福島第一原発事故から12年 原子力政策の転換と課題【詳しく】

史上最悪レベルの事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所では、溶け落ちた「核燃料デブリ」の取り出しに向けて調査や準備が進められる一方、たまり続ける処理水の放出に向けた工事の完了が近づいています。

福島第一原発では、巨大地震と津波の影響で電源が喪失し、3基の原子炉で核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が発生、大量の放射性物質が放出されました。

1号機から3号機の原子炉や格納容器の中には溶け落ちた核燃料が構造物と混ざり合った「核燃料デブリ」が残っていて、冷却に使う水や地下水などが汚染水となり、いまも1日100トンのペースで増え続けています。

この汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水は、3月2日時点でおよそ133万トンに上っていてことし夏から秋には敷地内にある1000基余りのタンクが満杯になる見通しです。

政府は、基準の40分の1まで薄めた上でことし春から夏ごろにかけて海への放出を始める方針で、放出に使う海底トンネルの工事は6月には完了する見通しです。

一方、漁業者などを中心に反対の声が根強くあり、海洋放出が迫る中で政府や東京電力が関係者からの理解を得られるかが課題となっています。

また、廃炉最大の難関とされる「核燃料デブリ」の取り出し開始が、ことし10月以降に2号機で計画されています。

初期の取り出しは、試験的なものと位置づけられロボットアームを使って、数グラム程度を取り出す計画です。

ただ「核燃料デブリ」の総量は、1号機から3号機あわせて880トンにものぼると推定されていて、どのように取り出すかの具体的な道筋は見通せていません。

東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は3月1日に応じたインタビューの中で「燃料デブリの取り出しや処理水の課題は廃炉を進めるうえで避けて通れないものだ。この1年は、将来の廃炉作業を安全着実に進められるかの分岐点になる可能性がある」と述べています。

福島第一原発とは

2011年3月11日、東京電力福島第一原子力発電所では、6基の原子炉のうち1号機から3号機が運転中で残りの3基は定期検査のため運転を停止していました。

午後2時46分ごろ、東北沖でマグニチュード9.0の巨大地震が発生。

運転中だった3基の原子炉はすべて緊急停止しました。

地震の影響で、送電線の鉄塔が倒れるなどしたため外部からの電気の供給が止まり、非常用発電機が起動しましたが、午後3時半前後に、津波が相次いで押し寄せ、発電機や電源盤などが入った建屋が浸水。

核燃料の冷却に必要な電源が全て失われました。

その数時間後には、1号機で核燃料が溶け落ちるメルトダウンが発生したとみられ、翌12日の午後3時半ごろには、高温の金属と水が反応して発生した水素の影響で大規模な爆発が起きました。

さらに3号機と2号機でも相次いでメルトダウンが発生。

3号機では3月14日の午前11時すぎに水素爆発を起こしたほか、2号機は、水素爆発こそ起きませんでしたが、格納容器が大きく損傷した可能性があり、3月15日以降、大量の放射性物質が外部に放出されたと考えられています。

また、停止していた4号機は、3号機とつながった排気用の配管から水素が流れ込み15日の午前6時すぎに爆発しました。

事故の深刻さを示す国際的な基準による評価では、最も深刻な「レベル7」。

1986年に起きた旧ソビエト、現在のウクライナにあるチョルノービリ原発の事故と並ぶ史上最悪レベルの事故となりました。

【原子力政策の転換と課題】

原子力政策の転換1 運転延長

東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、政府は原発の運転期間を最長60年までとする法改正を行い、新設や増設については、「想定していない」という見解を示してきました。

政府はこうした政策の方向性を大きく転換させました。

その内容は、安全性を最優先に原発を最大限活用することでした。

国は2021年に示したエネルギー政策の方向性を示すエネルギー基本計画で、「原子力は安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で可能な限り原発の依存度を低減する」と明記しています。

政府はこの計画と新たな方針は矛盾していないとしていますが、世界的な脱炭素に向けた動きや、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でエネルギー危機が深刻化するなか再稼働を加速するとともに原発の活用を続けるため運転期間の実質的な延長や新設・増設をめぐる方針の変更に踏み込み、原子力政策は原発事故以降で最も大きく転換することになりました。

2023年2月に新たに示された「原発を最大限活用する」ための政策の柱のひとつが、原発事故以降、最長60年と定められた原発の運転期間について、審査などで停止した期間を除くことで、実質的に上限を超えて運転できるように変更することでした。

これに対し原子力規制委員会は、原発の老朽化の年数に応じて安全性を確認するための新しい制度を決定しましたが、いまは想定していない60年を超える原発の安全性の確認については、具体的な内容は定まっておらず、現在、検討が行われています。

