【16日詳細】首相演説先で爆発物 現場で何が 容疑者は

15日午前、岸田総理大臣が和歌山市の漁港を選挙の応援で訪れていたところ、演説の直前に爆発物が投げ込まれました。岸田総理大臣は現場から避難してけがはなく、警察官1人が軽いけがをしました。

警察は、兵庫県に住む24歳の容疑者を威力業務妨害の疑いでその場で逮捕しました。調べに対し「すべて弁護士が来てから話す」と供述しているということです。

事件に関する詳しい情報などについて、随時更新で詳しくお伝えします。

容疑者 刃渡り約13センチの果物ナイフを所持

警察は、兵庫県川西市に住む木村隆二容疑者(24)を威力業務妨害の疑いでその場で逮捕しました。

その後の捜査で、木村容疑者が取り押さえられた際、刃渡りおよそ13センチの果物ナイフを手提げかばんの中に入れて持っていたほか、ライターや携帯電話も所持していたことがわかりました。

また、警察は、16日未明から8時間余りにわたって容疑者の自宅を捜索し、警察や捜査関係者によりますと、火薬とみられる粉末や工具類、金属製のパイプのようなもののほか、パソコンやタブレット、それにスマートフォンを押収したということです。

逮捕後の調べに対し、木村容疑者は「すべて弁護士が来てから話す」などと供述し、その後も黙秘を続けていて、雑談にも応じていないということです。

この事件では、警察官1人が腕に軽いけがをしましたが、その後、聴衆の70代の男性も背中に軽いけがをしていたことがわかりけが人は2人となりました。

警察は押収した資料を分析し、事件の動機やいきさつを詳しく調べています。

岸田首相が到着直後に演説会場に入ったか 防犯カメラ映像

この事件で、逮捕された木村容疑者は総理大臣が漁港に到着した直後に演説会場に入ったとみられることが防犯カメラの映像でわかりました。

応援演説の会場となった和歌山市の雑賀崎漁港に、岸田総理大臣は15日午前11時17分ごろ、車で到着しました。

NHKが入手した現場から直線距離で150メートルほど離れた飲食店に設置された3つの防犯カメラの映像には、その時間帯に木村容疑者とみられる人物が会場のほうに向かう姿が写っていました。

この人物は、確保された際の容疑者と同じくグレーのリュックサックを背負い、黒っぽい上着を着てマスクをつけ、傘を持っています。

1つ目のカメラには、総理大臣が乗った車など6台の車列が店の前を通過するタイミングで、この人物が店のすぐ横の小道から車列が走る通りに向かって歩いて出てくる様子が写っています。

2つ目のカメラには、この人物が店の前を通り過ぎる車列を横目に見ながら歩いている様子が写っていました。

そして、3つ目のカメラには、車列とともに現場の方向に向かって歩いていく様子が見られます。

また、演説会場で撮影された別の映像には総理大臣が到着したおよそ1分後、海産物を試食している間に、容疑者と似た人物が会場に入ってくる様子が写っています。

防犯カメラなどの映像からは容疑者が岸田総理大臣の到着後に聴衆の中に入り込んでまもなく事件を起こした疑いがあることがわかります。

容疑者 かばんの中 確認するような様子

和歌山市の漁港の現場から90メートルほどの場所にある建物に設置された防犯カメラにも容疑者とみられる人物が現場に向かって歩く様子が写っていました。

この人物は、岸田総理大臣が乗った車列が通過したおよそ20秒後にカメラに写り込み、背負っていたグレーのリュックサックを前に抱えるように持ち替え、中から何かを取り出すような動きをしているように見えます。

そして、リュックサックを背負い直し、傘を持っていた左手に手提げかばんを持ち、現場の方向に向かっていく様子が写っています。

また、別の角度のカメラには、歩きながらかばんの中をのぞき込むように確認するような様子が写っていました。

容疑者が当時所持 ライターを警察が押収 爆発物着火に使用か

これまでの捜査で、爆発物とみられる筒状のものが現場から2つ見つかり、1つは投げ込まれてから時間差で爆発した一方、もう1つは爆発せず、木村容疑者が取り押さえられた際に所持していたとみられ、警察は形状などから「鉄パイプ爆弾」の可能性があるとみています。

筒の端の付近からは導線のようなものが出ていて、警察は爆発物の起爆の仕組みなど詳しい構造を調べていますが、容疑者が当時所持していたライターを押収していることが捜査関係者への取材で分かりました。

さらに、現場の防犯カメラの映像を分析した結果、容疑者がライターを手に持っていたことも確認されたということで、警察当局は爆発物に着火させるため使用した疑いがあるとみて調べています。

容疑者の家族「この数年 家に閉じこもる生活」

警察が、逮捕された木村隆二容疑者の最近の様子について家族に聞き取りをしたところ「現在、定職には就いておらず、この数年、家に閉じこもる生活が続いていた。なぜこのような事件を起こしたのか分からない」などと話していることが捜査関係者への取材で分かりました。

