通園バスに置き去り 熱中症で最愛の娘失った父親 悲しみ語る

去年9月、静岡県牧之原市の認定こども園で、通園バスの車内に置き去りにされ、重度の熱中症で亡くなった3歳の女の子の父親がNHKのインタビューに応じ、最愛の娘を失った悲しみを語りました。

去年9月5日、牧之原市にある認定こども園「川崎幼稚園」の駐車場に止められた通園バスの中に、園に通っていた河本千奈ちゃん(当時3)が、およそ5時間にわたって置き去りにされ、重度の熱中症で亡くなりました。

今回、千奈ちゃんの39歳の父親が自宅でNHKのインタビューに応じました。
父親によりますと、千奈ちゃんはこども園が大好きでバスでの通園も楽しみにしていたといいます。

事件当日の朝もいつものように園に向かうバスに乗り込みました。

午後2時半前、妻からの連絡を受けて、職場から病院に駆けつけると、千奈ちゃんはベッドの上で横たわり、医師から心臓マッサージを受けていました。

父親は「私たちはすぐに駆け寄って『千奈ちゃん』と声をかけたのですが、目は焦点が合っておらず、生気が感じられませんでした。前髪は汗でぬれていて、妻が当日の朝に結んでくれた三つ編みは汗で湿っているような状態でした。医師からは『これ以上マッサージを続けても、ろっ骨が折れたり、内臓に負荷がかかったりと悪い方向にしかいかないので、やめてもいいですか』と聞かれ、私も妻も答えられなかったです」と語りました。

そして、「今でもその光景を鮮明に覚えていますが、思い出すと、どれだけ苦しい時間をバスの中で過ごしたかと想像してしまって、胸が苦しいというか、つらいです」と述べました。

園では、バスを運転していた当時の園長が車内の確認を怠ったうえ、教室で千奈ちゃんの姿が見えないのに、当時の担任が欠席だと考え、両親に問い合わせをしなかったことなど、複数のミスが重なったと説明しています。

父親は「人なのでミスをしてしまうことはありますし、それが重大な事故につながらないよう、チェック体制を設ける必要がありますが、川崎幼稚園では、当時の園長の指導不足や意識がそのまま職員たちに広がり、ずさんな組織を作り上げてしまったのではないでしょうか。怒りしかありません」と話しました。

事件をきっかけに、国は対策に乗り出し、全国の幼稚園や保育所などのバスおよそ4万4000台に、4月から安全装置の設置が義務づけられました。

設置には1年間の猶予期間が設けられていますが、国は夏場の熱中症を考慮して6月末までに設置するよう呼びかけています。
父親は「安全装置の義務化はすごくいいことだと思いますが、もっと以前から対応してくれていれば、これまでに亡くなった子どもも含めて、命が失われずにすんだのではないかと感じています。夏前に装置をつけなければ、ことしも同様の事件が起こってしまうのではないかという気持ちがあります」と述べました。

安全なはずの場所で起きた事件から8か月余り。

父親は、最愛の娘を失った苦しみと喪失感を抱き続けています。

父親は「行政を動かすために、千奈が生まれてきて、育てたわけではないので、そこは本当に悔しいです。こんなにつらい思いは誰もするべきではないと思います」と訴えました。

バスに安全装置を設置した幼稚園では

静岡市清水区にある「静岡サレジオ幼稚園」では、園児の送迎に使っている4台のバスすべてに、4月、安全装置を設置し運用を始めています。

装置は、エンジンを切るとブザーが鳴り、車内の後部にあるボタンを押して止める仕組みで、運転手は園児が降りたあと、車内に残っていないことを確認しながら後方に移動し、ブザーを止めていました。

このほか、人の動きや振動を検知するセンサーも車内に設置していて、万が一、子どもが取り残された場合、周囲にアラームで知らせる仕組みになっています。

運転手の男性は「ブザーが鳴ることで、緊張感を持ちながら後方まで確認するので、確実ですし自分も安心できます」と話していました。

「静岡サレジオ幼稚園」の河原崎靖子園長は「安全装置を設置する前と比べ、職員の意識が大きく変わったと感じます。今回の事件は絶対にあってはならないことで、教員どうしで声をかけ合って子どもたちの安全を守っていきたい」と話していました。