韓国視察団 福島第一原発の現地調査終了【背景などをQ&Aで】

東京電力福島第一原子力発電所でたまる処理水を基準を下回る濃度に薄めて海に放出する計画をめぐって、韓国政府が派遣した専門家による視察団は、24日、2日間にわたる現地視察を終えました。

今回の視察の背景や韓国側の受け止めなどをQ&A形式でまとめました。

視察団は韓国の原子力安全委員会の幹部や海洋環境の専門家などおよそ20人で構成され、現地調査2日目の24日は午前9時半ごろ福島県富岡町にある東京電力の施設からバスに乗り込み福島第一原発に向かいました。そして、9時間あまりたった午後6時半すぎに再びバスで富岡町に戻りました。

このあと、ユ・グクヒ(劉国煕)団長が報道陣の取材に応じ、24日の視察では処理水を薄める設備や海への放出に使う設備、それに、処理水に含まれる放射性物質を分析する施設などを確認したことを説明しました。

また、今回の視察について「現地の確認が必要だと考えていたところを重点的に視察項目として決めていたが、計画にあった関連施設はすべて見たといえる。施設を回りながら、現場でかなり多くの質問をして資料をお願いしたが、東京電力は誠実に案内し、質問にも答えてくれた」と評価しました。

そのうえで「安全性を評価する中で今回の現場視察が進展を与えるだろう。見る予定のものはすべて見たが、設備の機能や役割についての分析、追加の確認は必要だ」と述べ、日本側に追加の資料を要請し、詳しく分析していくと説明しました。

24日で2日間の現地視察が終わり、25日は東京で日本政府関係者などと最後の協議に臨む予定で、すべての日程を終えたあと、26日に韓国に帰国することになっています。
「処理水」が入ったボトル
日本政府は福島第一原発にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水を基準を下回る濃度に薄めて海へ放出する方針で、ことし夏ごろまでの放出開始に向けて東京電力が準備を進めています。

この計画をめぐって日韓両政府は今月7日に開かれた首脳会談で、韓国の視察団を現地に派遣することで合意し、視察団は21日から6日間の日程で日本を訪れていました。
韓国の視察団と日本の政府関係者の協議(22日)
今回の視察について、Q&A形式でまとめました。

Q1.今回の視察で何が行われた?

A1.視察では計画の安全性の確認が行われました。

詳細はあきらかにされていませんが、処理水を保管するタンクで放射性物質の濃度をどのように測定しているかや、海に放出するための施設での最終的なチェックの仕組みなどを確認したということです。

視察団は韓国の原子力安全委員会の幹部や海洋環境の専門家などおよそ20人で構成されています。日本側としては今回の視察は、韓国独自の検証ではなく理解を深めてもらう活動の一環だとしていますが、視察団の規模や丸2日を費やすという日程からは韓国側の力の入れ具合がうかがえます。

Q2.視察団派遣の背景や韓国側のねらいは?

A2.韓国の専門家でつくる視察団を現地に派遣した背景には、処理水を放出する日本政府の方針に対し、韓国国内で懸念の声が依然として多いことがあります。

韓国政府は現在も処理水を「汚染水」と呼称していて、市民の間でも放出に否定的な意見が根強いのが現状です。

韓国で来年4月に総選挙を控える中、野党側はユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が処理水の放出をめぐって日本に譲歩しているなどと批判を強めています。
ユン政権としては、今回の調査団の派遣で韓国が主体的に安全性の議論に関わり、日本に対して必要な要求をしていく姿勢を国民にアピールするねらいがあるとみられます。

Q3.今回の視察 韓国での受け止めは?

A3.韓国の24日の新聞では、保守系の有力紙・中央日報が23日の視察団の動きなどを伝えているほか、革新系・ハンギョレ新聞も、移動のバスから降りてくる視察団の様子などを写真入りで大きく報じています。
また主要なテレビ局も連日、今回の視察の注目点などを詳しく伝えていて、韓国メディアの報道ぶりを見ても関心は高いと言えます。

日本から地理的に近い韓国では、国民の間で水産物の風評被害への懸念が根強くあるのが現状です。

ソウル市内では放出に反対する人たちによるデモも行われていて、そうした世論も背景に、韓国政府は今も処理水を「汚染水」と呼んでいます。

Q4.韓国が水産物の輸入規制を解除する可能性は?

