「もっと早く始めておけばよかった」80代 1人で始めた『終活』

私、1人で生きることになったので。

やはり最後までなんとか、生きられるだけ自分の力で生きていきたいなあと思って、それで「終活」始めたんです。

葬式はしなくていいです、火葬してもらえれば。お墓は樹木葬で。

私は80過ぎて始めたんですけれども、もっと早く始めたほうがよかったなと思っています。

「覚悟していた」その日が

そう話すのは、東京・豊島区の酒向靖雄さん(83)です。
3年前、約30年間連れ添ったパートナーの女性を、がんで亡くしました。

がんの治療が続く中、亡くなったあとのことは最後までほとんど話すことができなかったと言います。

「覚悟はしてたんですけどね。明るい性格で、『私があなたの面倒を見るわよ』って言ってくれるような人でした。そのときは『終活』ということばも知らず、あとのことはなるようになるだろう、ぐらいしか思っていませんでした」
パートナーが亡くなって1か月ほど後、子や孫のいない酒向さんは自分の死後のことを考え、「終活」を始めました。

孤立死などで他人に迷惑をかけることに強い不安を感じたのがきっかけでした。

そして、地元の区の社会福祉協議会や終活の相談窓口などを訪れ、その後2年半余りにわたって人生の終わりへの備えを進めています。

始まった「終活」 その内容は

「終活」とは、人生の終わりに備えて受けたい医療や葬儀などをあらかじめ考え、準備することです。

具体的には、何を準備すればいいのでしょうか。酒向さんがやったことを並べてみると…

▽預貯金の整理
▽葬儀や納骨を行う業者と契約
▽臓器提供の意思表示
▽公正証書遺言の作成
▽その保管場所などの情報を区に登録
▽親族にも意思を伝え、緊急連絡先になってもらう承諾を得る
▽判断力が低下したときのため成年後見制度の利用の準備
▽区の窓口でもらった「エンディングノート」の書き込み。持病や薬、かかりつけ医などの情報に加え、病気や事故などで回復が見込めない状態になった時には延命治療は望まないことなども記載。

などなど…と続きます。

「元気なうちから亡くなったあとのことを」

実際に準備をして、酒向さんはどう感じたのでしょうか。
「エンディングノートを書いて少し安心できました。でも、もっと早く始めた方がよかったと感じます。自分1人で生きていかなきゃならないと追い詰められてやるよりも、慌てずにやった方がいいと思います。助けてもらえる人をたくさん作っておくのが大切で、お互い支え合って生きている夫婦なら、なおさら、元気なうちから亡くなったあとのことを考えて話し合っておくのがいいと思う」

「終活はもっと先でいい」80代でも3割が

「終活」について皆さんはどのように考えていますか?

ここで、日本総合研究所が「終活」について聞いたアンケートを見ていきます。

このアンケートは、厚生労働省の補助を受け、ことし1月、東京・稲城市と神奈川県横須賀市の50歳以上85歳未満の7000人を対象に調査を行い、およそ2500人から回答を得ました。

まず、「自分の病気や要介護、死亡時に、周囲の人が手続きできるよう備えたいか」と尋ねた質問では

▽「そう思う」65.9%
▽「ややそう思う」24.7%
▽「あまりそう思わない」4.0%
▽「そう思わない」1.7%
▽「無回答」3.7%

「そう思う」と「ややそう思う」と回答した人が合わせて9割以上に上りました。

一方で、備える際の課題を尋ねた質問では…
「もう少し先でいいと思う」が44.1%と、最も多くなりました。

さらに、この「もう少し先でいいと思う」と回答した高齢者の割合を年代別にみたのが下の図です。
終活は「もう少し先でいい」と答えた人は、80歳以上でも3割以上に上ることがわかりました。

相談に来るのは1人になってから?

