先端半導体製造装置 中国などへの輸出手続き厳格化 なぜ?

政府は、先端半導体の製造装置23品目の輸出管理を厳しくする措置を新たに行うと発表しました。
国内外にどのような影響が?背景になにが?専門家の見方とともに解説します。

中国などへの輸出手続き 厳格化

政府の発表によりますと、対象となるのは日本企業が高い技術力を持つ、先端半導体の材料に回路を焼き付ける「露光装置」など23品目です。
政府が、輸出管理の仕組みが整っていると認めたアメリカや韓国、台湾など42の国や地域への輸出よりも、中国を含むその他の国や地域への輸出の際の手続きを厳しくし、毎回、経済産業大臣の許可を取ることを必要とします。

ただ経済産業省では今回の措置は禁輸措置ではなく、軍事転用のおそれがないと確認できれば、輸出の許可は出るとしていて、対象も先端半導体に関連する製造装置のみとしていることから、影響は限定的だと説明しています。
西村経済産業大臣は閣議のあとの会見で「軍事転用の防止を目的とした今回の措置によって、技術保有国として国際社会における責任を果たし、国際的な平和および安全の維持に貢献していきたい」と述べました。

中国は最大の輸出先

経済産業省によりますと、新たな措置の対象になる半導体製造装置を輸出する主要な企業は、東京エレクトロンなど10社余りで、主にアメリカと中国、韓国、台湾に輸出しているということです。

貿易統計によりますと、去年1年間に日本から中国に輸出した半導体製造装置の金額は、8200億円余りで中国は輸出全体のおよそ30%を占める最大の輸出先です。

中国 毛寧報道官「みずからも傷つけるだけ」

対して、中国外務省の毛寧報道官は3月31日の記者会見で「世界の半導体産業とサプライチェーンの形成と発展は、市場の法則と企業による選択が共に作用した結果だ」と述べ、半導体産業の成長は市場原理に基づくものだとの考えを示しました。
そのうえで「経済や貿易、それに科学技術の問題を政治化したり、道具や武器のように利用したりしてサプライチェーンの安定を人為的に破壊する行為は他人を傷つけ、みずからも傷つけるだけだ」と述べ、日本の対応を非難しました。

輸出規制 アメリカは強化 覇権争いを背景に

アメリカのバイデン政権は、去年10月、大量破壊兵器や最新の軍事システムに転用が可能な半導体関連製品について中国向けの輸出規制を強化すると発表しました。

先端半導体は、最新のミサイルや戦闘機といったハイテク兵器のほか、自動運転やメタバースなど次世代の産業に欠かせない戦略物資と位置づけられています。

ハイテク分野での米中の覇権争いが激化する中、アメリカは、半導体の材料に回路を焼き付ける「露光装置」などの製造装置で高いシェアを持つ日本やオランダにも協力するよう求めていました。
ことし3月には、オランダ政府は議会にあてた書簡で、ことし夏までに先端半導体の製造装置について輸出規制を強化する方針を明らかにしています。

オランダにはこの装置で高いシェアを持つメーカーがあり規制強化のねらいについて、オランダ政府は軍事利用されるのを防ぐためだなどとしています。

規制強化が中国を対象にするかどうか言及していませんが、アメリカが求める規制強化に足並みをそろえた形です。
一方、日本の今回の対応は、アメリカからの要請に応えつつ日本企業への影響をできるだけ抑えようというもので、経済産業省は中国を念頭に置いた措置ではないとしていますが、米中それぞれがどう受け止めるかが焦点になります。

専門家「安全保障政策としても今回の措置は重要」

輸出管理制度に詳しい明星大学経営学部の細川昌彦教授に聞きました。

【Q.今回の措置は中国に対してどんな意味を持ちますか?】
A.先端半導体が軍事力の向上につながる懸念は、どこが高いかというと、やはり中国だと思います。アメリカは同盟国ですし、韓国や台湾も考えたとき、私たちは中国の懸念に対処しなければいけません。中国に対する安全保障上の備えは、日本としても大事なので、アメリカがどうということだけでなく、日本の安全保障政策としても今回の措置は重要だと思います。

【Q.日本政府は、中国を念頭に置いた措置ではないとしている】
A.まさにそこが今回の発表のポイントです。ポイントは2つあると思います。1つは中国を名指しにして規制をするわけではないということ。今の中国は、こういう措置にものすごく神経をとがらしています。場合によっては報復措置を講じてくるおそれもあるので、外交政策も含めて慎重に対応していくということだと思います。2つ目は、アメリカとの関係においても、決してアメリカを追随しているわけではなく、日本・アメリカ・オランダの3か国が、意見交換してきた中で、今回の措置が出てきていて、決してアメリカに言われたからやるというものではない。この2つのポイントを、日本政府としては明確に理解してもらいたいという趣旨が込められていると思います。

