G7広島サミット 首脳宣言を発表 自由で開かれた国際秩序を強化

G7広島サミットは首脳宣言を発表しました。
法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化すると明記し、ウクライナ支援を継続するほか、現実的なアプローチを通じて「核兵器のない世界」に向けて取り組むとしています。また「グローバル・サウス」とも呼ばれる新興国や途上国に対し、各国の事情を考慮しながら支援するとしています。

G7広島サミットは、首脳らによる討議の成果をまとめた首脳宣言を発表しました。

まず前文で、G7は世界の課題に対応し、未来に向けた道筋をつけるため、これまで以上に結束すると強調し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化すると明記しています。

そして、
▽ウクライナ情勢をめぐって、首脳宣言とは別に声明を発表したことに触れ、ウクライナへの支援を継続、強化するとともに、世界の弱い立場の人たちへの影響を軽減するよう取り組むとしています。
▽また、中国について、東シナ海や南シナ海の状況に深刻な懸念を表明し、力や威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対するとしています。

そして、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認し、問題の平和的な解決を促すとしています。

さらに、ロシアがウクライナ侵攻をやめるよう圧力をかけることを中国に求めています。

一方で、重要な貿易相手であり、経済的な結び付きを切り離す「デカップリング」ではなく、経済関係を維持しながら中国との間で抱えるリスクを減らしていくとしています。

その上でグローバルな課題では協力し、建設的で安定的な関係を構築するとしています。

▽北朝鮮については、弾道ミサイルの発射を繰り返していることを強く非難し、完全で検証可能かつ不可逆的な、核などの放棄に関与するとしています。

▽イランについては、核兵器を決して開発してはならず、シリアへの支援をやめなければならないとしています。

▽武力衝突が続くアフリカのスーダンについては、戦闘を強く非難し、敵対行為を速やかに終わらせるよう求めています。

▽さらに、インド太平洋地域をめぐっては「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、ASEAN=東南アジア諸国連合や太平洋島しょ国と連携を図るとしています。
▽核軍縮・不拡散をめぐっては、現実的で実践的なアプローチを通じて「核兵器のない世界」の実現に向けて取り組むと強調しています。

その上で、NPT=核拡散防止条約は、国際的な核不拡散や原子力の平和利用を追求する礎石であり、堅持するとしています。

▽世界経済をめぐっては、金融面の動向を注意深く監視し、金融の安定とシステムの強じん性を維持するため、適切な対応をとるとしています。

そして、国連が定める持続可能な開発目標=SDGsで主導的な役割を果たすとともに、透明で公正な開発金融を促すとしています。

▽気候変動・エネルギー分野では遅くとも2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するため、クリーンエネルギーに移行するペースを上げ、経済の変革に向けて行動するとしています。

そして「グローバル・サウス」とも呼ばれる新興国や途上国がそれぞれの事情を考慮した多様で実践的な方法で、気候変動に強い循環型の経済に移行することを支援すると明記しています。

▽経済安全保障では、中国を念頭に、禁輸などで他国の政策や意思決定に影響を与えようとする、いわゆる「経済的威圧」に連携して対抗するための枠組みを立ち上げるとしています。

さらに、クリーンエネルギーへの移行をさらに促進するために重要な鉱物資源とそれを使用した製品の安定的な供給に向けて持続可能で強じんなサプライチェーンを構築するとしています。

また▽食料危機への懸念が高まるなか「グローバル・サウス」とも呼ばれる途上国や新興国への支援を具体的に進めるとしています。

一方、▽デジタル分野では、生成AIに関する議論を行うため「広島AIプロセス」を立ちあげるようG7各国の関係閣僚に指示し、年内に作業部会で議論することを盛り込んでいます。

▽環境分野では、プラスチックごみによるさらなる汚染を2040年までにゼロにするという新たな目標を掲げているほか、クリーンエネルギーへの移行を促進するため、持続可能なサプライチェーンの構築を追求するとしています。

▽保健分野では、新型コロナ後のグローバルヘルスのため、官民合わせて480億ドル以上の資金拠出に取り組むとともに、感染症危機に対応する医薬品が公平に手に入れられるよう貢献していくとしています。

▽ジェンダーをめぐっては、性的マイノリティーの人々の完全かつ有意義な社会参加を確保するとしています。

「世界経済」 金融の安定へ各国が連携

発表された首脳宣言で、「世界経済」については、アメリカで相次いだ銀行破綻を踏まえ、金融の安定や金融システムの強じん性の維持に向けて、G7各国で適切に行動することで一致したとしています。

まず世界経済の現状については、根強く残るインフレや欧米各国による金融引き締めなどを念頭に、複数のショックに対する強じんさを示しているものの、先行きへの不確実性が高まる中、引き続き警戒して、機動的で柔軟な政策対応を取る必要があるとあるとしています。

その上で、インフレ率が依然として高いことから、中央銀行がそれぞれの責務に沿って、物価の安定に強く取り組むことを確認しています。

さらにアメリカで相次いだ銀行破綻を踏まえ、金融部門の動向を注意深く監視し、金融の安定と金融システムの強じん性の維持に向けて適切な行動をとる用意ができているとして、G7各国が連携していくことで一致しました。

