【詳しく】岸田首相 会見で「反撃能力」の必要性を強調

「国家安全保障戦略」などの3つの文書の決定を受け、岸田総理大臣は、記者会見し、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」は、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となり、今後、不可欠になる能力だと必要性を強調しました。
また、防衛費の増額は安定的な財源で賄うべきだとして、増税への理解を求めました。

この中で、岸田総理大臣は、防衛力強化を目指す背景について、ロシアのウクライナ侵攻を含めた国際情勢に触れたうえで「わが国の周辺国や地域でも核・ミサイル能力の強化、急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みが一層、顕著になっている」と述べました。

また「現在の自衛隊の能力で脅威が現実となったときにこの国を守り抜くことができるのか、極めて現実的なシミュレーションを行った。率直に申し上げて現状は十分ではない」と指摘しました。

そして、求められている能力として、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有や、宇宙やサイバー、電磁波などの新たな領域への対応、それに南西地域の防衛体制強化の3つをあげたほか、弾薬の充実や自衛隊員の処遇改善などを実行していく考えを示しました。

このうち「反撃能力」の保有について、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となり、今後、不可欠になる能力だと必要性を説明しました。

そのうえで、5年後の2027年度には、GDPの2%に達する防衛費の増額を目指す方針を重ねて示し「NATO=北大西洋条約機構をはじめ各国は、安全保障環境を維持するために経済力に応じた相応の防衛費を支出する姿勢を示しており、こうした同盟国・同志国などとの連携も踏まえ取り組みを加速していく」と述べました。

そして、岸田総理大臣は、防衛費増額の財源について、およそ4分の3は歳出改革などの努力で確保する道筋がついたと強調しました。

そのうえで「残りのおよそ4分の1の1兆円余りについてはさまざまな議論があった。私は内閣総理大臣として、国民の命、暮らし、事業を守るために防衛力を抜本強化していくための裏付けとなる安定財源は、将来世代に先送りすることなく、今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきものと考えた」と述べました。

また「防衛力を抜本的に強化するということは端的に言えば戦闘機やミサイルを購入するということだ。これを借金で賄うことが本当によいのか自問自答を重ね、やはり、安定的な財源を確保すべきであると考えた」と説明しました。

さらに「これらの措置は来年から実施するわけではない。しかし、将来、国民に負担をいただくことが明らかであるにもかかわらず、それをことし示さないことは、説明責任を果たしたことにはならず、誠実に率直に示したいと判断した。今の平和の暮らしを守り未来の世代に責任を果たすために協力をお願いする」と述べ、増税への理解を求めました。

そして、安全保障関連の3文書について「戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ。もちろん、日本国憲法、国際法、国内法の範囲内での対応であるのは言うまでもなく、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変だ」と強調しました。

プロセスに問題があったとは思っていない

岸田総理大臣は「3文書の決定や防衛力の抜本強化に向けては1年以上にわたる丁寧なプロセスを行ってきた。プロセスに問題があったとは思っていないが、国民の皆さんからさまざまな意見や指摘があることは政府としてしっかり受け止めなければならない。引き続き丁寧な説明を心がけて実行していかなければいけない」と述べました。

3文書を踏まえ日米間で緊密な協議 行っていく

日米ガイドラインの扱いについては、「現時点で何ら決まっていることはない。まずは今回策定した3文書を踏まえ、日米間のあらゆるレベルで緊密な協議を行っていく。国家安全保障戦略でも『日米同盟はわが国の安全保障政策の基軸であり続ける』と記しているように、引き続きさまざまな分野における日米防衛協力をさらに推進し、日米同盟の抑止力、対処力を一層、強化していきたい」と述べました。

中国の動向 挑戦が多岐にわたる分野のものと認識

また、「国家安全保障戦略」で中国の動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記述したことについて「わが国の平和と安全や国際社会の平和と安定の確保のみならず、挑戦が多岐にわたる分野においてのものであるといった認識に基づいて記述した」と説明しました。

一方で「『国家安全保障戦略』では、同時に日中両国は地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有していることや、建設的かつ安定的な関係を構築していくことは国際社会の平和と安定にとっても不可欠であること、そして経済、人的交流などの分野で双方の利益となる形で協力は可能だということも明記している」と述べました。

