患者暴行か 身体拘束疑いも? 高い死亡退院率 精神科病院で何が

「もうつらい思いをしたくないです」
泣きながら訴える患者の映像。
病院の職員に殴られたり縛られたりしたと明かしていました。

別の映像には医療スタッフと見られる人物に殴られ「怖い、怖い」と訴える患者の姿も。

東京・八王子市の精神科の病院「滝山病院」に、都は24日の早朝に抜き打ちで2度目の立ち入り検査を実施。

一体、病院で何が起きているのでしょうか。

映像に患者暴行の様子が…警視庁が病院を捜索

[映像のやりとり]
患者:おーい。

職員:何?「おい」ってなんだよ。「すみません」だよな。口の利き方に気をつけろよ。

患者:痛い、痛いよ。

病室内で黒っぽい服を着た医療スタッフとみられる人物が、横たわる患者の頭を繰り返しベッドに押さえつける様子が。
別の映像では、消灯後とみられる薄暗い病室の中を、医療スタッフとみられる男性が奥のベッドで声を出していた患者のもとまで歩いていくと…。

「うるせえよ。みんな寝てんだろ?あ?静かにしろよ」

枕で患者の顔面を2回たたく様子が確認できます。
映像が撮影された東京・八王子市にある精神科の病院「滝山病院」に警視庁の捜索が入ったのは2月15日のこと。

看護師や准看護師4人が入院患者を暴行した疑いでした。

このうち看護師1人は患者の頭を殴ったとして暴行の疑いで逮捕されています。
また東京都は24日朝早く、滝山病院に抜き打ちで立ち入り検査を実施。

関係者によりますと、15日に行われた1回目の立ち入り検査は夕方を中心に行いましたが、今回は、夜勤の職員らからも聞き取りを行うのが目的で、都は不適切な行為がなかったか病院の運営体制も含めて調べています。

弁護士“暴行関与の職員10人以上”日常的に虐待?

今月17日、こうした暴行の疑いについて、患者を支援している相原啓介弁護士が東京都庁で記者会見を開きました。

滝山病院の患者10人から虐待の相談を受けており、映像や音声から被害にあった患者は20人前後にのぼる可能性があると指摘。

患者とみられる人物と医療スタッフとみられる人物のやりとりの音声の一部を公開しました。

[公開された音声1]
「たん取ってくれ」
「『くれ』言ってるやつはだめだって言ってるだろ」
「何回言ったら覚えるんだよ」
「…たん取って下さい」
「嫌です!ギャハハ」

[公開された音声2]
「本気で行こうか、本気つっても痛くねえだろ、もっと行くぞ!」(物音)
「いてぇか?本当に?なぁいてぇか?本気で行こうか?おい!」
「痛い…」

(相原弁護士)
「院内での映像や音声から少なくとも10人以上の職員が暴行や暴言などの虐待行為を行っていた可能性がある。数人の職員が偶然暴行を行ったとは考えられず、病院全体で日常的に虐待行為が行われていた可能性がある」

数年前まで働いていた元職員も院内で虐待が疑われる行為を目撃したといいます。
「手や背中、お尻などを日常、当たり前のようにたたいていた。暴言など、ほかの病院では虐待にあたることが目の前で毎日のようにあった。こうした暴力的な行為に対して、病院として対処することはなく見過ごされていた」。

映像には泣きながら助けを求める患者の姿が

相原弁護士が病院で面会した際に泣きながら助けを求める患者もいたといいます。

NHKが入手した映像では、病院の面会室で男性の患者が廊下に職員がいないか気にしながら実情を訴えています。

[面会時の映像のやりとり]
弁護士:縛られたりしてないですか?

患者:たまにあります。○○さんという人に縛られました。

ーーー

弁護士:誰に殴られたかは覚えていますか。

患者:○○さんって言う人。乱暴的な人が多いんですよ。

ーーー

患者:せっかんを受けたんですよ。うん、だから…(泣く様子)もうつらい思いをしたくないです。

弁護士:病室に戻るのもつらい?

患者:はい、怖い。
ほかにも複数の職員の名前をあげて実情を訴えた患者。

「もうこれを言った以上、戻れません。チクったと言われて殺されます」とおびえた様子で話す姿も記録されていました。

この時のことについて相原弁護士は「悲惨な思いです。『連れて帰ってほしい、また殴られる。連れて帰れないなら一緒に残って欲しい』と泣きながら言っていたが、体が悪く、連れて帰れなかった」と話していました。

違法な身体拘束の可能性も…

病院をめぐっては、本来必要な医師の指示がないまま違法な身体拘束が行われた可能性も指摘されています。
病棟内で撮影された画像には、横になっている患者が長い布のようなもので手首を縛られ、ベッドに拘束される様子が確認できます。

足も同様にベッドに縛りつけられていました。

精神保健福祉法では、▼切迫性があり代替手段がない場合に、やむを得ず身体拘束を行う際は医師の指示が必要で、▼拘束を行った理由と日時をカルテや台帳に記す必要があります。

相原弁護士が、この患者のカルテを開示請求したところ、本来は必要な医師の指示の記録が確認できなかったということで、都に調査の徹底を要請しました。

数年前まで働いていた元職員は、病院では医師の指示があるのかわからないまま、患者が拘束されることが多かったと証言しています。

(元職員)
「ほかの病院では、患者を拘束する場合はチェックシートがあり、カルテに何時からどういう理由でと医師の指示が書かれているが、指示があったかどうかも確認せずに、先輩から言われて拘束していた。上司も患者がうるさいからしかたがないと黙認していた」

暴行や違法な身体拘束の疑いについて、病院はNHKの取材に「事実関係について現段階で答えることはできません。警察の捜査には全面的に協力いたします。身体拘束についても都の調査があれば協力いたします」とコメントしています。

なぜ高い?患者の“死亡退院率”

もうひとつ指摘されているのが、滝山病院の「死亡退院率」がほかの病院に比べて高い点です。

「死亡退院率」とは退院した患者のうち死亡による退院が占める割合です。

東京都によりますと、滝山病院のここ数年の6月1か月間の状況は以下のようになっています。

▼2022年6月 退院した患者10人 うち死亡による退院3人(30%)
▼2021年6月 退院した患者14人 うち死亡による退院9人(64%)
▼2020年6月 退院した患者15人 うち死亡による退院12人(80%)

また、民間の団体による2013年の調査ではこの病院の年間の死亡退院率は65%でしたが、都内70の精神科の病院の平均は3%でした。
滝山病院は透析の患者も受け入れている精神科の病院で、ホームページでは「治療が難しいとされる合併症の患者を全国から優先的に受け入れている」と記されています。

そうしたことが背景にあるのか病院に尋ねましたが、「事実関係について現段階で答えることはできません。警察の捜査や都の調査には全面的に協力いたします」というコメントで、現時点ではなぜなのかはわかりませんでした。

国も全国に通知、精神科病院で何が?

病院で何が起きていたのか。

警視庁の捜査や都の調査が進められている段階で病院側からも説明がないためわからないことが多いですが、精神科病院での虐待や事件は相次いでいます。

今回、看護師が入院患者への暴行の疑いで逮捕されたことについて、加藤厚生労働大臣が記者会見で「精神科病院での患者に対する虐待など人権侵害はあってはならず、誠に遺憾だ」と述べ、厚生労働省は全国の都道府県や政令指定都市に対し、精神科病院での虐待の防止や早期発見、再発防止のために適正な指導や監督に努めるよう通知しました。

NHKでは、滝山病院など精神科病院に関して取材を進めています。

以下のNHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に情報をお寄せください。