【解説】ロシア軍と民間軍事会社ワグネル 確執が深刻化

ウクライナの激戦地バフムト周辺では、ロシア軍と民間軍事会社、ワグネルとの確執が深刻化しています。そうした中でプーチン大統領はどう考えているのか。石川一洋専門解説委員に聞きました。

バフムトをめぐる戦況は

(石川さん)
東部の要衝バフムトは、ロシア軍が去年の秋からじわじわと支配地域を広げていました。
バフムトの都市部はここ、民間軍事会社ワグネルが制圧の主力となっていました。

しかし先週バフムト周辺のロシア軍に対してウクライナ側が反撃に出て、ロシア軍が一部撤退に追い込まれました。

ロシア軍も現場指揮官の大佐二人が戦死したことを認めています。
ロシアの軍事専門サイトルィバリによればバフムトの北東部でウクライナ軍がロシア軍の陣地を攻撃し、地域を奪還したとしています。
またワグネルの発表した戦況地図ですとウクライナ軍が南部でも一部地域を奪還しています。
こうした中、バフムト周辺の状況について国防省とワグネルの対立が深まっています。

ロシア国防省コナシェンコフ報道官

「ロシア軍はより優位な状況を作るために部隊を転戦した」

ワグネル・プリゴジン代表

「国防省の報道官は、ウソをついている。無断で撤退すれば反逆罪だというが、ロシア軍指導部こそが反逆罪ではないか」

プリゴジン氏は、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を呼び捨てで弾薬不足を非難するなど、軍の統制を乱す行為を続けています。

ロシアの軍事専門記者などがワグネル支持の発信を続けロシア軍の権威が低下しています。

最高司令官のプーチン大統領は どのような立場を?

(石川さん)
プリゴジン氏に対して、もしも戦線を勝手に離脱したら反逆罪に問うと警告したようです。しかし軍指導部への批判は黙認しています。都市部の制圧というもっとも困難で犠牲を伴う作戦をワグネルに依存しているからです。
ワグネルは中東やアフリカなどで都市部での戦闘経験が豊富で、囚人を動員し犠牲を厭わない残酷な非人道的な戦術でバフムトなど都市部の制圧を担ってきました。最高司令官のプーチン大統領もワグネル依存を許容しました。プリゴジン氏は軍指導部とともに財閥など富裕層やエリートを裏切り者を意味する「第五列」として批判し、極右の支持層のはけ口という政治的な役割も果たしており、プーチン大統領はそれも許容しています。

ただ軍事力を持ったワグネルのプリゴジン氏に政治的な動きを許すことはプーチン体制の脅威になりかねないという懸念も体制内部では深まっています。

政治情報センター ムーヒン所長

「ワグネル指導部の政治的な動きは許しがたい 国の政治指導部の力を弱めている」

プリゴジン氏がウクライナ軍の情報機関と接触の報道も

このワグネルをめぐってはアメリカの新聞ワシントンポストが、プリゴジン氏がウクライナ軍の情報機関と接触し、ウクライナがバフムトから撤退するのを条件にロシア軍の位置情報を教えるという取引を持ち掛けていたと報じられました。どう見ますか?。
(石川さん)
取引の情報が事実かどうかは確認できません。
ただこれまでもプリゴジン氏はウクライナ側と独自に交渉し捕虜の交換はしています。
お互いに偽情報工作を含めて接触があった可能性はあります。
ウクライナから見ればロシア軍の指揮統制の乱れは、反転攻勢に利用できないのかどうか、慎重に分析を進めているでしょう。
ただプリゴジン氏が弾薬不足という軍非難は、軍内部での主導権争いのために利用している側面があり、額面通りには受け取っていないでしょう。
ウクライナ軍がバフムトで局地的な反撃を試みて、ロシア軍を一部撤退に追い込んだのは、軍事的な意味とともに、ロシア側の足並みの乱れを確かめようという軍事偵察の意味もあるかもしれません。

ロシア国内で奇妙な事件が続いているが背景は?

一方、ロシア国内では民族主義の作家への暗殺未遂や国境付近で戦闘攻撃機や軍用ヘリがほぼ同時に4機墜落するなど奇妙な事件が続いていますが、この背景はどう見ていますか?
(石川さん)。
国境付近での墜落については、軍は原因を発表していません。
ただプリゴジン氏はウクライナ側の攻撃ではなく、ロシアの防空システムが誤って撃墜したのではと示唆しています。
テロでは今月には軍事侵攻を積極的に支持してきた現代作家プリレーピン氏への暗殺未遂事件が起きました。

去年8月、プーチンの頭脳といわれる思想家ドゥーギン氏の娘のドゥーギナ氏が爆殺、そして4月にはドンバス出身の軍事ブロガー・タタルスキーことフォミン氏も爆殺されました。いずれもロシア民族主義の強硬派です。

ドゥーギン氏を含めて三人ともプリゴジン氏と国防省の対立ではプリゴジン氏の立場を支持していました。

ロシアの捜査当局は事件の背後にはウクライナの治安当局がいると断定していますが、ウクライナにとって何の利益があるのか疑問もあります。

強硬派を狙ったテロには、何者かがロシアのプーチン体制内部の亀裂を深めるという政治的な思惑があるのかもしれません。
プーチン大統領はプリゴジン氏をいわば子飼いとして操り、来年3月の大統領選挙に向けてプリゴジン氏を利用しているつもりでしょう。

極右支持層の中にはプリゴジン氏を大統領に推そうという動きも出ており、プリゴジン氏の独断専行を野放しにしていきますと、プーチン体制にとって危険な存在になるかもしれません。

ここまで、石川専門解説委員に聞きました。