ロシアのウクライナ軍事侵攻から1年 長期化避けられない情勢

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから、24日で1年となります。
ロシアは、欧米との全面的な戦いの構図になっているとして、兵力の増強を図り、欧米の軍事支援を受けるウクライナも、領土の奪還を果たすまで停戦に応じない構えで、戦闘が一層長期化するのは避けられない情勢です。

ロシアのプーチン大統領は、1年前の2月24日、ウクライナ東部のロシア系の住民を保護する「特別軍事作戦」だとして、ウクライナへの軍事侵攻を始めました。

ロシア軍は、動員兵も戦地に派遣するなどして兵力の増強を図り、当面は東部ドネツク州とルハンシク州の完全掌握をねらって大規模な攻撃を行っています。

これに対して、ウクライナ軍は、欧米側から供与された兵器を駆使しながら反撃を続けています。

ウクライナ軍は23日、ロシア軍がこの1年でおよそ8500回のミサイル攻撃や空爆を行い、1100回もの無人機による攻撃を繰り返したと発表しました。

国連人権高等弁務官事務所によりますと、確認できただけでも、これまでに8000人を超えるウクライナの市民が死亡したということです。

また、双方の兵士の死傷者も増え続け、このうちイギリス国防省は、今月、ロシア軍の兵士や民間軍事会社の戦闘員の死傷者数があわせて20万人にも上る可能性を指摘しています。
プーチン大統領は23日、核弾頭が搭載できる新型の大陸間弾道ミサイルを実戦配備するとして、核戦力を誇示しました。

いまや欧米との全面的な戦いの構図になっているとして、軍事侵攻を継続する姿勢を強めています。

一方、ゼレンスキー大統領も、占領された領土の奪還を果たすまで停戦に応じない構えで、この春以降、大規模な反転攻勢に乗り出す考えとみられます。

停戦は見通せず、戦闘が一層長期化するのは避けられない情勢です。

これまでの戦況 ロシア 苦戦強いられる

侵攻開始から1年。ウクライナ軍は欧米諸国から供与された兵器を駆使して抵抗を続け、ロシア軍は苦戦を強いられました。

去年2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部ドンバス地域の住民の保護やウクライナの「非軍事化」などを目的に掲げて「特別軍事作戦」を行うと宣言。
ロシア軍は、ウクライナの北部、東部、南部の3方向から部隊を進め、3月には南部ヘルソン州を掌握しました。

これに対してウクライナ軍は、アメリカの対戦車ミサイル「ジャベリン」などを駆使して抵抗。
ロシア軍は補給線が分断され、首都キーウの早期掌握を断念し、北部から撤収しました。
しかし撤収直後にキーウ近郊のブチャなどで数百人の住民の遺体がみつかり、一部に拷問など残虐な行為の形跡が残っていたことから、国際社会ではロシアの戦争責任を追及する声が高まりました。
ロシア軍は東部や南部で攻撃を強め、激しい戦闘の末、5月には東部ドネツク州の要衝マリウポリを掌握。さらに7月には東部ルハンシク州の完全掌握を宣言しました。

その後、ロシア軍は後退を続けます。
ウクライナ軍はアメリカから新たに供与された高機動ロケット砲システム=ハイマースなどを投入して反転攻勢に乗り出し、ロシア軍は9月、要衝のイジュームを含む東部ハルキウ州のほぼ全域を奪還されました。
10月にはドネツク州のリマンからの撤退を余儀なくされ、ロシア国内の強硬派は軍の指導部を批判しました。
さらに11月には、南部ヘルソン州でも反転攻勢を受け、州の中心都市ヘルソンを含むドニプロ川西岸の地域から撤退しました。
ウクライナ軍の総司令官は、ロシアに掌握された領土のうち40%を去年末までに奪還したと発表しています。
9月、プーチン大統領は、職業軍人だけでなく、有事に招集される予備役を部分的に動員すると表明。
さらに東部のドネツク州とルハンシク州、南部のザポリージャ州とヘルソン州のあわせて4州の一方的な併合に踏み切りました。

9年前のクリミア併合に続く、力による一方的な現状変更に対して、ウクライナ政府は反発を強め、このあと、ロシアの支配地域にある重要インフラやロシア国内の軍事施設などへの攻撃が相次ぎました。
10月には、ロシアが事実上支配するウクライナ南部のクリミアとロシア本土を結ぶ橋で大きな爆発が起き、橋の一部が崩落。
12月には、ロシア中部リャザン州のほか南部のサラトフ州とクルスク州の空軍基地や石油施設で爆発や火災が相次ぎ、ロシア側は、ウクライナ軍の無人機に攻撃されたとしています。
ロシア側は、報復としてウクライナの民間インフラへの攻撃を強めました。
この際、発電所や変電所などが標的となり、ウクライナでは深刻な電力不足が引き起こされました。
また住宅や集合住宅にミサイルが着弾し、多くの犠牲者が出るケースも相次いでいます。
こうした攻撃には精度の低いミサイルやイラン製の無人機が使用され、ロシア軍で兵器が不足しているためではないかとみられています。

