新型コロナ XBB.1.5とは“第9波”は わかってきたこと【2/1】

新型コロナの「第8波」はようやくピークアウトしたように見えます。
感染状況は今後どうなるのか、状況を左右しそうなのが変異ウイルス、「XBB.1.5」です。

アメリカでは6割を超えていて、免疫が効きにくく広がりやすいおそれがあるとされています。

「XBB.1.5」によって「第8波」が長引くことはあるのか。
これまでのワクチンは効くのか。
「第9波」は。

わかってきたことをまとめました。(2月1日時点)

「5類」移行でも 変異ウイルス警戒を

「かなり多くの出席者から、新型コロナウイルスは変化し続けていて、慎重さが必要だという意見が出た」

先月(1月)27日に開かれた記者会見。
政府分科会の尾身茂会長はこう述べて、引き続き変異ウイルスに警戒が必要だという考えを示しました。

この日、政府は新型コロナの感染症法上の位置づけを、5月に例年流行するインフルエンザと同じ「5類」にすることを決めました。

「病原性が大きく強まる変異が起きたり、同じオミクロン株であってもどんなに頑張っても医療ひっ迫が起きてしまう事態が起きてしまったりした場合は、対応を見直すことは当然必要になると思う」

XBB.1.5 米国で拡大続く

新たな変異としていま、特に警戒されているのが「XBB.1.5」です。

アメリカでは、去年12月ごろからニューヨークなど東部を中心に急増し、1月28日までの1週間では61.3%を占めるに至ったとみられています(CDC=疾病対策センター)。
「XBB.1.5」は、オミクロン株のうち、2022年春ごろから広がった「BA.2」の2つのタイプが組み合わさった変異ウイルス「XBB」に、さらに変異が加わっています。

WHO=世界保健機関の1月25日の週報によりますと「XBB.1.5」はこれまでに54か国で報告されています。

国別では、アメリカが75.0%とほとんどを占め、イギリスが9.9%、カナダが3.0%、デンマークが2.0%などとなっています。

一方で、東京都のモニタリング会議の資料によりますと、東京都内では12月初め以降これまでに31例確認されていますが、検出される割合は1月9日までの1週間でも0.1%で、大きく増加している状況ではありません。

WHOリスク評価 “世界的な感染者数増加につながる可能性”

WHOは1月25日、「XBB.1.5」のリスク評価を更新して公表しました。
それによりますと
▼ウイルスの広がりやすさについては、アメリカやイギリス、ヨーロッパ各国のデータではほかのオミクロン株の変異ウイルスより広がりやすいとしています。

▼過去の感染やワクチン接種で得た免疫から逃れる性質は、これまでの変異ウイルスで最も強いとしています。ただ、オミクロン株の「BA.5」に対応したワクチンを接種した人や、ワクチンを接種し感染の経験もある「ハイブリッド免疫」がある人では、「XBB.1.5」に似た「XBB.1」に対する抗体の値は高くなっているとしています。

▼感染した場合の重症度が上がっているという兆候は初期の段階では見られないとしています。

WHOは「XBB.1.5」によって「世界的な感染者数の増加につながる可能性がある」としています。
数理疫学が専門で京都大学の西浦博教授は、1月17日の厚生労働省の専門家会合で、「1人が何人に感染を広げるか」を示す実効再生産数はこれまで世界的に主流だった「BA.5」の1.47倍に上るという試算を示しています(1月14日までのデータを分析)。

海外の感染状況に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「WHOも警戒はしているが、世界で感染者数そのものが増えているわけではなく、感染力がどの程度なのか、まだ分析が必要な段階だ。一方で、アメリカでは死亡者数が多い状態が続いている。報告される感染者数は増えていないが実は把握されていないだけで、ある程度、感染者数が増えている可能性も考えておく必要はある」と指摘しました。

免疫逃避“最大” 結合力“強化”

「XBB.1.5」についての研究も発表されてきています。
東京大学医科学研究所の佐藤佳教授が主宰する研究者のグループ「G2P-Japan」は、査読を受ける前の論文として、「XBB.1.5」の特徴を再現して人工的にウイルスを作り、実験を行った結果を公表しました。

研究グループは、ワクチンの接種後に、2022年夏以降の第7波で主流だったオミクロン株の「BA.5」に感染した人の血液を使って、「XBB.1.5」に対する免疫の反応を調べました。その結果、ウイルスを抑える中和抗体の働きは「BA.5」に対する場合のおよそ10分の1にとどまり、免疫を逃れる性質がはっきりしたということです。

さらに、研究グループは、感染力も高まっているのではないかとしています。

新型コロナウイルスが人に感染する際には、細胞の表面にある「ACE2」というたんぱく質にくっつきます。人の細胞にくっつきやすいと感染力が高まります。

「XBB.1.5」には新たに「F486P」という変異が加わっています。
佐藤教授によりますとこの変異があることで、「XBB.1.5」は細胞の表面のたんぱく質に結合する力が、無いタイプの変異ウイルスと比べて4.3倍になっていたということです。

これまでの変異ウイルスでは「中和抗体を逃れること」と「結合力が上がること」は両立しにくかったのが、「XBB.1.5」は両立していて、感染力も高まっているのではないかとしています。
(佐藤教授)
「免疫をかいくぐる力が高まり、いわば『完成形』だった『XBB』に、さらに変異が加わることで細胞への感染力も高まり、より広がりやすくなっていると考えられる。これほど大きな変異はこれまでにほとんどなかった」

ワクチン効果は維持か

一方で、ワクチンで発症を防ぐ効果は「XBB.1.5」に対しても維持されているとする分析結果が1月下旬に出されました。

発表したのは、アメリカのCDC=疾病対策センターです。
CDCは、2022年12月から1月中旬にかけて、新型コロナの検査を受けた人のワクチンの接種状況などを調べ、「XBB.1.5」などXBB系統の変異ウイルスに対するワクチンの効果を分析しました。