原子力政策の転換2 次世代炉と再稼働

新たな原子力政策のもうひとつの柱が、原発事故のあと、政府が「想定していない」としてきた原発の新設や増設、建て替えを認める見解を示したことです。

具体的には廃炉となった原発の敷地内での建て替えを対象に次世代型の原子炉の開発や建設を進めることが盛り込まれました。

こうした次世代炉として想定されているのは、
▼「革新軽水炉」
▼「小型軽水炉」
▼「高速炉」
▼「高温ガス炉」
▼「核融合炉」の5種類ですがコストや実用性などの面で課題を抱えていています。

さらに政府は原発の再稼働を加速するため、国が前面に立つ方針も打ち出し、すでに審査が終了し再稼働していない7基について、2023年の夏以降の再稼働を目指すとしています。

この7基は、
▼宮城県にある東北電力の女川原発2号機
▼新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発6号機と7号機
▼茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発
▼福井県にある関西電力の高浜原発1号機と2号機
▼島根県にある中国電力の島根原発2号機です。

原子力めぐる多くの課題も

国が原発の活用を進める方針を打ち出す一方で、原発の安全などに関わるトラブルなども起きています。

2023年1月には、福井県の高浜原発4号機で、運転中に原子炉内の核分裂の状態を示す中性子の量が急激に減少したという異常を知らせる警報が出て原子炉が自動停止するトラブルが起きました。

関西電力のこれまでの調査で、48本ある制御棒のうち1本が電気的な故障で原子炉内に落下して核分裂反応が部分的に抑えられ、中性子の量が減り警報が出たと見られています。

原子力規制委員会の山中伸介委員長は「原子炉を『止める』という非常に重要な部位のトラブルなので原因究明をするとともに緊張感を持って取り組んでほしい」と指摘し、規制委員会は再発防止策などを求めています。

このほかに2021年には、再稼働を目指す新潟県の柏崎刈羽原発で、▼中央制御室への社員による不正入室や▼外部からの侵入を検知する設備の不備といったテロ対策上の問題が相次いで見つかりました。

これを踏まえ、原子力規制委員会は東京電力に柏崎刈羽原発の運転を事実上、禁止する行政処分を出し、改善措置の状況などを調べる追加検査が続けられていて、原子力規制委員会は2023年5月をめどに検査結果をとりまとめることにしています。

ただ、規制委員会の山中委員長は、検査で外部からの侵入を検知する設備に不備があることなどが確認された一方、東京電力が短時間で改善することは難しいという認識を示した上で、5月中に行政処分を解除するのは難しく、検査を続けた場合、一定程度、時間がかかる見込みだという見解を示しています。

このほかに住民の命を守ることにつながる原発事故に備えた避難計画に課題を抱えている地域もあります。

茨城県にある東海第二原発の周辺の自治体では、住民の安全を守るために欠かせない広域の避難計画の策定が進んでいません。

東海第二原発の周辺で事故の際、即時避難や屋内退避が求められている30キロ圏内には、全国で最も多いおよそ94万人が暮らしています。

住民の安全を守るため、渋滞を回避するルートや避難先の確保などを定めた広域におよぶ避難計画が求められますが、その土台となる自治体単位で避難計画の策定を終えたのは2022年2月末時点で原発周辺の14の市町村のうち5つにとどまっています。

さらに「核燃料サイクル」をめぐる政策面の課題も積み残されたままです。

青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場は完成時期の延期を繰り返していてプルトニウムを含む「MOX燃料」を一般の原発で使う「プルサーマル」も計画通り進んでいません。

また、使用済み核燃料を再処理したあとに出る放射性廃液とガラスを混ぜ合わせて作る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分地の選定も先行きは見えない状態で、政府は、新たな原発政策の方針の中で、こうした課題の解決に向けた取り組みも強化するとしています。

【原子力政策の長年の課題 出口なき “核のごみ”】

原子力政策で長年の課題となっているのが原発で発電したあとに出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の問題です。

「核のごみ」の処分地の選定に向け、国や事業者は科学的な有望地を示すマップを公表したり説明会を開催したりするなど取り組みを強化し、選定に向けた調査が進められている自治体も出ていますが、さらなる進展は不透明で、いまだに出口が見えない状況が続いています。

「核のごみ」とは

原子力発電所では運転に伴い使用済み核燃料が発生し、日本ではこれらを化学処理してプルトニウムとウランを取り出し再び燃料として利用する「核燃料サイクル」を原子力政策の柱としています。