冬の間、東部の前線では、双方が長い塹壕(ざんごう)を掘って防衛線を築き、一進一退の攻防を繰り返す、いわゆる塹壕戦が続いています。
こうした中、侵攻から1年の節目が近づき、ウクライナ側は、ロシア軍が動員した兵士を前線に投入し、大規模な攻撃を仕掛けるのではないかと警戒を強めました。
焦点となっているのが、ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトで、このところ、ロシア軍やロシアの民間軍事会社ワグネルは、バフムトの周辺で攻撃を激化させています。
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は、ロシア軍がすでに大規模な攻撃を始めているという認識を、今月13日に示しました。
ロシア軍の苦戦は人事にも現れています。
去年10月、ロシア国防省は軍事侵攻の総司令官に陸軍出身のスロビキン氏を任命したと発表しました。2017年以降、シリア内戦に介入したロシア軍の指揮を執ったとされ、任命により戦況の立て直しを図ったとみられています。
しかしスロビキン氏はことし1月、就任からわずか3か月で総司令官から副司令官に降格しました。
代わって総司令官となったのは、制服組トップのゲラシモフ参謀総長です。
参謀総長が特定の作戦で指揮を執るのは異例で、国防省は「任務の規模拡大に対応するため」などとしていますが、指揮系統の混乱などの問題を解消したい思惑があるとも指摘されています。

この春には、ウクライナ軍に欧米の主力戦車が届き始め、反転攻勢が強まるという見方が広がっていて、ゲラシモフ参謀総長がこれを抑え込もうと、一層攻撃を強化することが懸念されています。

ウクライナ 善戦の理由は

ウクライナ軍が一部で領土奪還を果たすなど、当初想定されていた以上に善戦している理由としては、まず、欧米側から供与された兵器を活用して反転攻勢につなげてきたことがあげられます。

対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」といった、兵士が肩に担いで発射できる機動性を兼ね備えたこれらの兵器は、キーウ近郊などの市街戦でも活用されました。

戦線が東部や南部に移ったあとは、戦況を大きく変えることができる「ゲームチェンジャー」とも言われた高機動ロケット砲システム「ハイマース」が威力を発揮しています。
ウクライナ軍は、GPSによる誘導で精密な攻撃ができるというハイマースの特徴を生かし、ロシア軍の弾薬や物資の供給網のほか、指揮所などの軍事拠点を長距離からピンポイントで攻撃しています。

また、ウクライナ側は、欧米側から供与された偵察用の小型ドローンやIT技術を駆使した戦術なども効果的に活用することで、火力で優位に立つロシア軍の侵攻を一部で食い止めることができたとみられます。

一方、軍に所属していない市民も各地で「パルチザン」組織を作り、ロシア軍への攻撃を続けていることも善戦の背景にあるとみられます。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、去年11月に公表した分析で「パルチザンによる効果的な攻撃によってロシアは、前線の兵力を後退させることを余儀なくされている。ロシアは、パルチザン活動にうまく対抗できておらず、その能力もなさそうだ」と指摘しています。

また、パルチザン組織は、それぞれ地元で入手したロシア側の拠点や車両などに関する情報を提供することでもウクライナ軍を支え続けているとみられています。

ウクライナでは「勝利を信じている」とする国民は95%に上るという世論調査もあり、人々の士気は高いままです。

戦闘を続ける「意志」が強固である以上、今後もウクライナ軍が善戦できるかどうかは、戦車のほか、射程の長いロケット弾やミサイル、それに戦闘機が欧米から供与されるなどして、戦闘を継続する「力」が強化されるかにかかっているといえます。

ウクライナ 市民の犠牲者 増え続ける

ウクライナではこの1年、市民の犠牲者が増え続けました。

国連人権高等弁務官事務所は、軍事侵攻が始まった去年2月24日以降、ことし2月15日までに、確認できただけでも8006人のウクライナ市民が砲撃や空爆などによって死亡したと発表しました。

このうち487人は18歳未満の子どもだということです。
また487人の子どものうち、年齢が確認できたのは441人で、年齢別では、17歳の死者が49人と最も多く、次いで14歳が44人でした。さらに、1歳の赤ちゃんが22人、1歳未満も7人亡くなっています。

地域別では、市民の犠牲は特に東部に多く、
▼ドネツク州で最も多い3810人、
▼ハルキウ州で924人、
▼ルハンシク州で485人と、
東部の3つの州だけで5000人を超えます。
それ以外では、
▼首都キーウと周辺のキーウ州であわせて1017人、
▼南部のヘルソン州で447人などとなっています。

