バイデン大統領がウクライナへ なぜ今? 舞台裏では【詳しく】

ロシアによる軍事侵攻開始から1年になるのを前にウクライナの首都キーウを事前の予告なしに訪問したアメリカのバイデン大統領は日本時間の21日、ウクライナを離れ、隣国ポーランドに到着しました。

滞在中、ポーランドのドゥダ大統領らと会談し、同盟国との結束を確認し、ウクライナへの支援を続ける姿勢を強調するとみられます。

こうした詳細が、バイデン大統領がウクライナを離れたあと、明らかになりました。

徹底した情報管理 “実は前日に出発”

バイデン大統領のウクライナ訪問は徹底した情報管理のもとで行われました。アメリカ政府の事前の発表では、バイデン大統領はアメリカ東部時間の20日午後7時に首都ワシントン郊外の空軍基地を出発し、ポーランドに向かうとしていました。

しかし、実際には、バイデン大統領を乗せた大統領専用機「エアフォース・ワン」は、前日19日の午前4時15分に空軍基地を出発していたということです。

専用機はバイデン大統領が通常乗るものと比べると小型で、小さい空港に向かう際に使われることが多い、C-32と呼ばれる機体が選択されました。

同行記者は2人だけ 通信手段も回収

この訪問に代表取材として出発時から同行が許可されたのはアメリカの有力紙などの記者2人だけで、通信手段も24時間以上にわたって回収されたということで、アメリカ政府は訪問が事前に漏れないよう細心の注意を図ったとみられます。

この記者2人に宛てた出発などの詳細を記したメールのタイトルは「ゴルフトーナメントの到着時の案内」とされる徹底ぶりでした。

カービー戦略広報調整官「訪問の予定はない」

また、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官はバイデン大統領が訪問を決断した出発2日前の17日の記者会見で大統領のウクライナ訪問について聞かれ「その予定はない」と明確に否定し、19日に放送されたアメリカのテレビ局のインタビューの中でも否定していました。

この番組が放送された時間にはすでに、バイデン大統領は、空軍基地を出発していました。このほか、ホワイトハウスが19日夜に発表したバイデン大統領の日程では、すでに大統領が15時間近く前にアメリカを離れていたにもかかわらず、ポーランドへの出発は20日と公表していました。

ハリス副大統領周辺も訪問知らされず

また、NBCテレビは政府高官の話としてハリス副大統領の周辺も訪問を知らされていなかったと伝えています。

ハリス副大統領は先週、安全保障について話し合う国際会議に出席するためドイツのミュンヘンを訪れていましたが、予定を早めてバイデン大統領が出発した前日の18日までに帰国するよう指示されていたということです。

大統領と副大統領の2人がともにアメリカ国内にいない事態を避けるためとみられますが副大統領の側近は理由は知らされずに「交渉の余地はない」とだけ伝えられて帰国を早めるよう、促されていたと伝えています。

列車でウクライナに 到着までは約10時間

ホワイトハウスによりますと、バイデン大統領は、19日夜にポーランド南東部の街、ジェシュフに大統領専用機で到着したあと、車で、国境に近い街、プシェミシルまで移動し、ここで列車に乗り換えてウクライナに入りました。列車での移動は首都キーウに到着するまでおよそ10時間に及んだということです。

こうした詳細はバイデン大統領がウクライナを離れたあと、はじめて公開されました。

ゼレンスキー大統領との会談や共同発表

同行したメディアによりますと、バイデン大統領は現地時間20日午前8時にキーウに入り、午前8時半すぎに、ゼレンスキー大統領と妻のオレーナ氏が待つ宮殿に到着しました。

ゼレンスキー大統領との会談や共同発表を終えたバイデン大統領は午前11時19分に宮殿を離れ、キーウ中心部にある大聖堂を訪れました。

キーウ滞在は約5時間

訪問にはゼレンスキー大統領も同行し、2人は大聖堂に続いて、戦死したウクライナ兵士を追悼する壁まで歩き、献花しました。

その後午前11時40分に車で現地を出発し、正午ごろキーウにあるアメリカ大使館に到着しました。バイデン大統領は46分間、大使館にいたあと再び車に乗り、午後1時すぎに列車でキーウを離れました。バイデン大統領のキーウでの滞在時間はおよそ5時間でした。

“窓はカーテンで覆われた” 列車でポーランドに戻る

そして、バイデン大統領を乗せた列車は、ポーランドに戻り、国境に近い街、プシェミシルに20日午後8時45分、日本時間の21日午前4時45分に到着したということです。

このあとバイデン大統領は21日、ポーランドの首都ワルシャワでドゥダ大統領らとの会談を行う予定です。

バイデン大統領がウクライナの首都キーウを訪れたあと、ポーランドに戻る際に乗車した列車の中の写真が公開されました。

列車の窓はすべてカーテンで覆われて外からは見えないようになっていて、車両の真ん中に置かれた机をはさんでバイデン大統領とサリバン大統領補佐官が向き合って座っています。

壁にはモニターが備え付けられているほか、ソファーのように見えるいすもあり、特別仕様の車両のようにも見受けられます。

Q.なぜ今のタイミングで突然の訪問?

A.侵攻から1年の節目で、ウクライナへの支援を続けるアメリカの決意は揺るがないと象徴的に示したかったのだと思います。アメリカの大統領が軍事侵攻が続いている国を訪れるというのは異例のことです。

今回、あえてリスクを取って訪問することこそがウクライナを支え続けるという明確なメッセージだとバイデン政権の高官は強調しました。アメリカの歴代大統領はこれまでにもイラクやアフガニスタンなどを訪問していますが、アメリカ軍が駐留していないウクライナへの訪問は、そのリスクの大きさと重みが違います。

このため今回の訪問では安全面に最大限の配慮がなされ、訪問は直前になってロシア側にも通知されていました。

Q.会談では具体的にどのようなやりとりが?

A.バイデン政権の高官によりますと今後の軍事支援などについて意見が交わされたということです。

注目されるのは戦車に続いて、戦闘機の供与をめぐる議論が行われたかどうかです。ウクライナ側が戦況を変える切り札として供与を求めているからです。これについてバイデン政権の高官は「報道で取り沙汰されているさまざまな兵器について議論が行われた」と述べ、議題に上ったとも受けとれる発言をしています。

今回、発表された追加の軍事支援に戦闘機は含まれていませんが、アメリカはこの1年間でおよそ4兆円にのぼる軍事支援を行い、支援する武器のレベルも徐々にあげてきています。

アメリカとしては引き続きロシアを刺激しすぎないよう慎重に支援の範囲を見極めていくと見られ、最大の支援国、アメリカがどこまで軍事支援を行うのか、その内容が今後の焦点となります。