アメリカ債務上限問題 バイデン大統領と野党側 協議まとまらず

アメリカ政府の借金の上限、いわゆる債務上限問題をめぐってバイデン大統領と野党・共和党側との協議が行われましたが、この日はまとまらず、話し合いを続けていくことになりました。

16日午後、日本時間の17日午前4時すぎからバイデン大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長らがホワイトハウスで協議を行いました。

政府が借金できる上限をめぐって、引き上げを求めるバイデン大統領と、引き上げには大規模な財政支出の削減が必要だとする野党・共和党のマッカーシー下院議長らの主張の溝は埋まらず、この日の協議はまとまりませんでした。

マッカーシー下院議長は協議のあと、記者団に対して「生産的な話し合いだったがまだやるべきことがたくさんある」と述べました。

その上で「今週中に合意に至ることも可能だ」と述べ、交渉を続けていく考えを示しました。

協議がまとまらなければ、来月にもアメリカ国債が歴史上初めて債務不履行に陥るおそれがあり、経済の急速な後退などが懸念されています。

ホワイトハウスは、バイデン大統領はG7広島サミットに参加するため、予定どおり17日にワシントンを出発すると発表しましたが、その後予定されていたパプアニューギニアとオーストラリアへの訪問を見送り、日程を短縮して21日に帰国すると発表しました。

そして、バイデン大統領が今週後半に日本から電話で担当者による協議の進捗(しんちょく)を確認した上で、アメリカに戻りしだい野党・共和党側との協議を行うとしています。

債務不履行に陥った場合の影響は

債務の上限が引き上げられず、債務不履行=デフォルトに陥った場合の影響について、アメリカ経済の現状分析と政策の立案を担うCEA=経済諮問委員会は外部の研究者と行った分析結果を公表しています。

この中では、アメリカは歴史上、デフォルトに陥ったことはないとしたうえで、デフォルトになった場合には経済は急速に後退し、損失の大きさはその期間によって決まるとしています。

具体的には、デフォルトが長期間に及ぶ場合、ことし7月から9月までの期間に830万人の雇用が失われて失業率は5ポイント上昇し、GDP=国内総生産は前の期と比べて実質の年率換算で6.1%落ち込むと試算しています。

また、デフォルトが短期間であれば、雇用の喪失は50万人、失業率の上昇は0.3ポイント、GDPの落ち込みは実質の年率換算で0.6ポイントになるとしています。

この債務上限問題をめぐって、イエレン財務長官はG7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議に合わせて11日に開いた記者会見で、「債務の不履行に陥れば経済、金融の両面で大惨事を招くことになる。アメリカの多くの人が職を失って収入も減少し、世界的な景気後退の火種になるだろう」と述べ、議会に対し上限の引き上げなど迅速な対応を求めました。

債務不履行に陥る可能性のある時期については、アメリカの議会予算局が12日、来月に入って最初の2週間のいずれかの時点で債務の不履行に陥る重大なリスクがあるという最新の予測を明らかにしました。

一方、財務省の特別措置などによって来月15日までの政府資金を賄うことができれば、四半期ごとに入る新たな税収などが見込めるため、少なくとも7月末までは財政運営を続けることができるという見通しを示しています。

民主党と共和党 債務の上限めぐりたびたび政治対立

アメリカでは民主党と共和党の間で財政規律をめぐる考え方が異なるため、この債務の上限をめぐってたびたび政治対立が引き起こされてきました。

1995年から96年にかけてはクリントン政権のもとで、政府・民主党と野党・共和党が歳出法案や債務の上限の引き上げで対立し、政府機関の一部が21日間にわたって閉鎖されました。

2011年にはオバマ政権と与野党の協議で最終的には債務の上限を引き上げる法律が成立し、債務不履行という最悪の事態は避けられた形になりました。

しかし、大手格付け会社の「スタンダード・アンド・プアーズ」は、政府と議会が合意した財政赤字の削減計画が不十分だとして、アメリカ国債の格付けを引き下げ世界の金融市場に大きな動揺が走りました。

また、2013年には再び政府機関の一部閉鎖につながる事態となりました。

オバマ大統領が野党・共和党に対し、予算案を可決するとともに、政府の債務の上限を引き上げるよう求めましたが、共和党は予算案にオバマ政権が推進する医療保険制度改革の延期を盛り込むよう主張して、対立が長期化したためでした。

アメリカの現在の債務の上限は31兆3800億ドル余りで20年前の7兆3800億ドル余りと比べて4倍以上となっています。

アメリカの国債は信頼性が高い安全な資産とされ、世界中の投資家や外国政府が保有していて、重要な資産運用先となっていることから、バイデン大統領と野党・共和党側との協議の行方が注目される状況が続きます。

米 財務長官「不履行なら雇用とビジネス破壊の可能性」

イエレン財務長官は16日、地域の金融機関などでつくる団体のイベントで講演しました。

この中で、イエレン長官は「債務の上限が引き上げられず債務の不履行に陥れば、社会保障の受給者や退役軍人、軍人の家族などの給料が支払われなくなり、多くの雇用とビジネスを破壊する不況に陥る可能性がある」と述べました。

また、「アメリカの国債市場は世界の金融システムの根幹を担っており、国債の元本や利息がすべて期限内に支払われることについて世界は疑ったことがない」とした上で、「債務不履行に陥れば金融システムの基盤にひびが入って世界的なパニックを引き起こし多くの金融市場が崩壊する可能性がある」と指摘しました。

さらに、2011年は債務の不履行がぎりぎりのタイミングで回避されたものの、政府・与党と野党の瀬戸際の駆け引きが史上初めてのアメリカ国債の格下げを招いたことを引き合いに出して、議会に対し一刻も早く対応するよう改めて強く求めました。