警察は、引き続き、家族などから話を聞くなどして事件の動機やいきさつを詳しく調べることにしています。

容疑者の同級生「学校ではおとなしい感じの生徒でした」

逮捕された木村隆二容疑者が住む自宅は、兵庫県南東部にある川西市の閑静な住宅街の一角にあります。

近所の複数の住民によりますと、一家は15年ほど前に市内の集合住宅から今の自宅に引っ越してきて、現在も、家族と一緒に暮らしているということです。

容疑者が小学生だった頃は、父親に連れられて近所の食料品店で一緒にお菓子を選ぶなど、仲むつまじい様子だったということです。

容疑者の自宅の近くに住む60代の女性は「中学を卒業したあとも近所で顔を合わせれば、あいさつをする礼儀正しい姿が印象に残っている。自宅の庭で、容疑者が母親と一緒にガーデニングを楽しむ姿を何度も見ていた」と話していました。

一方、この数年は、容疑者が学校や仕事に出かけるような様子を見かけることは無かったということです。

容疑者の中学生時代を知る同級生の男性は「朝早く登校してきて自分の机に突っ伏している様子をよく見かけました。教室で友達と話したり遊んだりしている印象はあまりありませんでした」と話していました。

また、別の同級生の女性は「あまり会話をした記憶はありませんが、学校ではおとなしい感じの生徒でした」と話していました。

容疑者を取り押さえた漁師「無我夢中で押さえ込んだ」

現場で木村容疑者を取り押さえた漁師の西出さん(54)が16日、報道陣の取材に応じました。

西出さんによりますと、容疑者は当時、西出さんの左前方にいて、何かを投げたのが見えたということです。

当時の状況について「演説の写真を撮ろうと思って前に歩いて行くと、容疑者が何か物を投げたのが見えた。投げた後も、さらに手元で何かをしているしぐさがあったので、無我夢中で押さえ込んだ。去年の安倍元総理の事件が頭に浮かび『まさか』と思いながら取り押さえた」と振り返りました。

また、その際の容疑者の様子について「取り押さえたときも、投げた物が爆発したときも、ことばを発することはなく無表情のままで、抵抗することもなかった。ただ、手に持っていた筒状のものを離さなかったので、私が払い落とした」と説明しました。

そのうえで「もし手に持っていた筒状のものが爆発していたら、けが人が出ていたかもしれない。結果的に爆発せず、けが人も出なかったので本当によかった」と話しました。

15日の夕方には岸田総理大臣から電話があったということで「『本当にありがとうございました』と言われたので、『けが人がいなくてよかったですね』と伝えた」と話していました。

地元の漁師の男性 背中にすり傷も警察に届けず

今回の事件で警察はこれまでのところ、けがをしたことが確認されたのは男性警察官1人だと発表していますが、当時、現場にいて、背中に痛みを感じたと訴える人もいました。

15日、岸田総理大臣の演説を聞くため現場を訪れていた70歳の地元の漁師の男性は、爆発物が投げ込まれた場所の近くに立っていたといいます。

爆発があった直後に背中に痛みを感じ、確認したところ、数センチほどのすり傷があったということです。

男性は「演説を待っていたら、容疑者を取り押さえようと騒ぎになり、後ろを振り返ると爆発が起こりました。近くに筒状のものが落ちていたので、すぐに現場から離れて逃げました。痛みはもうひいています」と話していました。

男性は大きなけがではなかったとして病院には行かず、警察に届ける予定もないということです。

容疑者宅から火薬とみられるものやパソコンなど押収

警察は、威力業務妨害の疑いで逮捕された木村容疑者の自宅を捜索しましたが、捜査関係者によりますと、火薬とみられるものやパソコンなどを押収したということです。

警察は、木村容疑者が所持していた免許証の情報などから容疑者の特定を進めたことが分かっていますが、このほかに、本人の携帯電話が押収されていたことが捜査関係者への取材で分かりました。

また、同居している容疑者の家族は「前日の夜には家にいたが、当日の朝起きたらいなくなっていた」と話しているということです。

木村容疑者は、調べに対し「弁護士が来てから話す」として、事件についての具体的な供述をしていないことから、警察当局は携帯電話に残された履歴の解析や関係者への聞き取りなどから、動機やいきさつの解明を進めることにしています。

9:40ごろ 現場では警察が検証作業

和歌山市の雑賀崎漁港の現場では、16日も警察が検証作業を行っています。

午前9時40分ごろには、およそ10人の警察官が鑑識活動に当たり、現場の建物をさまざまな角度から撮影していました。

また、爆発物が投げ込まれた付近では、地面にライトを当てて遺留物がないかなど入念に調べている様子が見られました。

検証作業に立ち会った雑賀崎漁業協同組合の濱田光男組合長は「現場には爆発したとみられる長さ25センチくらいの銀色の筒状のものが残っていました。小さな破片はまだ残っていて、警察が写真を撮影していました」と話していました。

