「自社株買い」が支える株価上昇 まだ続く?【経済コラム】

株価の上昇傾向は続くのか、それとも…。今週の株価は23日の午後に突然下落に転じ、日経平均株価はこの日、そして翌24日も値下がりしましたが、その後再び上昇しています。自社株買いをはじめ企業が相次いで打ち出す株主還元策に支えられているとも言われる今の相場。投資家は日本企業の将来性をどう見ているのか。そして企業に求められる対応とは?(経済部記者 仲沢啓)

「自社株買い」が過去最大の規模に

企業の「自社株買い」が空前の規模にのぼっています。

東海東京調査センターによりますと、5月1日から25日までに東京証券取引所に上場している企業が発表した自社株買いは総額で3兆2400億円にのぼるということです。

企業が1か月間に発表した自社株買いの総額としては、去年5月の3兆1200億円あまりをすでに上回り、過去最大となっています。

自社株買いとは、企業が自社の株式を市場から買い戻すことですが、買った株式を消去すると、企業が発行した株式の総数が減り1株あたりの価値が高くなると考えられるため、投資家の多くはこれを株主還元策の1つと見ています。

大和総研が過去5年のうち、相場が比較的落ち着いていた2018年度、2021年度、2022年度に自社株買いを発表した企業の1年間の株価の推移を調べたところ、自社株買いを行った企業の株価上昇率は、自社株買いをしていない企業に比べて2.5ポイント高かったといいます。

5月の東京株式市場でも、企業が自社株買いを発表した直後に株価が大きく値上がりするケースが相次ぎました。
5月1日から25日までに自社株買いを発表した企業209社の株価の推移を調べてみました。

発表前の株価の終値と、翌営業日の取り引き時間中の高値を比較すると、平均の上昇率は3.6%にのぼっています。

また、209社のうち、翌営業日の終値で値上がりしたのは143社。

一方、値下がりした社は63社でした。

自社株買いを行ったものの、値上がりが継続せず、結局下がってしまったという企業も見られます。

東証の改善要請で低PBR企業の改革に期待

それではなぜ企業は活発に自社株買いを行っているのか。

背景にあるのが東京証券取引所が、市場での評価が低い企業に改善を促したことです。

東証に上場している企業をめぐっては、1株あたりの純資産に対して株価が何倍かを表すPBR=株価純資産倍率と呼ばれる指標が1倍を下回る企業が多く、市場での評価が低いことが課題となっています。

東証は、ことし1月、こうした市場での評価が低い企業に改善を求める方針を明らかにし、3月下旬にはこの方針に沿って対応するよう上場企業に通知しました。

これを受けて、PBR1倍超えを目標に掲げて株主還元の一環として、自社株買いなどを実施する企業が相次いでいます。

大手印刷会社の大日本印刷では、長年にわたってPBRが1倍を下回る状況が続いていましたが、ことし2月に「PBR1倍超えの早期実現」を経営の基本方針に掲げたことで、投資家の間で改革への期待が高まり、株価は上昇傾向をたどります。

3月には大規模な自社株買いを行うと発表。

あわせてEV向けリチウムイオン電池の外装材の製造に力を入れるとともに、画像処理のノウハウを生かして医療関連事業を強化する方針を明らかにしました。
すると株価は一段と上昇してPBRは一時、1倍を超えました。

最近は0.9倍程度で推移しています。

「欧州」の投資家が日本株への投資を主導

こうした日本企業の行動の変化に注目しているのが海外の投資家です。

東京証券取引所の調査では、海外の投資家は、3月下旬から5月の第3週(15日から19日)まで8週連続で国内の株式を買い越しています。

その額は3兆6300億円あまりにのぼっています。

それではどの地域の投資家が日本株を買っているのか。

東証が調査した日本株の売買状況によりますと、4月の海外の投資家の買い越し額は全体で2兆1500億円あまり。

このうち「欧州」は1兆7400億円余り。

次いで「アジア」が4300億円余りの買い越しとなっています。

一方、「北米」の投資家は150億円余りの売り越しでした。

「欧州」の投資家が日本株に目を向けたのはなぜなのか。

これについて運用資産が280兆円を超えるヨーロッパ最大級の資産運用会社の日本法人、アムンディ・ジャパンの石原宏美 株式運用部長は次のように話しています。
「ヨーロッパの投資家は、欧米の景気の先行きへの懸念を強める中で、いわば“消去法的”に日本株に資金を振り向けている。そこには『オイルマネー』も入っているとみられる。PBRが低い日本企業の中にはアクティビストから株主還元の強化を求められているところもあり、これに乗じて日本株を買い進める海外投資家もいる。ただ、単に自社株買いを発表するだけの企業に対してはポジティブな評価はできない。自社株買いなどの資本政策は、中長期的な企業の成長戦略の一環として打ち出していくべきで、市場の目もシビアになっていくのではないか」
多くの日本企業が競うように自社株買いを実施し、株価を引き上げて低いPBRの状況から脱却しようとしていますが、自社株買いに資金を使う一方で、設備投資や研究開発にあてる資金が抑えられることはないのか。

成長に向けて資金をどう活用するのかという点も問われることになります。

注目予定

今週もアメリカの債務上限問題をめぐるバイデン政権と野党・共和党の交渉の行方と市場の反応に注目です。

また、2日にはアメリカの雇用統計が発表されます。

FRBの6月の金融政策を決める会合で、利上げを一時停止するかどうかに市場の関心が集まっていますが、FRBの判断に影響を与えるとみられる雇用情勢が引き続き堅調かどうかが焦点となります。