シリア大統領 12年ぶりに復帰のアラブ連盟の首脳会議に出席へ

シリアのアサド大統領は、12年ぶりに復帰したアラブ連盟の首脳会議に出席するため、サウジアラビアに到着しました。
内戦をきっかけに国際社会から孤立してきたアサド大統領としては、周辺国との関係修復をアピールしたいねらいがあるものとみられます。

サウジアラビアの国営メディアによりますと、シリアのアサド大統領が18日、サウジアラビア西部のジッダに到着し、19日に開かれるアラブ連盟の首脳会議に出席するということです。

アラブ連盟は2011年に民主化デモの弾圧などを理由にシリアの参加資格を停止しましたが、今月、12年ぶりに復帰を認めていました。

内戦をきっかけに国際社会で孤立してきたアサド大統領としては、首脳会議への出席を通じて周辺国との関係修復をアピールしたいねらいがあるものとみられます。

ジッダには、シリアのメディアも現地入りしていて、シリアの国営テレビのアナウンサーは「アラブの一体感を示すことができ、重要な首脳会議となる。各国には経済面での協力を期待したい」と話していました。

ただ、シリアのアサド政権は反体制派の人々を武力で弾圧したと批判され、アメリカが経済制裁を続けているほか、アラブ連盟の加盟国のカタールも関係正常化に慎重な態度を示していて、首脳会議をきっかけに、アラブ諸国とシリアの関係改善が進むかが焦点です。

アラブ諸国とシリア 関係改善の動き

サウジアラビアなどのアラブ諸国は、シリアのアサド政権が内戦での軍事的な勝利を確実にする中、アサド政権との関係を改善させる動きを見せてきました。

このうち、UAE=アラブ首長国連邦はおととし、アブドラ外相がシリアを訪問し、アサド大統領と会談しました。

UAEはシリア内戦で反政府勢力を支援していて、外相がシリアを訪れたのは内戦が始まって以来初めてでした。

アサド大統領も去年、UAEを訪問し、現在のムハンマド大統領と会談しています。

アサド大統領が他のアラブの国を訪れるのは、内戦が始まって以来初めてで、UAEとの関係改善の兆候として受け止められました。

同じく反政府勢力を支援していたサウジアラビアも4月、ファイサル外相がシリアを訪問し、アサド大統領と会談したほか、互いに外交団を派遣して外交活動を再開することで合意しました。

このほか、オマーンもことし2月、アサド大統領の訪問を受け入れています。

こうした中、アラブの国と地域でつくるアラブ連盟は5月、2011年から参加資格を停止していたシリアの復帰を12年ぶりに認めました。

この背景について、エジプトにあるシンクタンクの代表で、アラブの外交問題に詳しいハミド・ファレス氏は、「アラブの首脳たちはシリアの資格停止には意味がなく、逆に地域を分断させ、安全保障上のマイナスな影響を与えていると判断した」と分析しています。

一方で、アサド政権側のねらいについては、「アラブ諸国と関係を改善することで国の政治的安定が実現し、内戦で破壊されたインフラの再建や復興のために必要な投資などにつながると考えた」と話し、国際的な孤立からの脱却を進める意図があると指摘しています。

ただ、アサド政権は今も反体制派の人々を武力で弾圧していると指摘され、アメリカが経済制裁を続けているほか、アラブ諸国の中でもカタールは、アサド政権との関係改善に慎重な姿勢を示しています。

反体制派の人たち アサド政権による弾圧続くことを懸念

アラブ連盟がシリアのアサド政権の復帰を認めたことについて、反体制派の人たちからはアサド政権による弾圧が続くことを懸念する声が上がっています。

シリア北部にある、反政府勢力が支配する都市、アレッポで暮らすジャーナリストのアリ・アブジュードさん(41)は7年前、アサド政権に自宅を空爆され、子ども4人を含む家族7人を失いました。

アブジュードさんは、「シリアで起きたデモなどの革命は、アサド政権による弾圧を正すために始めたものだ。私たちは殺害された子どもたちのことを忘れてはならない。アラブ諸国がアサド政権と関係改善しても私たち市民には関係ない。私たちのアサド政権に対する革命はこれからも続く」と話していました。

また、内戦の影響で多くのシリア人が、周辺のアラブ諸国やトルコに逃れていますが、祖国に戻れる見通しは立っていません。

UAE=アラブ首長国連邦のドバイで暮らすワリド・ナブワニさん(61)は、内戦をきっかけにアサド政権の打倒を目指す政治活動を始めましたが、4年前、アサド政権の情報機関がみずからの行方を探していることをシリア国内にいる家族から知らされました。

ナブワニさんは、「アサド政権の残虐な政治手法が改善するとは思えない。帰国すれば、身の安全は保証されないだろう。アラブ連盟にはアサド政権を利するのではなく、シリアの人たちの権利を守るよう行動してもらいたい」と話していました。

シリア内戦とは

シリアでは、12年前にアラブ諸国で始まった民主化運動「アラブの春」が波及する形で、民主化デモが行われましたが、アサド政権が武力で弾圧したことで、反政府勢力との戦闘となり、内戦に発展しました。

さらにシリアでの混乱に乗じて、過激派組織IS=イスラミックステートが、2014年にシリアとイラクにまたがるイスラム国家の樹立を、一方的に宣言して勢力を伸ばしたことで内戦は泥沼化し、政府軍と反政府勢力、それにISが地域を奪い合いながら激しい戦闘を繰り広げました。

一時は劣勢となっていたアサド政権は、2015年からロシアによる空爆の支援を受けて、反政府勢力やISの支配地域を次々と奪還し、戦況は政権側に有利に傾きました。

しかし、アサド政権が行った攻撃のなかには民間人を標的にしたものも多いと指摘されているうえ、化学兵器などを使用したとして、国際社会の非難を浴びました。

一方、反政府勢力は、1つにまとまれずに分裂が進み、北西部イドリブ県などに追い詰められ、ISも弱体化する中、アサド政権は軍事的な勝利を確実にしています。

また、アサド政権の後ろ盾のロシアと反政府勢力を支援するトルコが3年前に停戦で合意してからは、大規模な戦闘は収まっていますが、今も散発的な衝突は続いています。

政治的な解決を目指すプロセスも行き詰まり、内戦の終結が見通せない中、国連によりますと、2011年からの10年で30万人を超える民間人が命を落とし、680万人が国外への避難を余儀なくされています。