欧州中央銀行 ラガルド総裁 ”インフレとの戦い続ける” Q&A

世界の金融市場にきわめて大きな影響力を及ぼす、ヨーロッパ中央銀行のラガルド総裁が、G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議に出席するため来日しました。

フランスの経済産業相、IMF=国際通貨基金トップの専務理事も歴任。

女性のトップリーダーとしても世界的に注目されています。

NHKはG7会場の新潟市でラガルド総裁に単独インタビューしました。

Q&Aで詳しくお伝えします。  (経済部記者 篠田彩)

ヨーロッパのインフレや今後の金融政策の見通しは?

(ヨーロッパ中央銀行は今回のG7に先立つ、5月4日の理事会で、記録的なインフレを抑え込むために、7回連続の利上げを決めました。
ただ利上げの幅はこれまでの0.5%から0.25%に縮小しました。)

Q.利上げ幅の縮小が意味することは?ヨーロッパのインフレや、今後の金融政策をどう見通していますか。

A.先週、利上げ幅を0.5%から0.25%へと縮小することを決めましたが、われわれはインフレとの戦いという旅を続けていて、それは終わっていません。

中期的に2%の物価目標を達成できるという十分な確信が持てて初めて戦いは終わるのです。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、エネルギー価格の上昇は非常に厳しかったです。

物価を押し上げてきたエネルギー価格が下落し、インフレのピークは過ぎた可能性は高いです。

ただエネルギーや食料を除いたインフレ率はまだ高すぎて不確実性が高い状況です。

相次ぐ銀行の経営破綻で、金融不安をどうみているか?

Q.今年3月以降、アメリカの銀行が相次いで経営破綻しています。
欧米でくすぶり続ける金融不安をどうみていますか。

A.アメリカでの地方銀行の破綻やクレディ・スイスによる混乱はありましたが、私たちの銀行システムは高度に監督されており、規制も強く、規模に関係なくすべての銀行に規制が及んでいます。

このところ金融環境は再び安定し、市場は安定的に推移しています。

中央銀行としての使命である物価の安定を脅かす状況を作らないために、規制や監督を強力に、かつ踏み込んだものにすることが重要だと考えています。

デジタル時代の金融不安にG7ではどのような議論?

(アメリカの「シリコンバレーバンク」の経営破綻は、SNSの投稿などをきっかけにインターネットの金融サービスを通じて急速な預金の流出が起きました。デジタル時代の預金の取り付けという意味で「デジタル・バンク・ラン」とも呼ばれます。)

Q.今回のG7では、こうした金融不安についてどのような議論が行われますか。

A.銀行の破綻から学ぶべき教訓や事態の進展の速さにおいてSNS=ソーシャルメディアがどのような役割を果たしたかについて検討することになるでしょう。

規制の強化や国際協力の必要性を感じたら、それを議論し、合意を目指すことになるでしょう。

デジタル通貨発行についての検討は?

Q.世界の中央銀行で、紙幣や硬貨と同じように使えるデジタル通貨について議論・研究が進んでいます。
ヨーロッパ中央銀行では、デジタル通貨の発行について、今後どのような検討を行いますか。

A.ECBでは、デジタル・ユーロの発行の準備に向けて検討をしています。

私たちの周りのあらゆるものがデジタル化されていて、中央銀行の通貨がデジタル化されない理由はないだろうと考えたからです。

私たちは2年にわたり、プライバシーの保護や基礎的なプログラムの設計、通貨の使いやすさに至るまで、あらゆる側面について検討を行っています。

そして今年10月には、ECB理事会が、デジタル通貨の試験運用を行う段階に移行するかどうかを決定する予定です。

日銀の植田総裁について

Q.4月に新たに就任した日銀の植田総裁について、どのような印象を持っていますか。

A.植田総裁とは、これまで何度かお会いしていますが、とても冷静で、堅実で、断固とした紳士であり、とてもコミュニケーション能力に優れていると思います。

ヨーロッパ中央銀行は前任の黒田総裁とは非常に良好な関係を築いてきましたが、植田総裁ともそうした良好な関係が続くと信じています。

また植田総裁は新しいリーダーシップのもとで金融政策の強みと弱みを理解するために、これまでの日本の金融緩和策について多角的レビューの実施を決めましたが、非常に賢明だったと思います。

