株価 一時およそ33年ぶりの高値更新 上昇の背景は?

23日の東京株式市場。
日経平均株価は終値では9営業日ぶりに値下がりしたものの、午前中は一時、取り引き時間中としてはバブル景気の時期以来、およそ33年ぶりの高値を更新しました。

このところ株価が上昇傾向が続いたことについて、市場関係者の間ではさまざまな要因が指摘されています。

「株価上昇」指摘される要因は

【金融不安の後退】
まず、欧米の金融不安がいくぶん後退したことです。「銀行」や「保険」など金融関連の銘柄で株価が上昇しました。

【好調な企業決算】
経済活動の正常化や円安の効果で業績を伸ばす企業が相次いだことも株価上昇の要因となりました。商社を含めた「卸売」や「空運」「陸運」など昨年度の決算が好調だった銘柄に買い注文が目立ちました。
【東証の改善要請】
また東京証券取引所が市場での評価が低い企業に改善を促したことで企業の改革への期待が高まっていることも株価上昇の要因として指摘されています。

【自社株買い】
この東証の要請などを背景に企業が株主への還元策としていわゆる「自社株買い」などを活発に行っていることも株価の押し上げにつながっています。

【金融緩和継続姿勢】
さらに、4月9日に就任した日銀の植田総裁が金融緩和を継続する姿勢を示していることが投資家の安心感につながり、株式が買われる背景にあるという指摘もあります。

【バフェット効果】
4月に来日したアメリカの著名な投資家で“投資の神様”とも呼ばれるウォーレン・バフェット氏が、日本の総合商社の株式をはじめ日本株に積極的に投資する姿勢を示したことも日本株への投資を呼び込む要因となったと指摘されています。

【海外の投資家の期待】
こうした要因を背景に日本株を買う姿勢を強めているのが海外の投資家です。欧米の金融引き締めで景気の減速が懸念される一方、日本は新型コロナからの経済活動の再開やインバウンドの回復などで、さらなる成長が期待できるとみているからです。3月下旬以降、今月12日にかけて海外の投資家が日本の株式を買った額は売った額を7週連続で上回る「買い越し」になっています。

東証の改善要請とは

株高の要因の1つとして、東京証券取引所が市場での評価が低い企業に改善を促したことで企業の改革への期待が高まっていることが挙げられています。

1株あたりの純資産に対して株価が何倍かをあらわす指標はPBR=株価純資産倍率と呼ばれ、これが1倍を下回ると、会社が解散したときに株主のもとに残るいわゆる「解散価値」より株価が安い状態にあるとみられることもあります。
東京証券取引所によりますと、最上位のプライム市場とスタンダード市場に上場しているおよそ3300社のうち、PBRが1倍を下回る企業はことし3月末の時点で半数以上にあたるおよそ1800社にのぼっています。

こうしたことから東証は、ことし1月、市場の評価が低い企業に改善を求める方針を明らかにし、3月下旬には上場企業に対して、株価上昇につながる具体策を作り開示するよう通知しました。

これを受けて市場では企業の改革への期待が高まり、PBRが低い企業の株式を買う動きが続いています。

「自社株買い」の動き活発に

企業の間ではPBRの改善につながるとされるいわゆる「自社株買い」の動きが活発になっています。

企業が自社の株式を買い戻す「自社株買い」を行って株式を消却すると企業が発行した株式の総数が減り、1株あたりの価値が高くなると考えられています。この結果、株価が上昇すると「株価が1株あたりの純資産の何倍か」をあらわすPBRの改善につながると考えられています。

東海東京調査センターによりますと、5月企業が発表した自社株買いの総額は22日までに3兆2400億円あまりと、企業が1か月間に発表した自社株買いの総額としては過去最大となっているということです。

