タイ総選挙 2つの野党で下院過半数 政権交代は連立交渉が焦点

タイで14日に行われた総選挙は、軍の影響力排除を掲げる革新系の野党が第1党に、タクシン元首相派の最大野党が第2党となり、2つの野党で合わせて過半数を占めました。9年前の軍事クーデター以降続いてきた政権に厳しい審判が示された形で、今後の連立交渉で政権交代となるかが焦点です。

タイの選挙管理委員会は15日、開票率99%の暫定結果を発表し、
▽軍の影響力排除などを掲げる革新系の野党「前進党」が152議席で第1党に
▽タクシン元首相派の最大野党「タイ貢献党」が141議席で第2党となり、
2つの野党を合わせると、議会下院の過半数を占めることになりました。

一方、
▽9年前の軍事クーデターを率いたプラユット首相の「タイ団結国家建設党」は、36議席にとどまり、厳しい審判が示されました。

15日に記者会見した前進党のピタ党首は「クーデターを終わらせる時が来た。私は首相になる準備ができている」と述べ、勝利を宣言したうえで、タイ貢献党などと連立交渉を始めたことを明らかにしました。

ただ、前進党が主要な政策の1つとして、王室への中傷を禁じる不敬罪の改正などを主張しているのに対し、タイ貢献党は立場が異なるため、両党が連立を組むことになるかは不透明です。

また、議席確定後に行われる首相指名の投票には、今回選ばれた500人の下院議員のほか、軍政下で任命された250人の上院議員も加わることから、今後の各政党の連立交渉で政権交代となるかが焦点となります。

市民からは “軍の影響力排除など”強く期待する声

選挙から一夜明け、タイの市民の間からは、第1党になる見通しとなった革新系野党の「前進党」に対して、政治への軍の影響力の排除や格差の解消などを強く期待する声が聞かれました。

前進党に投票したという26歳の女性は「選挙で若い世代が国を変えるということを示したので、本当にうれしい。前進党は暮らしを改善し、給料もよくなると思う。富裕層と貧困層の間の格差の問題を解消できると思う」と話していました。

また、25歳の男性は「選挙結果はとてもうれしい。タイの新しい未来を見たいと思う。暮らしがよくなることや、今も拘束されている人がいるような政治体制を変えることを望んでいる」と話し、前進党が訴えてきた、軍の影響力排除などに期待を示しました。

一方、39歳の女性は「前進党の首相候補に多くの上院議員が投票しないのではないかと懸念している。軍によるクーデターは起きないと思っているが、本当に起きないかはかなり心配だ」と話していました。

前進党とは

野党「前進党」は、前回(2019年)の総選挙で軍政からの脱却などを掲げ、新党ながら第3党に躍進したものの、選挙後に解党された「新未来党」の流れをくんでいます。

今回の選挙では、軍の影響力排除を掲げるほか、徴兵制の廃止や王室への中傷を禁じる不敬罪の改正などを訴えてきました。

既存の政治からの脱却を掲げ、選挙戦終盤で若者層を中心に急速に支持を拡大し、世論調査では最大野党「タイ貢献党」に次ぐ高い支持率となっていました。

また党首のピタ氏は次の首相にふさわしい人物を聞いた直近の世論調査で、タイ貢献党のペートンタン氏を抜いて1位になっていました。

タイ貢献党とは

タイ貢献党はタクシン元首相派の最大野党です。

2011年の総選挙では圧勝し、タクシン氏の妹のインラック氏が首相に就任しましたが、国外で事実上の亡命生活を送っているタクシン氏の帰国に道を開く恩赦法案の成立を目指したことで、反政府デモが拡大しました。

タクシン派と反タクシン派の国を二分する政治対立が再燃し、2014年5月にインラック氏が憲法裁判所の判決で首相の職を失うなど混迷が深まると、事態打開のためだとして当時、陸軍司令官だったプラユット首相率いる軍事クーデターが起こり、タイ貢献党は政権与党の座を失いました。

2019年に行われた前回の総選挙では、タイ貢献党が第1党となりましたが、軍主導の政治体制の継続を目指す「国民国家の力党」が第2党となったことなどから、最終的には「国民国家の力党」を中心とした連立政権が誕生し、タイ貢献党は野党となっていました。

今回の総選挙では、政権奪還を目指してタクシン氏の次女ペートンタン氏を含む3人を党の首相候補にして主に経済の回復を訴え、圧勝を目標にしていました。