G7農相会合始まる 食料安全保障の強化 一致できるか焦点

G7=主要7か国の農相会合が宮崎市で始まりました。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、食料安全保障の強化に向けて農業生産の拡大や途上国への支援などで一致できるかが焦点です。

G7の農相会合は、22日と23日の2日間宮崎市で開かれ、22日は午前10時から各国の閣僚が出席する本会合が始まりました。

この中で、議長を務める野村農林水産大臣は「多くの価値観を共有するわれわれG7は、世界の議論をリードする中心的な役割を担ってきた。食料安全保障を危うくする事態に直面する中、農業や食料システムを持続可能なものにするため、真剣に議論し、解決策を世界に発信する必要がある」と述べました。

ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や気候変動問題などで、食料価格が世界的に高騰し、途上国では食料危機への懸念も高まっています。

このため今回の会合では、食料安全保障を主なテーマとし、農業生産をどのように拡大し、そのノウハウを途上国への支援に生かしていくかや、環境にも配慮した持続可能な農業を実現するかなどについて議論が交わされる見通しです。

また、ロシアからの軍事侵攻によって多くの農地や農業施設が被害を受けたウクライナの農業の再建に向けた支援も表明する見通しで、G7各国が食料安全保障の強化に向けて農業生産の拡大や途上国への支援などで一致できるかが焦点です。

世界の食料価格の指数 3年連続で上昇

ロシアによるウクライナ侵攻やコロナ禍からの経済回復を受けて、世界の食料価格は高止まりを続けています。

FAO=国連食糧農業機関は世界の食料価格を指数として発表していますが、2022年の平均は143.7ポイントと、前の年を18ポイント上回り、3年連続で上昇しました。

これは小麦やとうもろこしなどの穀物に加え、パーム油などの価格が高騰したことによるものです。

軍事侵攻の長期化によって、ロシアとウクライナから食料や肥料などの供給が滞るのではないかという懸念もあって、身近な食料品の値上がりにつながっています。

こうした中、G7として食料安全保障の強化に向けていかに農産物の生産を増やすかや食料事情が悪化する途上国への支援を進めるかが課題となっています。

食料安全保障の強化へ 少ない肥料でも収量維持できる小麦開発

日本では化学肥料の原料を輸入に頼っていることから、国の研究機関では少ない肥料でも収量を維持できる小麦の品種開発を進めています。

食料の増産には肥料が欠かせませんが、化学肥料の原料となる窒素を作るのに必要な尿素は80%余りをマレーシアや中国に依存しています。

このため茨城県つくば市にある「国際農研=国際農林水産業研究センター」は、おととし(2021年)窒素肥料を6割減らしても収量を維持できる小麦の品種開発に成功しました。

土壌に含まれている自然由来の窒素を吸収しやすくなるよう品種改良を行ったということです。

この研究機関では、国内だけでなく世界2位の小麦の生産量を誇るインドでもこの品種を普及させようと、去年(2022年)から現地で実証実験を行っていて、10年以内の実用化を目指したいとしています。

国際農研で研究の責任者を務める吉橋忠さんは「この技術によって小麦が増産され、世界に食料が行き渡るようにしたい。それが日本の食料安全保障の強化にもつながると思う」と話していました。

持続可能な農業目指し 牛のふん尿利用して発電

持続可能な農業を目指そうと宮崎県の牧場では、牛のふん尿を発電や肥料として活用する新たな取り組みが始まっています。

畜産農家にとって、牛のふん尿は▽数か月発酵させて肥料として利用するか▽産業廃棄物としてお金を支払って処分するしかなく、かかる時間とコストが大きな課題となっていました。

こうした中、宮崎県新富町で乳牛250頭を肥育している本部博久さんの牧場では、3年間に3億円以上をかけて牛のふん尿から出るメタンガスを利用して発電する「バイオガスプラント」を設置しました。

この牧場での発電量は、1日当たり1000キロワットアワー以上、一般家庭のおよそ100軒分に当たり、発電した電気は、電力会社に販売しています。

また、発電に利用したふん尿の残りは、▽牛の餌となる牧草を育てる畑の肥料や▽木くずを購入して作っていた牛の寝床にも代用されていて経費削減にもつながっているということです。

発電した電気の販売でこのプラントの設置費用を回収するにはおよそ20年かかるということですが、本部さんは「資源を有効活用して、持続可能な循環型の農業を進めていくことが今後、農業を続けていくうえで必ず必要となってくる」と話しています。

日本とカナダで共同声明発表

22日は農相会合にあわせて、野村農林水産大臣とカナダの閣僚が会談し、食料や肥料の原料の安定供給に向けた共同声明を発表しました。

G7の農相会合が開かれている宮崎市の会場で野村農林水産大臣はカナダのビボー農業・農産食料相と会談しました。

カナダは、化学肥料の原料となる塩化カリウムの埋蔵量のおよそ4割を占めるほか、菜種や小麦の主要な生産国にもなっています。

このため両国は、日本がカナダからの輸入に依存する塩化カリウムのほか、菜種や小麦といった物資の供給を維持するための共同声明を発表しました。

この中では、物資の供給が滞らないよう、政府間で定期的に対話を行うほか、情報交換の枠組みを設けることにしています。

会談の中で野村農林水産大臣は「ロシアのウクライナ侵攻以降、カナダの重要性が非常に増している。食料安全保障への関心が高まる中、安定供給に向けた共同声明を発表できて大変誇らしい」と述べました。

これに対しビボー農業・農産食料相は「政府としても、日本が必要とする物資の量を確保できるよう企業にも働きかけていきたい。カナダの産業界の代表も日本とのビジネスに好意的で、強固な関係を築いていきたい」と応じました。