A4.輸入再開については全く見通せない状況です。

そもそも処理水を放出する以前から現在も輸入を規制している以上、今後放出が始まれば韓国国内で懸念や反発がさらに強まることも予想されるからです。

加えて韓国国内の政治日程も大きく関わってきます。韓国では来年4月に総選挙が予定されています。そうした中、国会で過半数を占める最大野党の「共に民主党」は、処理水の放出計画をめぐるユン・ソンニョル政権の対応について「日本の顔色をうかがって検証するふりをしているだけだ」などと厳しく批判していて、福島県産などの水産物の輸入再開にも反対の立場です。

ユン大統領としては、政権を支える少数与党「国民の力」の総選挙での勝利が最重要課題であるだけに、韓国国民の懸念が一定程度払拭できないかぎり、福島県産などの水産物の輸入再開に踏み切るのは容易ではないとみられます。

Q5.日本政府の対応は?

A5.国際的に理解を得るため、IAEAによる客観的な安全性の評価をもとに科学的な説明を続けることにしています。

日本政府はIAEAに要請し、去年から各国の専門家で構成する調査団の派遣を受けています。
IAEAの視察(去年5月)
6月にも放出開始前の包括的な評価結果が公表される見込みで、懸念を示す国々へも正確な情報を発信するとしています。

ただ、処理水の風評被害に詳しい福島大学の小山良太教授は「懸念や反発を示す国々への対応には、IAEAだけによらず一緒に検証していく姿勢が求められる」としています。

視察団派遣までの韓国国内の経緯

日本政府がおととし、東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を海に放出する方針を決めた際、韓国政府は、隣国を含む世界の海洋環境に影響を及ぼしかねないなどとして「絶対に受け入れられない」と反発しました。

また、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領は「憂慮は極めて深い」として、国際海洋法裁判所への提訴を積極的に検討するよう指示しました。

その後、当時の外相が「IAEA=国際原子力機関の基準に適合する手続きに従うなら、あえて反対するものではない」と述べ、IAEAの調査団に韓国の原子力安全の専門家が参加するなど、安全性の検証について韓国政府として積極的に関与する姿勢を示しました。

ただ日本から地理的に近い韓国では、国民の間で水産物の風評被害などへの懸念が根強く、政権交代で最大野党に転じた「共に民主党」などが放出に反対しています。

ユン・ソンニョル大統領は去年12月、IAEAのグロッシ事務局長に対し「韓国国民は懸念している」などと伝える一方、今月7日にソウルで開かれた日韓首脳会談では、韓国の専門家でつくる視察団を現地に派遣することで合意していました。

韓国メディア 視察結果など報じる

韓国の視察団が福島第一原発での現地視察を終えたことを受けて、韓国の各メディアは、視察の結果などについて報じていて、関心の高さが伺えます。

このうち、韓国の通信社、連合ニュースは、視察団の団長を務めるユ・グクヒ原子力安全委員長が、視察後に「安全性を評価する中で今回の現場視察が進展を与えるだろう」と述べたことを報じた上で「設備の機能や役割についての分析、追加の確認は必要だ」という発言を受けて、処理水の安全性に関する結論には触れなかったなどと伝えています。

一方、韓国の公共放送、KBSの24日夜のニュースでは、福島の現地にいる記者が中継で「この日の視察は8時間以上に及んだ。日本側の説明で進められただけに、視察には限界もあったが、それを補うため、25日に再び東京電力などと質疑の場を持つ予定だ」などと伝えました。

さらに、スタジオで解説した記者が「放出が決まったら、今後30年間続くことになるので、継続的に実効性のある検証ができるのかが重要だ」と指摘していました。