防衛装備移転三原則は与党と調整

そして、「防衛装備移転三原則、運用指針をはじめとする制度の見直しについては与党と調整を丁寧に進めながら結論を出していかなければならない課題だ。この課題の重要性はしっかりと指摘をしたうえで、具体的な対応については与党と調整を行っていく」と述べました。

また、反撃能力について「どのように具体化していくのかが問われている。今回、3文書の策定によって整理したので、それに基づいて国民の命を守るために必要な措置、具体的にどうするかしっかり考えていきたい」と述べました。

沖縄の米軍駐留 重要性はさらに増している

また、「自衛隊の部隊増強により、南西地域の防衛体制を強化していく考え方を3文書の中でも示している。同時に安全保障上極めて重要な位置にある沖縄にアメリカ軍が駐留することは日米同盟の抑止力、対処力を構成する重要な要素であり、現下の安全保障環境ではその重要性はさらに増している」と述べました。

そのうえで「沖縄の負担軽減を図ることは政府の責任だ。普天間飛行場の返還をはじめとする嘉手納以南の土地の返還、アメリカ海兵隊のグアム移転などについて可能なかぎり早期の実現に取り組んでいく。地元の皆様に丁寧に説明していく努力はこれからもしっかり進めていかなければいけない」と述べました。

経済政策で負担感を払拭できるよう努力していく

さらに「復興特別所得税」の税率を引き下げたうえで課税期間を延長するとしていることについて「長期的には負担が増えるのではないか」と質問されたのに対し「経済成長と賃上げの好循環を実現し、持続可能性をしっかりと回復させる。こうした経済政策全体の中で負担感を払拭(ふっしょく)できるよう努力していく。こうしたことを進めることで国民の理解を得ていく努力をしていかなければならない」と述べました。

復興財源 総額は全く変わりはない

また「復興財源については総額は全く変わりはない。引き続き、息の長い対応でしっかり支援していかなければならず、こういった姿勢を政府として示していくことも大事だ。被災地の方々に寄り添った政府の姿勢や説明がこれからも重要だ」と述べました。

数字ありきの議論ではなく防衛力抜本強化の内容の積み上げ

そして「数字ありきの議論をしてきたということはない。まず行ったのは、防衛力の抜本強化の内容の積み上げだ。結果として、5年間で緊急的に整備すべき防衛力整備計画の規模と、5年後の2027年度に達成すべき防衛費の規模を導き出した」と説明しました。

また、NATO=北大西洋条約機構もGDP比2%の国防費の確保を目標にしていることにも触れ「国際社会の協力が重要だという日本の姿勢を示すうえで、GDP比で見ることは指標の1つとして意味がある」と述べました。

増税の必要性指摘した発言 誤って発表 “事務的なミスが原因”

さらに、自民党役員会で防衛費増額の財源を賄うための増税の必要性を指摘したみずからの発言を自民党が一部誤って発表したことをめぐり「私は『国民の皆様の平和で豊かな暮らしを守るために今を生きるわれわれが未来の世代に責任を果たすためにご協力をお願いしたい』と申し上げた。これが事実だ」と述べました。

そのうえで「発言の紹介のそごは事務的なミスが原因であり、今後はこのようなことがないよう徹底していきたい。ぜひ私たちの世代が責任を果たしていく大切さを訴えた、私のこの思いを国民にもご理解いただき、ご協力いただきたい」と述べました。

専守防衛 今後も変わらず

また「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その対応も自衛のための必要最小限にとどめ、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢だ。これは、わが国の防衛の基本的な指針であり、今後も変わらない。『反撃能力』についてもこの考え方にのっとっていて、今後も専守防衛は堅持していく」と述べました。

防衛力の強化 経済活動に資する

そして、法人税増税による経済への影響について「決して過小評価しているわけではない。防衛力の強化はシーレーンの確保、サプライチェーンの維持、抑止力の強化による市場かく乱リスクの低減という経済界にとっても円滑な経済活動に資する課題でもある。こうしたことをしっかりご理解いただき、余力のある方々にはできるだけご協力をいただきたい」と述べました。