南海トラフ巨大地震 大阪梅田のビル 半数が津波避難者想定せず

南海トラフ巨大地震では、大阪・梅田にも津波が押し寄せると想定されています。梅田の地下街から多くの人たちがビルに避難する可能性がありますが、NHKが、地下街とつながっているおよそ50のビルを調べたところ、半数が避難者の受け入れを想定していないことが分かりました。

大阪府の想定では、南海トラフ巨大地震が発生すると、大阪中心部の梅田にも最大で2メートルの津波が押し寄せることが想定されています。

大阪市は浸水域の外側に逃げるか、頑丈な建物の3階以上への避難を呼びかけていて、一部のビルやマンションと「津波避難ビル」の協定を結んでいますが、梅田の周辺では11棟に限られています。

今回、NHKは、「津波避難ビル」とは別に、梅田の地下街とつながっていて、大阪市が「接続ビル」として公表している51棟を対象に避難者の受け入れについてアンケートを行いました。

その結果、回答が得られた43棟のうち、およそ半数の23棟が避難者の受け入れを想定していないことが分かりました。

想定していないというビルに、避難してきた人がいた場合どう対応するか尋ねたところ、
▽「可能な範囲で受け入れる」などと答えたビルが9棟あった一方で、
▽「現時点で決まっていない」というビルが8棟、
▽「入館を断る」とか「物理的に入れないようにする」というビルが3棟ありました。

これらのビルからは「避難者が集中すると収拾がつかなくなるおそれがあり不安だ」という声や「備蓄品や従業員の人数に限りがあり手が回らない」といった声が上がりました。

一方、避難者の受け入れを想定していると回答した20棟のビルでも、このうち
▽受け入れ可能な人数を事前に算出しているのは13棟
▽受け入れ方法などについてマニュアルを整備しているのは3棟、
▽受け入れの訓練を行っていたビルは1棟にとどまりました。

また、こうした受け入れを想定しているビルに収容可能な人数を聞いたところ、8棟は「未定」としています。

残りの12棟の収容可能人数はあわせて9000人あまりとなっています。

「津波避難ビル」と合わせてもおよそ2万人となっています。

受け入れを想定しているビルへの避難だけで、梅田にいる人たち全員の安全を確保することは難しいとみられています。

受け入れ準備のビルにも不安が

避難の受け入れを想定して準備を進めているビルも、いざというときにどう対応すればよいか不安を感じているといいます。

このうち大阪工業大学梅田キャンパスのビルでは、大学関係者の分と合わせて750人の避難を想定して5日分の食料や水を備蓄しています。

緊急的な一時避難に対応するだけなのか、長期間の避難になるのかによって受け入れ可能な人数は大きく異なってくるといいます。

大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部の防災担当、宇川幹夫事務室長は「地震が発生したとき、建物内にどれだけの人がいるかによって外の人をどの程度受け入れられるか変わりますが、期間が3~4日となると備蓄品も限られているので、悩ましいところです。受け入れる人数によって研究エリアの開放も考えなくてはなりませんが、研究資料などの知的財産があるので、管理面での懸念もあります」と話しています。

そのうえで、行政に対して備蓄品の準備や孤立しないための態勢づくりについての支援を求めるとともに、避難者の受け入れの期間などについて目安を示してほしいとしています。

専門家「受け入れ想定半数は不安多い 行政の支援が不可欠」

災害時の避難行動に詳しい大阪公立大学の生田英輔教授は、今回の結果について、「多くの人が逃げ込む可能性がある梅田で、半数しか受け入れを想定していないのは、不安が多い」と指摘しています。

受け入れを想定していないビルについて、生田教授は「いざという時どんどん避難者が来る可能性があり、実際に『受け入れない』という対応を続けられるかは疑問がある。受け入れ態勢の構築は難しいかもしれないが、なんとか受け入れられるように想定しておくのが、ビルにとっても最も安全だ」と話しています。

その上で、受け入れに前向きになってもらうには、行政の支援が不可欠だとして、「不安を取り除くために、損害があった場合の補償や、避難期間をあらかじめ決めておくことが大前提だと思う。周りのビルや地域の方と一緒に訓練をする機会を設けることも、行政の役割ではないか」と話しています。

また、複数の事業者が入るテナントビルについては、ふだんから顔の見える関係を作っておき、災害が起きたときの対応について事前に話し合ったり、計画を作って訓練を行ったりしておくことが重要だとしています。

さらに、観光客など土地勘のない人も含めて多様な人が訪れる梅田の特性を踏まえた、事前の対策が必要だと強調します。

生田教授は「災害時にその現場にいる人たちが多様である場合は、混乱が大きくなると一般的に言われている。梅田は、人が多いだけでなく、さまざまな属性の人が入ってくる街で、災害時にはより危険な状態となる。観光客も回復してきていて、人を集める魅力ある街という意味では非常に良いことだが、災害リスクを上昇させることになっていると認識しなければならない。行政は、人を呼び込む対策と同時に、災害対策も並行して進める必要がある」と話していました。