「エネルギー分野」 ウクライナ侵攻によるエネルギー危機に対処

首脳宣言ではエネルギー分野について、ロシアのウクライナ侵攻によって引き起こされたエネルギー危機に対処するとともに、脱炭素社会の実現に向けてG7各国で一致して取り組むとしています。

その上で各国の事情に応じた多様な道筋を認めながら、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標の達成に向けて取り組むことを強調しています。

さらに再生可能エネルギーについて、次世代技術の開発や導入を大幅に加速する必要があるとした上で、2030年までに洋上風力発電を150ギガワット増やして今の6倍に、太陽光発電を今の3倍近くの1テラワット以上に増やすとする数値目標を盛り込みました。

また、石炭火力発電所については、排出削減対策が取られていない発電所の段階的廃止に向けて具体的な取り組みを優先するとしたほか、新規の建設をできるだけ早く中止するよう他の国にも呼びかけるとしています。

さらに、排出削減対策がとられていない化石燃料の段階的廃止に向けて世界全体で取り組みを加速していくと強調しています。

このほか福島第一原子力発電所にたまる処理水を基準を下回る濃度に薄めて海に放出する計画については、IAEA=国際原子力機関の安全基準と国際法にしたがって放出が行われ、人体や環境に影響を及ぼさないことを保証するためにIAEAが独立した立場で審査を行うことを支持するとしています。

「経済安全保障」 サプライチェーン守るため協力

首脳宣言ではG7各国において経済安全保障の強化に向けた政策を進め、サプライチェーン=供給網をぜい弱性から守るために、国際的な貿易ルールなどにもとづき、G7だけでなくそれ以外の国々とも協力を進めるとしています。

また、貿易などを通じて影響力を強める中国を念頭に、禁輸などの措置で他国の政策や意思決定に影響を与えようとするいわゆる「経済的威圧」に対抗するため、G7各国で「調整プラットフォーム」を立ち上げ、連携を強めるとしています。

さらに、重要な先端技術が、平和を脅かす軍事目的で利用されないよう、G7各国が共通の責任と決意を確認したとしています。

このほか、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーへの移行に向け、重要鉱物の重要性が増しているとして、サプライチェーンを構築することが必要だとしています。

その上で、先月のG7気候・エネルギー・環境相会合で合意したリチウムやニッケルなどの重要鉱物の安定確保に向けた行動計画を歓迎し、実施を指示したとしています。

「食料安全保障」 食料危機改善の取り組み継続

首脳宣言で食料安全保障について世界の状況に深い懸念を抱いているとした上で、特にロシアによるウクライナへの侵攻が食料危機を大きく悪化させたと指摘しています。

そのうえで、G7各国や国際機関による食料安全保障の改善に向けた取り組みや、食料危機の影響を受けているアフリカや中東などの国や地域に対する支援を継続するとしています。

さらに農業国であるウクライナがロシアからの侵攻で被害を受けているため今後の食料安全保障への影響を深刻に懸念するとしていて、ウクライナの穀物や肥料の輸出支援や農業の復興を支援するとしています。

このほか、強じんで持続可能な食料システムの重要性が増しているとして、国内の農業資源を活用した、持続可能な生産性の向上や幅広いイノベーションの活用に取り組むとしています。

「デジタル分野」 国際的な枠組み設立へ協力

今回の首脳宣言でデジタル分野については、急速な技術革新が社会や経済を強化してきた一方、国際的な規制が追いついていないと指摘しています。

そのうえで、AIやメタバースなど最新技術に関する制度は、民主的な価値観に基づかなければならないと強調しています。

利用や開発が急拡大するChatGPTなどの生成AIについては、「広島AIプロセス」として著作権の保護や偽情報への対応などについて閣僚級で議論することで一致しました。

また、AIの精度向上などのために、「DFFT」と呼ばれる信頼性の高いデータの国境を越えた流通が重要だとして、国際的な枠組みを設立し、具体的な制度づくりに向けてG7各国やそれ以外の国々で協力を進めることを確認しました。

「気候変動」 目標変わらずも 緊急性高まっている

今回の首脳宣言で気候変動については、ロシアによるウクライナ侵攻が世界のエネルギー市場などに影響を与えているものの、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標は変わらないとしています。

そのうえで、国連のIPCC=「気候変動に関する政府間パネル」などの最新の調査結果によって、世界で温室効果ガスを削減する緊急性が高まっていると強調しています。

排出削減を加速させるため、「グローバルサウス」とも呼ばれる途上国や新興国と連携し、各国の事情も考慮しながらさまざなな道筋で循環経済への移行や脱炭素化を支援するとしています。

また自動車部門では、G7として各国の保有台数をベースに2035年までに2000年と比べて、二酸化炭素の排出量を半減させるとし、取り組みの進捗(しんちょく)を毎年、確認することにしました。

このほか、航空部門でも2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標達成に向けて、「SAF」と呼ばれる植物や廃油などを原料とする代替燃料の導入を推進することなども盛り込んでいます。