新型コロナ “医療崩壊”は防げるか 大阪 全病院データで迫る

新型コロナウイルスの感染拡大からまもなく3年。感染の波が押し寄せるたび、各地の医療体制は危機に直面してきました。
第8波に入りつつある中、私たちは今回、全国で死者が最も多い、大阪府の医療体制に注目しました。
府内で患者を受け入れてきたすべての病院の病床の運用記録を独自に入手し、検証しました。そこから見えてきたのは、地域によって病床の数に差がある実態でした。

(大阪放送局 新型コロナ検証取材班)

病床ひっ迫の実態は 独自データで分析

分析の元となったのは、大阪府内で患者を受け入れている200以上の病院の病床の運用記録です。

日々の入院患者や空いている病床の数が病院ごとに記されています。

大阪府がまとめ、府内全域の入院の調整を行う際に利用しています。

今回、主に分析の対象としたのは、大阪府で医療が破綻の危機に直面した、感染の第4波。

重症病床の使用率が初めて100%を超えた2021年5月5日までの病床の推移を分析しました。
病床の数は、府内に8つある「2次医療圏」ごとにまとめました。2次医療圏は、高度な医療を除いた一般的な入院治療を提供できるようにするために設定されている地域で、おおむね住民の生活圏を想定して複数の市町村にまたがって設定されています。

数百枚に及ぶ資料のデータを入力し、分析すること2週間あまり。

まず見えてきたのは、感染拡大とともに病床が埋まっていくスピードに”地域差”があることでした。
大阪府が緊急事態宣言の発出を国に要請した2021年4月20日。

北河内医療圏では、病床の運用率は90.6%と満床に近づいていました。

一方、泉州医療圏は68.2%と、比較的余裕がある地域もありました。

そして、地域によって病床の運用状況に差がある傾向は、その後の感染の波でも続きました。
大阪府は軽症から重症まですべての入院を一括で調整していました。

患者の情報は、各地域の保健所から府の入院フォローアップセンターに報告されます。

府はその日の空き状況に応じて、入院を手配します。

新型コロナへの対応の責任者を務める大阪府健康医療部の藤井睦子部長は、府全体で調整しても対応しきれないケースがあったと振り返りました。
藤井部長
「府内で入院を一元的に管理していたため、非常に多くの感染者に対応しなければなりませんでした。そのため、どうしても一人ひとりの患者の顔が見える調整はしにくくなってしまいます。1人も受け入れる余裕がないという病院に対し、あと1人、入院を受け入れてほしいとどうお願いするか、難しさはありました」

影響は軽・中等症の病院に

そして、重症病床がひっ迫する地域では、軽症・中等症の病床運用にも影響を与えていたことも、分析から見えてきました。

大阪府の重症病床の使用率は大型連休中の2021年5月5日、初めて100%を超えました。

実はこの2週間前から、地域によっては重症病床の空きがひとつもない状態になっていたのです。
▽4月20日(火)
8つある医療圏のうち、南河内と堺市の2つで重症病床の空きがゼロに。

▽4月21日(水)
北河内でも重症病床が満床に。45あったベッドはすべて埋まる。
▽4月22日(木)
三島などでも、病床の空きがゼロに。この日は8つの医療圏の半分で、重症病床が満床に。空いているのは、4医療圏であわせて14床だけに。
重症病床が埋まった地域では何か起きていたのでしょうか。

三島医療圏にある北大阪ほうせんか病院は、当時、軽症・中等症の患者を受け入れる病院でしたが、このとき、重症患者への対応を迫られていました。
病院では、人工呼吸器など必要な医療機器を急きょ手配しました。

人員が限られる中、患者の急変に備え、24時間体制で治療にあたらなければなりませんでした。
北大阪ほうせんか病院 吉川昌平内科部長
「現場は修羅場というか非常につらい状況でした。ふだんやっていることと、重症患者に対しやらなければならないことに、かなりの差があって、多くのスタッフは不安や強いストレスを感じていたと思います」

病院で対応した重症患者は16人。

このうち、搬送時に心肺停止だった2人を含む、4人が亡くなりました。

病床数 第7波の時も3倍の地域差が

新型コロナの感染拡大からまもなく3年となります。

府は病床のひっ迫を防ごうと、当初350床あまりだった病床を、4700床を超えるまで増やしてきました。

さらに、入院調整を迅速に行うため、府が一括で管理する運用から、8つの2次医療圏で個別に調整する仕組みへの転換を進めています。

では、医療圏内で入院する仕組みはうまくいくのでしょうか。

病床の運用記録を分析してみました。
こちらは、人口10万人あたりの重症病床の数です。

第7波の病床のピーク時(2022年8月19日)
▽大阪市が4.83床、
▽北河内が4.74床、
▽泉州が3.73床、
▽三島が3.56床、
▽豊能が2.65床、
▽南河内が2.36床、
▽堺市が2.18床、
▽中河内が1.45床となっています。

最も多い大阪市医療圏と、最も少ない中河内医療圏では、実に3倍以上の差があります。
医療圏ごとの入院調整を進める大阪府。この地域差をどう受け止めているのか、聞きました。

大阪府健康医療部 藤井睦子部長
「医療圏ごとの病床数は、できるだけ差がない状況が望ましいですが、完全に差を埋めるのは難しいのが現状です。地域差ができるだけなくなるよう、より多くの医療機関に今後も協力を求めていきたいと考えています。そのうえで、今後、感染が拡大し、医療圏内での調整が難しくなった場合に備え、地域をまたいで調整する仕組みも残しつつ、現場を支援していきます」
冬を迎え、新型コロナの感染者数は増加傾向が続いています。

目前に迫る第8波で、医療提供体制を維持するには、何が必要か。

そして、今後、地域の中で、新型コロナの患者に対応する仕組みをどう作っていくのか。

今後も取材を続けていきたいと思います。