「PRB1倍超」経営目標に掲げた企業も

PBRの1倍超えを経営目標に掲げ、動き出した企業もあります。

大日本印刷は、2010年4月以降、PBRが1倍を下回る状況が続き、去年末の時点でもPBRは0.6倍と株価が低迷していました。

会社では、去年までに株主向けの情報発信などを担当する社員を8人に倍増させ投資家との対話に力を入れてきましたが、投資家からの意見や東証の方針を踏まえ、株価の低迷に対応するため、ことし2月9日に「PBR1倍超えの早期実現」を経営の基本方針に掲げ、その内容を公表しました。

その直後から株価の上昇が続き、海外の投資家からの面談依頼が相次ぎます。ことし2月以降これまでに海外の投資家と面談した件数は例年の3倍に増えたといいます。

そして3月9日に公表した中期経営計画の骨子の中で2027年度までにあわせて3000億円の自社株買いを行うといった方針を明らかにすると、その翌日、PBRは一時的に1倍を上回りました。

また、5月17日には北島義斉社長が社長として初めて決算会見に出席し、新しい中期経営計画を説明しました。

この中で、自社株買いなどの株主への還元策だけでなく、事業投資の拡大によって、電気自動車向けのリチウムイオン電池の外装材の製造を強化することや、画像処理のノウハウや印刷技術を活用した医療や医薬品関連の事業の成長を目指す方針を強調しました。
北島社長は「製品やサービスの価値は世の中や得意先に認められてきたと思うが、株価やPBRの上昇には必ずしもつながらなかった。世の中から求められる価値を探し出して生み出し、提供していく必要があり、事業構造を変えて利益率を高めていくことに注力していきたい」と話しています。

株高 自社株買い活発化の背景は

このところの株高や、企業の自社株買いが活発になっている背景について、りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフ・ストラテジストに聞きました。
Q.日経平均株価がバブル景気の時期以来、およそ33年ぶりの高値をつけるなど、このところ株価の上昇が続いた要因は。

A.さまざまな要因があるが、海外の投資家が日本株を買う姿勢を強めていることが非常に大きい。短期、中期、長期的な理由がそれぞれある。短期的には東京証券取引所が企業に対してPBR=株価純資産倍率が1倍以上になるよう改善せよと要請を出していること。企業として早く対応したい場合、株主還元策、自社株買いや配当を出すことが考えられる。こうした施策の発表と同時に株価が急騰することもあり、短期的にもうけるチャンスだとみる海外の投資家の資金が入っている。
中期的な理由としては、アメリカが利上げを続けたことで近いうちに景気後退に入る可能性が指摘されていることもある。今まで日本はアメリカで景気が悪くなると、経済的に大きな影響を受けていたが、今回、日本は新型コロナからの経済再開やインバウンド、自動車の挽回生産など国内の要因で経済が持ち直している。このため日本は仮にアメリカが景気後退に入ったとしても大きな打撃を受けないという見方もあって、今は日本の株式が消去法的に買われている状況だ。

長期的には、日本は経済安全保障の観点で自由民主主義陣営から見ると信頼できるパートナーであり、半導体を中心にサプライチェーンの組み替えが起きると、その中心的な役割を担うことが期待されている。こうしたことが相まって、この1か月ほどで日本に対する海外の投資家の認識が急に変わり、大量に日本株を買い始めた。
Q.短期的には自社株買いなどの株主還元策が株高を支えているということだがこれは続くのか。

A.株主還元策の発表があると、2匹目のどじょう、3匹目のどじょうを投資家が期待して株価が急騰する。ただ、それによって企業は変化の時代に対応するための脱炭素やDX、人手不足、経済安全保障、サプライチェーンの組み替えなどに必要な資金が減ってしまい、長期的な成長の種がなくなってしまう。その意味では株価を持続的に持ち上げる要因にはならないのではないか。本当にそれでいいのか、国全体で問われるような事態になっていると思う。

Q.企業に求められることは。

A.地元社会や取引先、従業員、株主といったさまざまなステイクホルダー=利害関係者がいる中で、成長への投資、人への投資、自社株買いなどさまざまな施策をバランスよく組み合わせることが大事になるのではないか。