また、けがをした市民はウクライナ全土で1万3287人に上るとしています。

国連人権高等弁務官事務所は、激しい戦闘が続く地域での死傷者の数については、まだ正確に確認がとれていないとして、実際の数は大きく上回るという見方を示しています。

ロシア側 民間軍事会社ワグネルが存在感増すなかで

ウクライナへの軍事侵攻で、ロシア側は、正規のロシア軍とは別に、民間軍事会社、ワグネルの戦闘員を前線に投入しています。

ワグネルはプーチン政権に近いとされるエフゲニー・プリゴジン氏が代表を務める組織で、これまで内戦中のシリアや政情不安が続くアフリカの国々などに戦闘員を派遣し、ロシアの国益のために活動してきました。

プリゴジン氏は、大統領府や軍などに食事を提供するビジネスで財をなしたとされる実業家で、「プーチン大統領の料理人」とも呼ばれ、去年9月には自分がワグネルの創設者だと初めて認めました。

今回の軍事侵攻でワグネルは、刑務所で服役中の受刑者を「戦えば特赦を受けられる」と勧誘して集め、前線に大勢の戦闘員を送り込みました。

アメリカ ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は、先月、ワグネルは4万人の受刑者を含む5万人の戦闘員を送り込んだとした上で、今月には推計でおよそ9000人の戦闘員が死亡したという見方を示しています。

しかし、ワグネルが存在感を増す中で、ロシア国防省との対立も表面化しました。
先月、東部ドネツク州のソレダールがロシア側に掌握された際には、プリゴジン氏がワグネルの部隊だけで掌握したと主張したのに対し、国防省は軍の功績だと発表しました。

この際、プリゴジン氏が「ワグネルの勝利を奪おうとしている」とSNSで批判したことを受けて、ロシア国防省は新たな声明を発表し、「ワグネルの志願兵の勇敢な行動によっても達成された」と表現を修正しました。

これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、「ワグネルと国防省の対立を浮き彫りにしている」と分析しています。

さらに今月21日、プリゴジン氏は「ロシアの参謀総長と国防相が、ワグネルに弾薬を供給しないよう指示を出している」とする音声メッセージをSNSに投稿した上で、「まさにワグネルを破壊しようとする試みだ。ワグネルがバフムトのために戦い、毎日、何百人もの戦闘員を失っている今、祖国への反逆にも等しい」とロシア軍を正面から非難し、軍とワグネルの確執は深まっているものとみられます。

ウクライナから日本に避難 2302人(2月15日時点)

出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難した人は、ことし2月15日時点で2302人となっています。

性別は、男性が602人、女性が1700人。
年代別では、
▽18歳未満が439人、
▽18歳以上と61歳未満がそれぞれ1563人、
▽61歳以上が300人です。

入国日を月別にみると、
▽去年3月が351人、
▽去年4月が471人と最も多く、
その後は減少傾向が続き、
▽ことし1月は35人、
▽2月は15日までに29人となっています。

一方、入国した人のうち、112人がすでに日本から出国しているということです。

日本に親族や知人、団体などの身元引受人がいない人については、政府が一時滞在先のホテルを確保して生活支援を行っていて、ことし2月15日時点で64人がホテルに滞在しています。

また、政府は避難してきた人たちに90日間の短期滞在を認める在留資格を付与し、本人が希望すれば就労が可能で1年間滞在できる「特定活動」の在留資格に変更することができます。

この在留資格に変更すると、住民登録をして国民健康保険に加入したり、銀行口座を開設したりすることができ、ことし2月15日までに1998人が「特定活動」に変更したということです。
出入国在留管理庁は、この在留資格について、希望があれば1年間延長するほか、身元引受人がいない人に対して、支給している生活費の支援もさらに1年間継続するということです。

出入国在留管理庁は、「避難が長期化し、定住を求める避難者も出始めている。定住には就労や日本語教育などの支援が重要になるため、自治体とも連携し、支援を続けていきたい」としています。

岸田首相 G7議長国としてウクライナ情勢対応で国際社会主導を

ロシアのウクライナ侵攻から1年となることを受けて、岸田総理大臣は、G7=主要7か国の議長国としてオンラインでの首脳会合を開き、結束を確認したいとしていて、ウクライナ情勢をめぐる対応で国際社会を主導し、5月の広島サミットにつなげる考えです。
侵攻1年にあわせて開かれた国連総会の緊急特別会合で、林外務大臣は、ロシアに対して無条件で軍を撤退させるよう改めて求めるとともに、「ロシアはすべての行為について適切な形で責任を問われなければならない」と訴えました。

侵攻が始まって以降、政府はG7各国と足並みをそろえて、ロシアと同盟国のベラルーシに対し、政府関係者らの資産凍結や輸出入の制限などの制裁を科し、段階的に強化してきました。

また、ウクライナや周辺国などへの財政支援や人道支援として総額およそ15億ドルを決定し、順次実施しているのに加え、岸田総理大臣は今週、新たに55億ドルの追加支援を行うことを表明しました。

岸田総理大臣は24日夜、記者会見を行い、今後の政府対応を説明することにしています。

このあとG7の議長国として、ウクライナのゼレンスキー大統領も招いてオンラインでの首脳会合を開き、結束してロシアへの制裁とウクライナ支援を継続する方針を確認したいとしています。