【Q.日本企業への影響は?】
A.今回、規制品目を広げた結果、対象になる日本企業は10社余りということで、それらの企業も、今まで最先端の半導体に関わる輸出は、非常に慎重にやってきました。特に中国向けについては、慎重にやってきています。このため今回の規制によって、劇的にビジネス環境が変わるわけではないと思います。そういう意味では、政府が説明するように、影響は限定的だと思います。

【Q.今後のポイントはどこに?】
A.中国を名指ししないまでも、先ほど申し上げたように、懸念があるところは、中国の軍事力の強化になります。そこに焦点を当てて、濃淡をきっちりつけて運用してくると思います。そうすると企業としても、具体的にどこまでだったら輸出していいのか、どういう条件が整えばいいのか、逆にどういう時はだめなのか、そこを明確にしてもらわないと、ビジネスがやりにくくなります。産業界との意見交換を、経済産業省を含め濃密にやっていき、共通認識を作っていくことが、今後のポイントになると思います。

【Q企業にとって、軍事用途か判断するのが難しい時代に。求められる対応は?】
A.かつて私も輸出管理の担当をしていましたが、その頃に比べると、明らかに判断基準は難しくなっています。特に中国の場合、軍民融合ということが掲げられていて、軍事力の強化と産業力の向上を一体的にやっていくのが、習近平政権の政策です。軍民融合だと言っている相手に対して、どうやって制度を運用していくのか、これは非常に微妙で難しい問題だと思います。

日本の輸出管理の仕組み

政府は、軍事転用が可能な貨物や技術が輸出されることを防ぐため、外為法=外国為替及び外国貿易法に基づいて輸出を管理しています。

暮らしに身近な自動車や電子機器などに使われる部品や製造装置の中には、核兵器やミサイル、化学兵器などの開発に転用可能なものがあります。

こうした技術がひとたび国際社会の平和や安全を脅かす国などに輸出されると安全保障上の大きな脅威となるため、各国と連携しながら規制の枠組みを定めています。
こうした国際的な枠組みに基づいて、日本では大きく2つの輸出管理の制度を設けています。

1つは、国際的に合意された規制リストに載っている品目などを輸出する際に国の許可を必要とする「リスト規制」。

もう1つは、リストに載っていない品目でも兵器に利用されるおそれがあると国が判断した品目について個別に許可を必要とする「キャッチオール規制」です。

今回の場合、「リスト規制」が適用され、原則としてすべての国や地域への輸出が措置の対象となります。

ただ輸出管理の仕組みが整っているとして政府が優遇措置を与えているアメリカなど42の国と地域への輸出で一定の要件を満たした企業などの取り引きについては、輸出の手続きを簡略化できます。

日本の半導体製造装置メーカーなどは、輸出する製品が新たな措置の対象となっていないかや、軍事転用されるおそれがないかなど、日本政府と協議しながら、より慎重に判断することが求められそうです。

日本メーカー 世界市場の3割のシェア

半導体製造装置は、日本メーカーが世界市場でおよそ3割のシェアを占め、一定の競争力を保っています。

輸出先としては中国向けが最も多く、売り上げ額で3割近くとなっています。

カナダの調査会社「テックインサイツ」によりますと、2021年の半導体製造装置メーカーの世界市場の売上げ額ランキングでは、世界の上位15社のうち日本勢が7社入っています。

このうち、世界3位の「東京エレクトロン」は、半導体の材料の表面に薄膜をつける「成膜装置」や回路を焼き付ける「露光装置」など半導体製造の前工程で使われる機器を得意としています。

6位の「アドバンテスト」は半導体の「検査装置」に、7位の「SCREENホールディングス」は半導体の基板となるウエハーの不純物を除去する「洗浄装置」を強みとしています。

14位の「キヤノン」は「露光装置」を生産しています。

一方、装置メーカーでつくる日本半導体製造装置協会によりますと、2021年度の日本メーカーの半導体製造装置の売り上げは、国内外であわせて3兆4430億円と、半導体の需要が増えたことでこの10年間で3倍余り増加しました。

世界市場では、およそ3割のシェアを占めているとしています。

国や地域別では、中国向けが9924億円で全体の28%を占め、輸出先としてはトップで、次いで台湾向けが7159億円、韓国向けが5972億円となっています。

特に中国向けの売り上げは、前の年度より57%増加していて、日本メーカーにとって重要な市場の1つとなっています。