岸田首相 モザンビークに到着 首脳会談へ どんな国?【詳しく】

アフリカを歴訪中の岸田総理大臣は、日本時間の4日午前1時ごろ、アフリカ最後の訪問国・モザンビークの首都マプトに到着しました。4日夕方には、ニュシ大統領との会談を予定していて、モザンビークが世界有数の天然ガスの埋蔵量を持つなど資源に恵まれていることから、エネルギー分野などへの投資の促進を含め経済関係の強化を確認したい考えです。

また、モザンビークは北朝鮮と国交があることも踏まえ、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮情勢をめぐっても意見が交わされる見通しです。

さらに、日本とともに国連安全保障理事会の非常任理事国を務めていることから安保理改革を含む国連の機能強化に向けて緊密な連携を確認したい考えです。

モザンビークってどんな国?

アフリカ南部のモザンビークは、人口およそ3200万で国土は日本のおよそ2倍の大きさです。1975年にポルトガルの植民地支配から独立したあとも15年余りにわたって内戦が続き、現在も国民の半数以上が国際的な貧困ラインを下回る生活を送っています。

その一方、天然資源が豊富で、北部の沖合ではアフリカ最大規模の天然ガス田の開発が進められています。この開発が軌道に乗れば、将来的には年率20%を超える急速な経済成長を遂げる可能性があると期待されています。日本企業も、この天然ガス開発事業に参加していて、採掘された天然ガスの一部は日本にも輸出される見通しとなっています。

また、インド洋に面し、地政学的にも重要な位置を占めていて、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けても重視されています。

日本との関係は?

日本政府は、2020年度にODA=政府開発援助で7000万ドル余りを拠出するなど、モザンビークへの支援に力を入れています。特に現地からのニーズが高い分野の1つが日本が豊富な知見を持っている災害復興です。

モザンビークでは、ことし3月にもサイクロンが上陸するなど、近年、サイクロンがたびたび上陸し、大きな被害をもたらしています。4年前に大型のサイクロンが直撃し、甚大な被害を受けた中部の都市ベイラでは、いまも屋根が吹き飛ばされたままの建物が残っていて、復興の遅れが課題となっています。

こうした中、日本のJICA=国際協力機構はベイラでの復興支援として、倒壊した小学校の建て直しを進めています。猛烈な風でも屋根が吹き飛ばされないよう、軒を短くして風の力を受け流す構造を採用し、天井のはりを金具で補強することで建物自体の強度も上げています。

地元の小学校には7000人近くの児童が通っていて、児童の安全と教育の場を守るとともに、災害時には周辺に住む人々の避難場所としても利用されるということです。学校の副校長は「この校舎は、以前に比べて頑丈で、とても役に立っています。非常にありがたいです」と話していました。

また、ベイラでは漁業が盛んで多くの人が市場に屋台を建て、魚介類などを販売して生計をたてていますが、サイクロンで屋台が破壊されると商売に大きな影響を受けることになります。

そこでJICAは、日本の大工の協力を得て、くぎやネジを使わずに木材を組み合わせるだけで屋台を作る方法を地元の人に伝授しました。この工法だと屋台をいつでも解体したり組み立てたりすることができ、サイクロンが来る前に屋台を解体して安全な場所に避難させることができるということです。

屋台で魚介類を売る女性は「これはとても使い心地がよく、この屋台で商売を続けたいです。とても安心できます」と話していました。

中国やロシアとの関係は?

インド洋に面し、地政学的にも重要な位置を占めるモザンビークには中国がインフラ建設などで影響力を強めているほか、ロシアも旧ソビエト時代からの友好関係を築いています。

このうち中国は2000年代初めから進出を加速させています。アメリカのジョンズホプキンス大学によりますと、2003年に200万ドル余りだった中国の直接投資の額は、2021年には12億ドル余りと500倍以上に膨れ上がっているということです。

また、首都マプトに湾をまたぐ巨大な橋や国立競技場のスタジアム、それに政府の庁舎などを次々と建設し、存在感を際立たせています。

一方、古くからの友好国のロシアの影もちらつきます。モザンビークでは近年、イスラム過激派が活動を活発化させ、テロや襲撃を繰り返しています。治安の悪化を受けて日本企業が参加する北部の大規模な天然ガスの開発事業は中断され、経済にも大きな打撃となっています。

現在は、南アフリカやルワンダなどの周辺国が部隊を派遣して過激派対策を進めていますが、2019年ごろにはロシアの民間軍事会社「ワグネル」が過激派の掃討に協力していたと指摘されています。

モザンビークの現政権は、ポルトガルからの独立戦争やその後の内戦で旧ソビエトの支援を受けてきた歴史があり、現在でも友好関係を維持しています。ロシアのウクライナ侵攻から1年となる、ことし2月に国連総会でロシアを非難する決議の採決が行われた際にも、モザンビークは「棄権」するなど、同様の決議をいずれも棄権していてロシアに一定の配慮をしているとみられます。

過激派の活動の影響って?ワグネルも関係?

モザンビークでは過激派のテロや襲撃によって住む家を追われた人は、国内におよそ100万人いるとされています。

このうち、3年前に北部の町から500キロ余り南の都市に避難してきた31歳の女性は、5人の子どもを抱えながら日々の食事にも事欠く暮らしを続けています。もともと住んでいた集落は過激派グループによって焼き払われ、住民の多くが殺されたり連れ去られたりしたということです。避難先では仕事もなく、親類や周囲の人の助けを借りて生活しているということです。

女性は「故郷に戻りたいですが、そこにはもう家もなく、寝る場所もありません。何も残っていないのです」と話していました。

アフリカでは、マリや中央アフリカなど過激派の活動や武力紛争が続く国にワグネルの部隊が展開し、ロシアの影響力を強めるいわば「先兵」としての役割を果たしています。

軍と準軍事組織の衝突が続くスーダンでもワグネルが関与していると指摘されていて、先月にはアメリカのブリンケン国務長官が「ワグネルの関与はより多くの死体と破壊をもたらすだけだ」と述べ強い懸念を示しています。

一方で、モザンビークの専門家は、大国間の対立が深まる中、アフリカの国々は、その対立に巻き込まれることを強く警戒していると指摘します。モザンビークのエコノミスト、エルシディオ・バシータ氏は「モザンビークは、西側諸国、中国、ロシアのどの陣営にも肩入れしない。アフリカの国々は冷戦期のような状況を望んでおらず、すべての国と良好な関係を保ち大国の対立がアフリカに影響しないことを願っている」と話しています。

日本ができることは?

モザンビークでは、首都マプトある南部に比べて北部の発展が遅れているのが大きな課題になっていて、貧困や格差の広がりが過激派組織の浸透を許す背景にもなっていると指摘されています。

このため日本政府は北部の都市ナカラで、物流の拠点となる港の施設の大規模な改修工事を行っていて、ことし中にも完成する予定です。日本政府は、このナカラ港を起点に幹線道路や電力インフラなどを整備し、北部と周辺の内陸国にまたがる物流のネットワークをつくるプロジェクトを進めていて、北部の経済発展を後押ししたい考えです。

モザンビークの日本大使館の木村元大使は「モザンビークは天然ガス開発が進めば経済が急成長する極めて高い潜在能力を持っています。中国の存在が圧倒的になってはいますが、日本としては現地のニーズに重点を置いた協力を進めていきたい」と話していました。