中で、散歩中とみられる村上さんと竹内さんを襲った理由について、「2人が話しながら散歩しているとき、自分のことを『独りぼっち』とばかにしていると思った」と説明したということです。そして、出頭するよう促す母親に対し、「絞首刑は一気に死ねないからいやだ」と拒んだということです。

こうした中、今月25日の午後8時前後には現場で2発の発砲音が相次ぎました。いずれも容疑者が猟銃でみずからを撃とうとしたものの失敗したということです。

午後8時半すぎ、自宅にいた母親は「私が撃ってあげる」と言って猟銃を受け取ったといいます。そして、母親は猟銃を持って自宅から逃げました。また、おばも翌26日の午前0時10分ごろ逃げて無事でした。

結局、容疑者は立てこもってから半日ほどたった午前4時半過ぎ、警察に投降して身柄を確保されました。

専門家「慢性的な孤独あったか 他人に不信感を持つ印象」

社会心理学が専門の名古屋大学の五十嵐祐准教授は「孤独を感じている時は、他人が何をやっているかすごく敏感になることが知られている。一時的な孤独の場合、解消するためにうまくつながりを作ろうと前向きな気持ちになることもあるが、この事件の場合、慢性的な孤独みたいなものがあった可能性がある。対人経験が少なく、うまく振る舞えないとますます孤独になる。それが積もり積もると他人に不信感を持つような認知バイアスと呼ばれる状態になり、あの人は自分のことを悪く思っているみたいな考え方になるという印象がある」と指摘しました。

一方で、「孤独が攻撃を引き起こすという知見はなく、今回のように攻撃的になるということは、孤独とは別のプロセスも働いていると思う」と述べました。

容疑者の親戚の男性「姿見なくなり引きこもったと思った」

近所に住む青木容疑者の親戚の男性は、「容疑者が大学を中退する前に母親が『政憲が大学を辞めたいと言ってきた。とても大きな決断になるので、お父さんとよく話し合ってから決めるように伝えた』という話をしていた。その後、しばらくしてから家に帰ってきている様子が見られたので、結局中退したんだと思った」と話していました。

また、青木容疑者が戻ってきてからの様子について、「畑の草刈りとか機械を使って作業していたので手伝いをしているのかと思っていたが、ここ最近はまったく姿を見なくなっていて、家に引きこもってしまったのかと思っていた。こんな大事件を引き起こすような人間ではないと思っていたのでとても残念です。取り返しがつかなくなってしまった」と話していました。

祭り保存会メンバー「大学中退後、地区の祭りの保存会に」

青木容疑者と一緒に地区の秋祭りの運営に携わったことがあるという40代の男性が取材に応じました。

容疑者の自宅がある地区では毎年秋に開かれる祭りで笛などの音に合わせて獅子舞を披露するため、祭りの保存会のメンバーは本番の2週間ほど前から練習したり、会食したりするということです。8年ほど前に撮影されたという保存会の集合写真には、最前列に座るはっぴ姿の容疑者の姿が確認できます。

容疑者と一緒に祭りの運営に携わったことがある40代の男性によりますと、容疑者は大学を中退して実家に戻ってきたころ、父親の意向で保存会に参加するようになったということです。

男性は容疑者に笛を指導し、当時の様子について「真面目に練習に取り組んでくれたし、会食にも参加してお酒を注げば飲んでくれました。ただ、積極的に向こうから誰かにお酒を注いだり、話しかけたりすることはなく、こちらが話しかけないと会話にはなりませんでした」と振り返りました。

しかし、容疑者は数年すると、活動に参加しなくなり、父親が酒を持参した上で「申し訳ないが、息子を退会させてほしい」と言ってきたということです。

また、男性は、「本人から、猟銃を所持していることや遠くまで行って鳥を撃ったりしているという話が出たこともありました」と話しました。

この地区では、鳥獣害の被害も少なく、猟銃を所持する人がほとんどいないということで、男性は、「この近辺で猟銃を使った事件が起きたということを聞いて、すぐにピンときました」と話していました。

防犯カメラ 散歩する村上さんと竹内さんか

NHKが入手した事件現場から東に400メートルほど離れた場所にある防犯カメラの映像には、事件の前日と2日前、散歩をする村上さんと竹内さんとみられる2人の姿が写っていました。

【事件前日(24日)】
事件前日の午後4時40分ごろ大きく腕を振りながら歩く人と、その隣に、黒っぽい服を着た人が写っています。2人は車が来ないことを確認したあと小走りで横断歩道を渡り、画面上側に向かって歩いて行きます。

【事件2日前(23日)】
事件の2日前の同じ時間帯、午後4時40分ごろにも、同じような背格好のふたりが会話をしながら、歩くようすが写っていました。

【事件当日(25日)】
しかし、事件当日の映像には、2人の姿は確認できませんでした。防犯カメラがある場所は散歩コースの終盤とみられ、この場所の手前にある事件現場で、2人は襲われたとみられます。

