公立高校の「光」となれるか 還暦目前の監督の“指導哲学”

公立高校の「光」となれるか 還暦目前の監督の“指導哲学”
センバツ高校野球に初出場する山口県立光高校を率いるのは、公立高校一筋で35年近く指導を続ける宮秋孝史監督(59)。地元選手がほとんどを占める公立高校の指導者として、通算4回目の甲子園に臨む監督には「役職が人を育てる」など、さまざまな哲学がありました。(山口放送局記者 鈴木幹人)

方向性を示すことが仕事

地元の選手だけで構成する公立高校のチームが甲子園に出場するのは、たやすいことではありません。

公立高校で長く指導を続けている県立光高校の宮秋孝史監督が大切にしている指導方針は主に2つありました。
「主役は選手。ただ方向性を示すのは、われわれ指導者の仕事」

「人間性を高め、チームを『大人の集団』にする」
宮秋監督はみずからも光高校出身で、大学まで野球を続けました。

卒業したあとは、プロ野球・広島で「炎のストッパー」と呼ばれた津田恒美さんを輩出している南陽工業などで監督や部長を務めました。
南陽工業を春・夏合わせて3回の甲子園出場に導くなど、山口県内では選手の育成に定評があります。

光高校では指導者として、ことしで17年目に入りました。

創立約90年の公立高校

山口県立光高校は創立からおよそ90年の歴史ある学校。少子化の影響もあり3年前(2020年)に近くの高校と統合しました。
文武両道をモットーに部活動が盛んで、ヨット部は全国レベルです。

毎年、70%ほどの生徒が大学に進学しているということです。

野球部は、これまで夏の甲子園に2回出場しセンバツは初出場。部員全員が自宅から通う地元の生徒たちです。

“人間的な成長が技術も伸ばす”

謙虚な宮秋監督はチーム作りに必要な点の多くをあくまで部員から学んだと強調しますが高校生の成長には人間性が大切だと言います。
宮秋孝史監督
「人間性を重視しているのは指導者になってからずっと抱いている信念です。人間的な成長を促すという高校野球本来の目的からしても必要なことだと若いころから思って来ました」
「高校生は人間的に成長してくれないとプレーも上手にならない。自分のことしか考えられないといいますか、自分さえ良ければみたいな選手は、チームのために動いている誰かを助けたり、気をつかったりという言動が、なかなかできない。人間的な成長があるとプレーも成長していけると思っています。こうした重要性はいつも選手に説いておるつもりです」
また、これまで監督をしていて甲子園に出場したチームには、共通点があったことも明かしてくれました。
宮秋孝史監督
「甲子園に連れて行ってくれたチームは『大人の集団』と言いますか、気の利く部員がいて、僕が指示を出さなくても『監督わかってますよ、黙って座って見といてください!』という部員が何人かいてくれたんです。人間的に大人の選手が何人かいてくれるとチームが勝ちに結び付くんじゃないかなと」
少しずつ指導が浸透してきたということですが、今のチームも大人の集団を目指しています。

“役職が人を育てる”

さらにもう1つ。宮秋監督は“役職が人を育てる”という考えのもとで、指導を続けています。

ことしのチームではピッチャーの升田早人キャプテンが成長し、大きく変わったと言います。
升田投手は、過去に指導した中でも上位に入るというピッチャーですが、人の前に立ってチームを引っ張るような性格ではなく、控えめであまり目立たない生徒だったということです。

キャプテンに指名し、チームを引っ張る役割と、エースとして勝利につなげる役目を与えることで、責任を負わせました。

その結果、一層の自覚が芽生えて野球に取り組む姿勢が変化し、チームを良い方向に導いていると言います。
宮秋監督
「キャプテンらしい言動や声かけを随所で見せるようになってきた。そういう部分では環境が成長を促している1つの例です。もちろん、まだまだできると思っています」
キャプテン 升田早人投手
「厳しいところもありますが、愛もあるなと思っています。『人間として、男としてこういうふうにあれ』という話はよくしてもらうので、人としてどう生きるかというのはよく考えさせられます」

グラウンド外でも慕われ…

選手に指導者としての思いがしっかりと伝わっている宮秋監督。グラウンドでは険しい顔つきをするときもありますが、ふだんは保健体育の教諭として教べんを執っています。

生徒たちもその人間性を信頼していると言います。
「見た目は怖い感じかなと思ったのですが、進路の話を相談に乗ってくれたり、愛のあるいじりをしてくれたりします」

「すごく生徒のことを考えていて『一番は生徒のこと』という先生だと思います。授業は受けたことがないにもかかわらず、部活頑張っているなって褒めてもらってうれしかった」

母校で臨む甲子園、“大人の集団”になれるか

母校で指導を続けた宮秋監督の人間性を重視したチーム作りに、エースの升田投手を中心とした堅い守りでチャンスをつかんだ光高校。

甲子園で選手たちが“大人の集団”になるきっかけをつかんでくれればいいと考えています。
宮秋監督
「新チームを結成した頃は、ここまで来るとは予想もしていなかったというのが正直な所ですが、まだまだ彼らなりに人間的に成長してくれると思います」

光高校の初戦は22日

光高校の初戦は今月22日の予定で彦根総合高校(滋賀)と対戦します。
山口放送局岩国支局記者
鈴木幹人
2017年入局
大学まで硬式野球部に所属
高校時代は公立高校で甲子園を目指して白球を追いかけた
「高校時代の監督と宮秋監督の考え方が似ていて、当時を思い出しました」