私もヨーロッパ中央銀行の総裁としての仕事を始めたときに似たような取り組みを行いましたが、植田総裁は物価の安定を維持するために最善の方向性を導き出したと思います。

日本での男女間の格差について

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書(2022)」より作成
インタビューでは、世界の女性トップリーダー・ラガルド総裁に、女性の社会参画についても聞きました。

Q.世界経済フォーラムの「ジェンダー格差に関する調査」で、日本は調査対象の146か国のうち116位。
政治参加や経済の分野で日本は依然として男女間で大きな格差があるという結果になっています。
ラガルド総裁は、日本の現状を、どう見ていますか。

A.女性は才能やエネルギー、能力、知性の宝庫で、ふさわしいチャンスが与えられれば、職場はもっと良くなるはずです。

ただ女性は男性と比べて、いまだに低賃金で、短期間で不安定な契約をしているケースが多く、組織のトップにつく機会も十分ではありません。

日本の社会も、このジェンダーギャップの問題について多面的に向き合うべきだと思います。

家庭内や社会、企業、政治などのあらゆる場面で、なぜ女性が才能を発揮したり、意思決定の場に入れないのか見直す必要があると思います。

こうした問題に向き合うことで、他の国々と同様に日本も多くのものを得られると思います。
Q.なぜいつもエネルギッシュで、高い発信力を持ち続けられるのでしょうか。

A.おそらく若い頃に多くのスポーツを経験したことや、家族の存在が大きいと思います。

また、私は人生を愛しています。

私は私が歩んできた道のように、多くの若い女性に対して、私ができうる限り最良の働きかけをして、女性を励ましていきたいと思っています。

ラガルド総裁とは

フランス出身の67歳。

学生時代には、アーティスティックスイミングのフランス代表にもなったことがあり、その後は、弁護士として、企業の買収や出資といったM&Aなどを担当するなどキャリアを重ね、2007年にはフランスの経済財政産業相を務めました。

2011年には、女性として初めてIMF=国際通貨基金のトップである専務理事に就任。8年間にわたってギリシャの債務危機などの対応にあたったほか、女性の社会参画にも積極的に取り組んできました。

2019年からはこちらも女性としては初めてヨーロッパ中央銀行の総裁を務めています。

ヨーロッパ中央銀行はドイツやフランスなど単一通貨であるユーロ圏の金融政策を担っていて、ロシアによるウクライナ侵攻以降、域内で続く記録的なインフレへの対応を進めています。

ラガルド氏は、アメリカの経済誌、「フォーブス」で、毎年発表される「世界で最も影響力のある女性100人」に上位で選ばれるなど、発信力のある人物としても知られています。

利上げ続ける欧米の主な中央銀行

欧米の主な中央銀行は、インフレを抑え込むため、利上げを続けています。

このうち、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、今月、0.25%の利上げを決めました。

FRBの利上げは、去年3月にゼロ金利政策を解除して以降、10回連続で、今回の利上げによって政策金利は5%から5.25%の幅となりました。

ヨーロッパ中央銀行も今月、主要な政策金利を0.25%引き上げ、3.75%にすることを決めました。

利上げは去年7月から7回連続となりました。

また、イングランド銀行は日本時間の今夜、0.25%の利上げを決め、12回連続の利上げとなりました。
その一方で、▽FRBは、声明から、「今後も追加の金融引き締めが適切だと予想している」という文言をなくし、パウエル議長が次回会合で利上げを一時停止する可能性もあるという認識を示しました。

また、▽ヨーロッパ中央銀行は前回の会合と比べて利上げの幅を縮小し、▽イングランド銀行も3月の会合から、利上げの幅を縮小していて、アメリカで相次ぐ銀行の経営破綻の影響や、大幅な利上げが景気に与える影響に配慮した形となりました。

IMF=国際通貨基金は、先月(4月)発表した最新の見通しで、ことしの世界の経済成長率を前回・1月時点から0.1ポイント引き下げて2.8%とし、来年も3%にとどまるという見通しを示しました。

この中で、IMFは、インフレを抑え込むための中央銀行による急激な利上げの副作用が明らかになったと指摘しています。

金融不安が世界経済の懸念材料として浮上する中、インフレ抑制を優先してきた欧米の中央銀行は、これまで以上に難しいかじ取りを迫られています。