ウクライナの子ども6000人 ロシアの施設で愛国教育や軍事訓練

ロシアによる戦争犯罪などを調査しているアメリカの大学などのグループは、軍事侵攻が始まって以降、少なくとも6000人のウクライナの子どもたちが、ロシアの愛国教育などを行う施設に収容されたとする報告書をまとめました。

アメリカ国務省の支援を受けてロシアによる戦争犯罪などを調査しているアメリカのイェール大学などでつくるグループは14日、報告書を公表しました。

それによりますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった去年2月以降、少なくとも6000人のウクライナの子どもたちがロシアが管理する施設に収容されたということです。

施設はロシアがウクライナから一方的に併合したクリミアやモスクワなどに40か所以上あり、多くの施設ではロシアの愛国教育や軍事訓練などが体系的に行われていたとしています。

また、保護者と交わしたとされる同意に反して子どもたちが施設を出る日が先延ばしされることや、保護者が子どもの状態や居場所を確認できないケースもあったということです。

報告書は「ロシア政府が中心となった活動で、政治的な再教育が目的だ」と指摘するとともに「期間をはっきりさせずに子どもたちを両親から引き離すのは、子どもの権利条約に違反する可能性がある」として批判しています。

調査したレイモンドさん「収容は前代未聞の規模」

調査を行ったアメリカのイェール大学公衆衛生大学院のナサニエル・レイモンドさんは、NHKの取材に応じ「ロシアの目的は、子どもたちに対するロシアの愛国教育や軍事訓練であり、子どもたちをプロパガンダに利用することにある。こうした行為はすべて、子どもの権利条約で禁止されている」と指摘しています。

また、「現在、さらに数十の施設を調査している。収容されている子どもの数は報告書よりもはるかに多いとみている。施設への子どもの収容は前代未聞の規模であり、さらなる調査が必要だ」として、実際に収容された人数は6000人を大きく上回ると分析しています。

そのうえで「国連や政府間組織などの国際的な査察団が施設への立ち入り調査を行い、収容されている子どもの状況を把握する必要がある」と述べ、国際社会による対応が欠かせないと強調しました。

娘を連れ戻した母親「ただ静かで平和な生活がしたい」

ウクライナ東部のハルキウ州に住むリュドミラさん(43)は、去年の8月下旬、13歳の娘のベロニカさんを、ロシア政府がウクライナの子どもたちを対象に行っている「サマーキャンプ」に送り出しました。

しかし、3週間の予定だったはずが再会できたのは去年12月で、連れ戻すのに3か月半かかりました。

「サマーキャンプ」に送り出した当時、リュドミラさんが暮らす地域はロシア軍に占領され、住んでいた村の近くの激戦地、クピヤンシクから砲撃の音が昼も夜も鳴り響く状況だったといいます。

こうした中、ベロニカさんがクラスメートが行くので自分も「サマーキャンプ」に行きたいと訴えたということで、リュドミラさんは「はじめは反対しましたが、娘の安全のために送り出すことにしました。長期間、悩みました」と話し、苦渋の決断だったとしています。

「サマーキャンプ」は、ウクライナの国境に近いロシア南部の黒海に面した保養地、ゲレンジークで行われました。

しかし、9月上旬にウクライナ軍がハルキウ州の一部を奪還すると、ロシア側から子どもたちを戻す手段がないと告げられました。

リュドミラさんはその時の心境について「この時の感情は言い表せません。朝も夜も泣いていました。どうすることもできず、娘と連絡が取れていることだけが唯一の救いでした」と涙ながらに話していました。

娘のベロニカさんは同じくロシア南部のアナパに移され、午前中は動物園や海に行くなどの活動をしたあと、午後から3、4時間、ロシア語での授業に出る生活が続いていたといます。

その後、リュドミラさんは、ロシアから子どもを連れ戻す支援をしているウクライナの人権団体の存在を知り、ほかの13人の親とともに子どもたちを迎えに行くことになりました。

バス2台で、ポーランドとベラルーシを経由して、施設があるロシアのアナパまで5日間かけて移動し、3か月半ぶりに娘との再会を果たしました。

リュドミラさんは「娘は私たちがいる部屋に入ってきて、私を見つけるとはじめは笑顔を見せ、そして私に飛びついてきて抱き締め、『もう会えないかと思った』と言って泣きました。私はなにも言うことができず、ただただ泣いて娘にキスをしました」と再会した時の様子を話していました。

そのうえで、今の心境について「私たちはただ静かで平和な生活がしたい。仕事があり、家があり、ここに家族と座っていられるだけでいいのです」と話していました。