その結果、従来型のワクチンを複数回接種したあと、オミクロン株の「BA.5」に対応する成分を含むワクチンを追加接種すると、追加接種しない場合と比べてXBB系統のウイルスによる発症を防ぐ効果は、
▼18歳から49歳で49%、
▼50歳から64歳で40%、
▼65歳以上では43%でした。

CDCは、オミクロン株対応のワクチンの追加接種によって「XBB」や「XBB.1.5」で症状が出るのを抑える効果が上がるとしていて、可能な人は最新のワクチンの追加接種を受けるべきだとしています。

「XBB.1.5」に対してはワクチンや感染することでできた抗体の働きは下がるという報告がありますが、最近、体の免疫細胞によってウイルスを排除する働きは維持されるという分析結果が出されました。

アメリカ・ボストンにある「ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター」などの研究グループはオミクロン株に対応したワクチンを追加接種した人の血液を使って、「XBB.1.5」に対する免疫の働きを調べた結果を第三者の査読を受ける前の論文として、1月下旬に公表しました。

その結果、追加接種から3か月の時点で、「XBB.1.5」に対する中和抗体の値は「BA.5」に対する働きの16分の1に下がり、接種前とほぼ同じ水準になりました。

一方で、細胞性免疫の働きを示す値は従来型のウイルスや「BA.5」に変異が加わった「BQ.1.1」の場合と同じ程度でした。
臨床ウイルス学が専門でワクチンに詳しい、北里大学の中山哲夫特任教授は「『XBB.1.5』に対しては、抗体の働きが落ちるのに対し、細胞性免疫は維持されていると考えられる。実社会のデータでは、オミクロン株対応ワクチンによる発症予防効果も50%くらいあるという報告も出ている。ワクチンを接種することで、感染しても発症や重症化を抑えるという効果は十分あると考えられる。さらに追加接種が必要ということではなく、すでにオミクロン株対応ワクチンの追加接種していれば、十分に対応できるだろう。まだ追加接種を受けていない人は、いまからでも接種を検討してほしい」と話しています。

変異ウイルスは“併存”

免疫から逃れやすいうえ、感染力も高いとみられる「XBB.1.5」ですが、今のところアメリカ以外の国では大きく広がっていません。

また、世界、そして日本でも、これまでのようにある特定の変異ウイルスがほぼすべてを占めるということにもなっておらず、いわば、さまざまなウイルスが併存する形になっています。

東京都のモニタリング会議で出されたデータによりますと、1月上旬までの1週間で検出されている変異ウイルスはいずれもオミクロン株の1つで、多い順に
▽「BA.5」48.5%(2022年夏以降主流)
▽「BF.7」16.2%(「BA.5」に変異加わる 中国で拡大)
▽「BQ.1.1」16.1%(「BQ.1」に変異加わる)
▽「BN.1」10.5%(「BA.2.75」に変異加わる)
▽「BQ.1」3.4%(「BA.5」に変異加わる)
▽「BA.2.75」3.4%(「BA.2」に変異加わる)
▽「BA.2」1.5%(2022年春~夏に主流)
▽「XBB」0.2%
▼「XBB.1.5」0.1%
となっています。

感染の再拡大につながるのか

去年(2022)秋から続いてきた「第8波」はようやくピークを越えたように見えますが、「XBB.1.5」がさらに流入すると「第8波」が長引くことや「第9波」につながってくるのでしょうか?
政府分科会の尾身茂会長は、1月24日に放送されたNHKの「クローズアップ現代」で「XBB.1.5がもっと主流になってくると、『第8波』が下がりきらないうちにまた再燃するのか、あるいは下がりきったあとに、いわゆる『第9波』が来ることも可能性としてあることを考えておいた方がいいのではないかと思います」と述べました。
アメリカのバイデン政権は1月30日、2020年以降続けてきた新型コロナについての国家非常事態宣言について、5月11日に解除する方針を明らかにしました。
一方で、WHOは、1月27日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」について専門家による委員会を開き、2020年1月末に出した緊急事態を維持することを決めました。

委員会の後でWHOが出した声明では、現在感染が広がっているオミクロン株の変異ウイルスについて「これまでの変異ウイルスと比べると重症化につながっていない傾向が見られるが、予測不可能な特徴を持つ新たな変異ウイルスに進化する能力を保持している」と指摘しました。

WHOは各国に対し、ワクチンの追加接種を進めることや、変異ウイルスへの警戒を続けることなどを求めています。

東京医科大学の濱田特任教授は、日本国内でも今後「5類」に移行することで、感染を広げないための個人や企業の判断がこれまで以上に大事になるとしています。
(濱田特任教授)
「『XBB.1.5』は東京でもまだ検出されるのは少ないが、今後、アメリカなどから入ってくる数が増えることは予想される。いま、『第8波』がピークアウトしつつあるが、『第9波』のような形で感染の波につながる可能性がある」

「今後『5類』になると、自分自身の感染を防ぐための対策は個人の判断に任されることになる。隔離や療養の規定もなくなるが、新型コロナを野放しにはできないので、インフルエンザの欠勤規定のように、企業が独自に判断して対応策を作らなければいけない。オミクロン株対応ワクチンは『XBB.1.5』にも効果があるようなので、接種を受けてない人はぜひ受けてもらいたい。ヨーロッパでも緩和が進んだあとで感染が拡大したときには、公共交通機関でマスクの着用を求めるなど、状況に応じた対応を取っていた。日本でも流行状況を見ながら対応していくことは必要だろう」