戻ってきた甲子園の日常~高校野球 センバツが残したもの

戻ってきた甲子園の日常~高校野球 センバツが残したもの
センバツ高校野球は、山梨学院(山梨)が春夏通じて県勢初の優勝を果たし、大会の幕を閉じました。

今大会は35試合のうち25試合が3点差以内の好ゲームとなりました。後押ししたのは、球児たちの憧れの舞台“甲子園”に、4年ぶりに戻ってきた日常でした。
(センバツ取材班:並松康弘)

本当の甲子園が戻ってきた

高松商(香川) 横井亮太主将
「さまざまな制限があった生活も徐々に終わりを迎えつつあります。野球ができること、それを応援してもらえることは当たり前ではなく、大変ありがたいことだと感じています」
4年ぶりに出場校の選手全員が参加した開会式の選手宣誓で、高松商業(香川)の横井亮太主将は、コロナ禍を乗り越えて、大会に出場できる喜びを伝えました。
そのことばどおり、球児たちは憧れの甲子園で力を発揮し、35試合のうち70%以上の25試合が3点差以内の接戦。

1点差での決着も10試合ありました。
その要因について、NHKの中継番組で解説を務めた川原崎哲也さんは4年ぶりに認められた声援の力が大きいと話しました。
解説者 川原崎哲也さん
「声援の力がすごくて、解説していてもゾクゾクした感覚がありました。声援が選手たちのプレーに乗り移って、後押ししているように見えましたし、本当の甲子園が戻ってきたと感じました」

4年ぶりに戻ってきた景色

ことしの大会では、アルプス席から力強い声援に加えて、人数制限がなくなった吹奏楽の大迫力の演奏、さらにチームカラーのメガホンも合わさって、声援はその力強さを増していきました。
マスクの着用も個人の判断とされ、感染拡大前の水準に近づく、合わせて37万人余りの高校野球ファンが来場し、本来の甲子園の姿を作り出していました。

声のある応援歌が原動力に

応援を力に躍進したチームの象徴となったのが、決勝に進んだ2校です。
優勝した山梨学院はアルプス席からオリジナルの応援歌「球心歌(きゅうしんか)」がグラウンドの選手たちを後押ししました。

野球部OBのシンガーソングライターと一緒に歌詞を考えた応援歌で、チームは去年、春夏連続で甲子園に出場しましたが、声援が認められていなかったため、アルプスからグラウンドに、その歌詞を届けることはできませんでした。
ことしはコロナ禍をともに乗り越えてきた仲間への思いを乗せた歌詞が甲子園に響き渡りました。

「カッセー山学 野球の神と約束をした 響け 俺たちの甲子園」決勝で一挙7点を奪った5回にも「球心歌」が響き渡り、選手たちの原動力となりました。
山梨学院 進藤天主将
「思い、ことばを込めた自分たちだけの曲なので、気合いが入りますし、チーム全員の勢いがつきます」
山梨学院 星野泰輝選手
「“俺たちの甲子園”という歌詞が好きです。声があることで力になって後押しされました」

新たな“魔曲”も誕生

試合終盤に粘り強さを見せて、準優勝した報徳学園(兵庫)も球場一体となった応援が選手たちを後押ししました。
演出したのが「アゲアゲホイホイ」のかけ声でおなじみの応援曲。

男子校ならではの野太く、力強い声援に、時には内野席や外野席の観客も加わり、球場が揺れるような応援になりました。
2試合連続で延長タイブレークでのサヨナラ勝ち、連覇を狙った大阪桐蔭に最大5点差を逆転するという劇的な展開を呼び込む“魔曲”となりました。
報徳学園 4番 石野蓮授選手
「鳥肌が立って、気持ちが乗りました。球場全体を巻き込むようなあの応援がなかったら決勝までこれなかったと思います」
報徳学園 堀柊那主将
「どのチームより、すごい応援をしてもらって、スタンドとグラウンドの選手が一体となって戦うことができたと思います」

新たな歴史の1ページも

甲子園球場が来年で100年を迎えるのを前に、高校野球の新たな歴史が始まった大会にもなりました。
女子部員が試合直前の守備練習でノッカーを務めることができるようになり、城東(徳島)の女子マネージャー、永野悠菜さんが春夏の甲子園で女子で初めてノックを打ちました。

1球1球丁寧に、内野にノックを打ち分ける姿は、新しい1ページに刻まれた瞬間となりました。
城東 女子マネージャー 永野悠菜さん
「多くの人たちが見ている前で堂々と甲子園に立ててよかったと思います。諦めなかったら夢を叶えることができると実感しました」

全員が戦い抜いた“その先に”

新型コロナの感染が広がってから甲子園で行われた高校野球の全国大会では、おととしの夏と去年の春に、それぞれ2校が集団感染などで出場を辞退しました。去年夏は出場辞退こそなかったものの、大会中に感染が確認され、メンバーから外れざるを得ない選手も相次ぎました。
ことしは、新型コロナの影響による選手の登録変更はなく、出場36校、合わせて648人の球児全員が最後まで戦い抜くことができました。
今大会から試合後の監督や選手の取材もリモート形式から対面形式に戻り、球児たちに直接話を聞くことができましたが、幼い頃から憧れてきた姿に近い甲子園でプレーできた喜びを話す晴れやかな表情が印象的でした。
コロナ禍を乗り越えて、たどり着いた夢舞台は、球児たちが夏に向けて、さらなる成長を誓う機会になったと感じました。
大阪放送局 記者
並松 康弘
新潟局、仙台局を経て2021年秋から現所属
高校野球取材担当
自称“高校野球とプロ野球の応援歌マニア”
学生時代は球場で応援歌を歌うのが日常でした