【目撃男性が証言】

現場近くに住み女性や警察官2人が襲われるのを目撃した男性が取材に応じ、当時の状況を克明に語りました。

女性を全速力で追いかけナイフで

事件が起きたとき、男性は現場近くの畑で農作業をしていました。

すると「誰か助けて」という女性の声が聞こえたということです。

男性は「女性の声が聞こえたので見てみると、女性のうしろを全速力で追いかけていく男が見え、畑の土手の部分で背中から2回、サバイバルナイフで刺すのが見えた」と振り返りました。

当時の様子については「女性が倒れたあとにもさらに胸元を一回刺していましたが、表情は平然としていて、まったくちゅうちょする様子はなく、まるで獲物を狙っているかのような目をしていました」と振り返りました。

容疑者に対して、男性が「どうしてこんなことをするんだ」と聞いたところ、「殺したいから殺してやった」と言って自宅の方向に戻って行ったといいます。

パトカーのサイレン 2発の発砲音

その後、男性は警察に通報。

パトカーのサイレンが聞こえると、再び容疑者があらわれました。

このとき台車のようなものを押して近づいてきたといいます。

男性は「容疑者が台車を押してくるのが見えた。私がパトカーの誘導していたら、猟銃を手にしているのが見えたので、急いで逃げたところ、2発発砲音がしました」

容疑者の父親が現場に ひざから崩れ落ちる

また、その後、中野市議会議長だった父親が現場の近くに来たときことばを交わしたといいます。

このときのことについては「父親と話した時に、事件を起こした容疑者の特徴を伝えた。そして『政憲ではないか』と父親に聞いたところ頭を抱え、がっくりとひざから崩れ落ちていた」と振り返りました。

【これまでにわかっている事件の経緯】

警察や目撃者への取材からこれまでにわかっている事件の経緯です。

25日04:26 「男が女性を刺した」と110番通報

5月25日午後4時26分ごろ、中野市江部で「男が女性を刺した」と110番通報がありました。

女性を追いかけナイフで刺す

当時、近くにいた男性が事件を目撃していました。

男性が畑で仕事をしていたところ、女性が「おじさん、助けて」と言いながら走ってきたといいます。

この女性は被害者の1人、村上幸枝さん(66)でした。

村上さんの後ろからは迷彩服姿の青木政憲容疑者(31)が追いかけてきました。

手には長さ数十センチのサバイバルナイフを持ち、追いつくと背中を刺し、あおむけに倒れたところを上から胸を刺したということです。

当時の容疑者の様子については「表情は平然としていて、まったくちゅうちょする様子はなく、まるで獲物を狙っているかのような目をしていました」と振り返りました。

男性が容疑者に対し、「なんでこんなことをするんだ」と言ったところ、「殺したいから殺してやった」と言って、現場を歩いて離れたということです。

村上さんとふだんから一緒に散歩をしていたという竹内靖子さん(70)もこの前後に容疑者の自宅付近で刺されたとみられます。

駆けつけたパトカーの窓に銃口あて銃声

村上さんを刺したあと容疑者はいったん自宅に戻ったとみられます。

現場には通報を受けて中野警察署の
▼玉井良樹警部補(46)と
▼池内卓夫巡査部長(61)が乗ったパトカーが村上さんが刺された現場に駆けつけます。

そこに再び容疑者があらわれました。

このとき容疑者は台車のようなものを押して近づいてきたといいます。

そして猟銃を手にした容疑者はパトカーに近づいてきました。

このときの様子を村上さんの救命処置にあたっていた男性が目撃していました。

容疑者は警察官2人が乗ったパトカーの窓ガラスに銃口をあて、銃声が2回鳴り響きました。

男性は「いきなり、パトカーの運転席側に向かって銃を向けた。笑みを浮かべて楽しんでいる様子だった。そのあと、発砲音が2回聞こえた」と話していました。

その後、容疑者は北の方角へ向かいました。

自宅に立てこもる 母親と父親が説得に

容疑者が向かった先は村上さんを襲った現場から北に100メートルあまり離れた自宅。

自宅に入った容疑者は立てこもりを始めます。

自宅には容疑者のほかに母とおばがいました。

母親は自宅内で、父親は電話でそれぞれ説得にあたりました。

捜査関係者によりますと説得にあたる親に対し「女性2人が話しながら散歩しているとき、自分のことを『独りぼっち』とばかにしていると思った」と説明したということです。

そして、出頭するよう促す母親に対し、「絞首刑は一気に死ねないからいやだ」と拒んだということです。

3時間ほどたった、午後8時前後、家からは銃声があわせて2発確認されました。捜査関係者によりますと2度、みずからを銃で撃とうとしたとみられるということです。

そして、8時半ごろ、自宅にいた母親は「私が撃ってあげる」と言って猟銃を受け取ったといいます。そのまま、母親は猟銃を持って自宅から逃げました。

さらに、翌0時10分ごろおばが逃げ出し、保護されました。

説得に応じ容疑者が外に出て身柄確保

その後も1人で立てこもりを続けた容疑者に対して警察と親が説得にあたりました。

そして、事件から半日がたった午前4時半すぎ、容疑者が応じて外に出てきたということです。

外に出てきた際には手を頭に乗せる様子もみられ凶器などを持っていないことを確認したうえで身柄を確保しました。