選ぶ時代ではなく選ばれる時代 外国人も働きやすい職場とは

選ぶ時代ではなく選ばれる時代 外国人も働きやすい職場とは
日本で働きながら技術を学ぶ技能実習生。貴重な働き手として、その力に大きく頼っている企業や農家は少なくありません。こうした中、千葉県にある会社では、外国の人たちも働きやすい職場の環境整備に力を入れています。その背景とは?(首都圏局記者 鵜澤正貴)

外国人材が貴重な戦力に

ことし11月、取材したのは、太平洋を臨む千葉県旭市にある鋼材加工会社です。

建物の骨組みに使われる「胴縁」という部品を生産しています。
この会社では、25年前から外国人技能実習生を積極的に受け入れてきました。

今では外国人の社員も増えていて、人手不足の中、貴重な戦力になっています。

円安の思わぬ影響

インドネシアの技能実習生、スルヤ・ハンドコさん(26)です。
5年前から、この企業で働き、技術を学んできたスルヤさん。おととし春、インドネシアに一時帰国しましたが、新型コロナの水際対策で再入国の予定が1年半も延びてしまい、ことし4月、ようやく来日がかないました。

しかし、直面したのは、円安の影響で、ふるさとの家族への仕送り額が目減りしてしまうという現実でした。
以前は、多い月で家族に20万円を送金すると、インドネシアの通貨でおよそ2800万ルピアになっていました。

しかし11月時点では、円相場は1ドル=140円台後半まで円安が進み、送金できる額は、およそ2200万ルピアと、20%以上目減りしてしまいました。

このためスルヤさんは、なるべく損をしないように、仕送りは必要最小限の額にとどめていると言います。
スルヤ・ハンドコさん
「家族にも我慢してもらいました。家族の生活はギリギリな感じです。ちょっと残念な気持ちです」

他の国で働くことも選択肢に

スマートフォンを見つめるのは、ネパール人の社員たちです。

円相場が値上がりしたら送金しようと、休み時間などに為替レートを欠かさずチェックしています。
男性「そろそろ元に戻るかな。もっと時間かかるかな。今は我慢、我慢しかないです」

女性「それしかないです」
社員たちは、せっかく日本語を学んだものの、円安の状況が続くのであれば、他の国で働くことも選択肢になり得ると、複雑な胸中を話してくれました。
サヒ・サザニさん
「もともと日本で働くのが夢だったんですけど、こういう(円安の)状況がずっと続くとなると、やっぱりほかの道を探さないといけないんじゃないかとも考えています」

外国人も“居心地よく”

為替相場が急激に変動する中、外国人の働き手が厳しい現実に直面する様子を目の当たりにした社長の向後賢司さん。
以前から日本以外の国を目指す働き手が相次いでいることに危機感を持っていましたが、さらにその思いが強まっています。

そこで今、力を入れているのが、“職場環境の良さ”をアピールすることです。向後さんはこれまで、外国人のニーズをくみ取って居心地のよい職場づくりに取り組んできました。

その具体策の1つが、会社の敷地にある、こちらのモスク。
イスラム教徒が多い実習生の要望を受けて建設しました。

実習生たちも工場で骨組みを作るなど、主体的に関わりました。
礼拝の作法にのっとって、モスクに入る前に顔や手足を洗えるお清めの場も設けました。
向後社長
「正面がメッカの方向にあたります。みんなここにひざまづいて、メッカの方向に向かってお祈りしています。仕事が大変な中でも、ここに来ると気持ちが穏やかになる、疲れも抜けるということで、みんな喜んでくれています」

地域に溶け込む努力も

さらに、見知らぬ土地で孤立することがないように、地域の行事にも積極的に参加しています。
来年はコロナ禍で中断していたマラソン大会に、3年ぶりにみんなで参加する予定です。会社内のチームワークがよくなり、地域にもより溶け込むことができると、向後社長は考えています。

11月には、地域のパークゴルフ大会の主催者から「参加者が少ないので、よかったら来ませんか」と会社に連絡があり、実習生たちが急きょ参加したこともありました。

地域の一員として受け入れられていると、実習生たちも感じています。
スルヤ・ハンドコさん
「うれしいですね。みんなで一緒にがんばって、モチベーションにもなります」

これからは“選ばれる時代”

向後社長は、職場環境の良さを、親族や知り合いなど身近な人に、口コミやSNSで広げてもらうことで、意欲のある人材に継続して来てもらうことにつなげたいと考えています。

その効果も実際に出始めています。
インドネシアの技能実習生、スルヤさんの弟のレザ・イルファンシャさん(22)。

兄からこの会社の話を聞き、管理団体を通じて、技能実習生として受け入れてもらう希望がかないました。
レザ・イルファンシャさん
「社長さんはみんなに優しいと兄が教えてくれました。モスクも私はインターネットで見ました。なかなかモスクがある会社はないので安心します」
向後社長
「これからは選ぶ時代でなくて、選ばれる時代だと思います。私たちの会社も、彼らの手をなくしては存続できないと思っています。小さなことでも、われわれがひとつずつ小さな種をまいていく。そうすることで、根底から少しずつ変わっていければいいと思います」

専門家「家族の一員のような対応を」

労働分野に詳しい、日本総合研究所の主席研究員、山田久さんにも話を聞きました。
山田久さん
「以前は、日本は賃金も高く、他の国に比べても優位性があったが、それが少しずつ崩れてきている。アジアの中で労働力を取り合うような状態が今後だんだんと進んでいくと見ておく必要がある。人手不足の日本の中小企業は、外国人の働き手がいないと現場が回らない。家族の一員のように生活支援までしっかりする、個人のバックグラウンドも考慮して対応していくということが非常に大事になってくるし、逆に言うと、そうした対応ができなければ、意欲のある外国人に定着してもらうのは難しい時代になってくるのではないか」
選ばれる職場になるために、どう魅力を高めていくのか。

為替相場の急激な変動など、外部環境が大きく変化する中、外国人の働き手に頼る日本の企業に、大きな課題がつきつけられています。
首都圏局記者
鵜澤正貴
2008年入局
広島局や横浜局などを経て現所属
広島では自動車産業などの取材を担当