9:20 岸田首相「選挙運動が妨げられないよう警備に万全を」

和歌山市での爆発事件を踏まえ、岸田総理大臣は、16日記者団に対し、暴力に屈せず、今月23日に投票が行われる衆参5つの補欠選挙などをやり通すことが重要だとして、各党の活動が妨げられないよう、警察に対し、警備に万全を期すよう求めました。

この中で岸田総理大臣は、今回の事件について「民主主義の根幹となる選挙で暴力的な行為が行われたことは絶対許すことはできない。大切なことは選挙を最後までやり通すことで、各党の選挙運動が妨げられないよう、警察には警備や安全に万全を期してもらいたい」と述べました。

また来月のG7広島サミットを控え、今回の警備態勢は十分だったと考えるか問われ「警備については、事件の捜査が進むと同時に検証も行われる。いずれにせよ、サミットをはじめ、世界各国から要人が集まる日程では、最大限、警備や安全に努めていかなければならない」と述べました。

9:00過ぎ 兵庫の容疑者宅の捜索終了

警察は、16日未明から行っていた兵庫県川西市にある木村容疑者の自宅の捜索を午前9時すぎに終えました。

捜査員たちは関係資料が入ったとみられるダンボール箱、10箱余りを運び出して車に積みこんでいました。

警察は押収した資料を分析し、事件の動機やいきさつを詳しく調べることにしています。

1:00ごろ 兵庫の容疑者宅を捜索 警察

警察は、事件で爆発物が使われたことから、近隣の住民に避難を呼びかけるなどしたうえで、警察は木村容疑者の自宅を捜索しています。

警察は周辺に規制線をはり、近隣住民に避難を呼びかけたうえで、木村容疑者の自宅の捜索に入りました。

規制線の外からは、防護服を着た警察官が爆発物処理の機材を運び込んでいる様子が確認できます。

現場は演説など頻繁に行われず “予備審査”なし

警察庁によりますと、今回の演説会場については和歌山県警が現場を事前に視察する「実査」を行ったうえで、県警が事前に作成した「警護・警備計画」の報告を受けて警察庁が確認・審査をしたということです。

また、今回の「警護・警備計画」の作成や、審査などには時間的な余裕があったとしています。

警察庁は、安倍元総理大臣の銃撃事件を受けて、選挙の演説が頻繁に行われる場所については「警護・警備計画」の作成を速やかに進められるよう、県警と警察庁が合同で現場確認する「予備審査」を行っています。

ただ、今回の演説会場については、演説などが頻繁に行われる場所ではなかったことなどから「予備審査」は行わなかったということです。

また、演説の会場では金属探知機などを使用する場合もありますが、今回は使用していないということです。

専門家「今後の警備に大きな課題」

テロ対策に詳しい、公共政策調査会研究センター長の板橋功さんは「現職の総理大臣がターゲットにされたことは、非常に重大な事件だ」としたうえで「選挙における警備のあり方をきちんと議論していく必要があるのではないか」と指摘しました。

板橋さんは爆発物について「映像を見るかぎり、筒状で煙が出ているので、『鉄パイプ爆弾』の可能性があるのではないか。2つ持っていたということは計画性があったように考えられる。また、殺傷能力があるものだったのかについては今後、重要になるだろう」と話していました。

また、現場の警備態勢については「投げられた物をすぐに遠ざけて、盾を広げながら総理を避難させたことは、体が瞬時に動いていて、訓練の成果が出ていたと思う。一方で、爆発まで時間があって運がよかったが、岸田総理のかなり近くに落下したことについては今後の警備に大きな課題を残したのではないか」と指摘しました。

そのうえで「現職の総理大臣がターゲットにされたことは非常に重大な事件で、安倍元総理に続いて選挙の遊説中に発生したことは、不特定多数の人が入り混じる選挙活動中の警備の難しさが今回、改めて浮き彫りになった。警備を強化することで選挙活動に影響を与えてしまう可能性もあり、警察として判断が非常に難しい面がある。選挙における警備のあり方をきちんと議論していく必要があるのではないか」と話していました。

「鉄パイプ爆弾」の可能性 筒の両端付近から導線のようなもの

捜査関係者によりますと、現場からは爆発物とみられる筒状のものが2つ見つかり、このうち1つは投げ込まれてから時間差で爆発し、もう1つは爆発せず、木村容疑者が取り押さえられた時に所持していたとみられるということです。

いずれも金属製とみられ、「鉄パイプ爆弾」の可能性もあるということで、警察が、爆発せずに現場に残されていた筒状のものを押収して調べたところ、筒の両端の付近から導線のようなものが出ていたことが捜査関係者への取材で分かりました。

「鉄パイプ爆弾」は、筒の中に密閉した火薬を爆発させるため、筒の外に伸びた導火線に着火させる仕組みのものがあり、当時、近くにいた人からは、容疑者がライターに火をつけるような動きをしていたという証言も出ています。

一方、起爆させるためのスイッチを筒の外に取り付けることもあるということで、警察当局は爆発物の詳しい構造や殺傷能力の有無などについて分析を急いでいます。