では、実際に終活をしているのはどのような人たちなのでしょうか。

酒向さんが住む東京・豊島区では、終活についての相談窓口「終活あんしんセンター」をおととし2月に開設し、これまで相続や遺言、終活全般に関することなど1500件余りの相談が寄せられました。

相談に来た人を年代別に見たのが下の図です。
最も多い70代と次に多い80代をあわせると、全体の67%を占めています。
続いて世帯別でみると
▽「1人暮らし」が54%
▽「高齢者世帯」が26%
▽「その他」(子どもと同居など)20%となっています。

性別は女性が65%、男性が35%。

3人に2人は女性で、男性は死別や離婚するなどして1人になってから相談に来る人が多いということです。
センターの運営を受託している豊島区民社会福祉協議会の天羽瞬一チーフは次のように話しています。

「男性は病気や入院などで必要に迫られて来る人が多い。後回しにしてしまうと、気力や体力が落ちて、財産や考えなどが十分整理できなくなるおそれもあり、早めに取り組むことで希望どおりの生活を送れることにもつながるので年齢を問わず検討してほしい」
この日、相談に訪れた62歳の女性は、住民が終活を通して検討や準備した内容をあらかじめ登録する区の制度に申し込んでいました。

この制度は、葬儀の契約先や遺言書の保管場所などの情報をあらかじめ区に登録し、本人が亡くなったあとに、警察や消防、病院、本人が指定した人などからの照会に限って登録した情報を開示して、本人の希望をとげられるようにするための仕組みです。

相談に訪れた女性
「夫は死後のことなどは特に考えずに亡くなってしまったので、自分のときは遺産や葬儀のことなど決めておきたいと思い登録しに来ました。亡くなってから迷惑がかからないよう、お金をかけずに準備したい」

「年を重ねるほど負担大きい 早めの準備が大切」

調査した日本総合研究所 沢村香苗研究員
「今は終活の必要性を感じていない人でも年齢を重ねてからでは体力的にも大変です。高齢になると人との関係が変わってしまうこともありますが、できるだけ意識的につながりを作っておき、それが他の人にも分かるようにエンディングノートなどに記しておくことはすごく有効な手段だと思います。
自分の気持ちが途中で変わっても、その時は内容を変更すればいいので、自分にとって今何が大事で、望む生活や最後はなんなのか、できるだけ早いうちから考えるようにしてほしい」

自治体の“終活支援”広がる

こうした中、終活支援に乗り出す自治体も増えています。

豊島区と同じような高齢者の情報登録などの終活サービスは神奈川県の横須賀市や大和市でも行っています。

東京・青梅市では1人暮らしの高齢者で親族がいないなど一定の条件を満たす人に、葬儀などの生前契約をサポートする事業を行っています。

名古屋市でも葬儀や納骨、家財処分などの費用をあらかじめ預けておくことで、死後に代行する事業を行っています。
また、各地の社会福祉協議会でも独自に終活を支援するところがあります。

墨田区社会福祉協議会では、今年度から1人暮らしの人の見守りから死後の行政手続きまでを有料でサポートする「すみだあんしんサービス」を始めています。

福岡市社会福祉協議会では毎月数千円の利用料で納骨や死後の手続きなどを委託する事業を行っています。

そのほかの地域でも同様のサービスを提供していたり、エンディングノートを無料で配布したりしているところがあります。

まずは、お住まいの自治体などに確認してみてください。

「だから、準備をしておく」

さて、「終活」を始めて2年半あまりが過ぎた豊島区の酒向靖雄さん。

取り組む中で「少し安心できた」と話す一方、「もし終活ができずに孤立していく人がいても、それはその人の人生なので、僕らの社会が受け入れるしかない」とも話していました。
最後に、終活に取り組む今の思いを改めて尋ねると、こう話していました。

「人は、自分の死っていうのは選ぶことができないでしょう。選ぶことができないんだから、こうやって自分は万全だと思っていても、もう明日は生きていないかもしれないってことがありうるんです。
でもできることなら、自分自身の死を穏やかなものにしたいというのが誰もの願いじゃないですか。でもそれが、穏やかにできない人だっているじゃないですか。だから、準備をしておくってこと。そういうことですよね」