再処理の過程では、再利用できない放射性物質を含む廃液が残されます。

この廃液を化学的に安定させるため、ガラスと混ぜて固めたものが高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」と呼ばれるもので、極めて強い放射線を長期間、出し続けるため、人の生活環境から数万年にわたり隔離する必要があります。

このため国は、地下300メートルより深い地中に「核のごみ」の処分場を設置して埋めることにしていますが、その場所の選定が進まない状況が続いてきました。

難航する処分場の選定

この最終処分場の選定を進めるため、日本では2000年に法律が施行され、NUMO=原子力発電環境整備機構という事業者が全国の市町村から候補地を募集し、国も調査が行われる自治体に交付金を出す制度を作り、処分場の選定に向けた取り組みを本格的に始めました。

このあと2007年には高知県の東洋町が選定に向けた調査に応募しましたが、住民の反対などで撤回されました。

その後、具体的な応募の動きはなく候補地の選定が難航するなか、国の原子力政策への提言などを行う原子力委員会は2012年に国民の合意を得るための努力が不十分だとしたうえで、国が前面に出て候補地の選定を行うべきだとする見解をまとめました。

これを受けて国は2014年に
▽自治体の応募を待つ従来の方式に加えて、
▽科学的に有望な地域を示した上で複数の自治体に処分場の選定に向けた調査を申し入れる方式を取り入れることにしました。

その入り口として2017年7月に公表したのが、全国を火山や活断層の有無など科学的な基準をもとに色分けして有望地を示した「科学的特性マップ」という地図です。

このマップでは処分場として「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域」とされた地域は、面積にして国土の3分の2にのぼりました。

国やNUMOは、自治体に調査の受け入れの判断を迫るものではないとした上で、マップを公表してから各地で説明会を開き、「核のごみ」の処分に対する理解を深めようとしました。

しかし、説明会を開始した後、2017年10月にNUMOから委託を受けた会社が謝礼を約束して大学生を動員するなど不適切な運営が明らかになり、説明会は一時、中断される事態になりました。

NUMOは、原則、運営を直接行うなど再発防止策を行った上で、その後、説明会を再開し、現在も各地で開催しています。

北海道の2自治体が応募

こうしたなか2020年に処分場の選定に向けて大きな動きがありました。

「科学的特性マップ」の公表後で初めて、北海道の寿都町と神恵内村が選定に向けた調査の受け入れを表明し、2020年11月に全国で初めて2つの自治体でNUMOによる調査が始まったのです。

調査のプロセスは

調査は3段階で行われ、現在は、これまでの研究データなど、いわば資料上での情報をもとに活断層や火山の有無などを調べる第1段階の「文献調査」が行われています。

期間はおよそ2年とされ、この調査で問題ない場合、都道府県知事や自治体の首長の理解を得た上で、ボーリング調査などを通じて地質や地下水の状況などをおよそ4年かけて調べる「概要調査」が行われます。

さらに同様の手続きをへて詳細に地層などを分析し、将来にわたる地層の安定性などをおよそ14年かけて調べる「精密調査」に進み、最終的な調査結果をまとめることになります。

そして、実際の処分場の建設については、調査結果を踏まえた上で、国が住民の意見や都道府県の考えを聞いて決定することになります。

国はいずれの段階の調査でも地域の意見を十分に尊重し、反対する場合は、次の段階の調査に進まないとしています。

次の調査段階への進展は見通せず

2020年11月から始まった北海道の2つの自治体での「文献調査」は目安の2年をすぎていて、今後、NUMOが評価をまとめることになります。

次の段階に進むにはそれぞれの町と村に加え、北海道知事の理解が必要ですが、鈴木直道知事はいずれの自治体での調査についても反対の姿勢を示していて、見通しは立っていません。

国は調査地域の拡大目指すも出口は見えず

一方、北海道の2つの自治体のほかに処分場の選定に向けた調査に応募する動きはなく、全国的に関心が高まっているとは言いがたい状況です。

フランスやフィンランドなど処分地の選定が進んでいる国では、10程度の地域で調査が進められたうえで場所を絞り込んだことを踏まえ、政府は調査地域を増やすことを目指す方針を示しています。

2023年2月には、8年ぶりに「核のごみ」の最終処分の実現に向けた基本方針を改定することを決め、新たな取り組みの案をまとめました。

具体的な取り組みとしては、
▽国がNUMOや電力会社とともに、全国100以上の自治体を個別に訪問するほか、
▽原発が立地する自治体のトップなどとの協議の場を新たに設けるなどとしています。

こうした取り組みが調査の進展につながるかは不透明で、政府が原発の最大限の活用へと原子力政策を転換するなか、「核のごみ」の処分の問題については出口が見えない状況が続いています。