財務省公文書改ざん 妻 “夫は法律に守ってもらえなかった”

財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した、近畿財務局の赤木俊夫さん(当時54)の妻の雅子さんが、「夫の死の真実が知りたい」と訴えた民事裁判。
大阪地方裁判所は、佐川元理財局長の個人の賠償責任を否定したうえで「説明や謝罪をする法的義務もない」として訴えを退けました。

「夫は法律に守ってもらえなかったのに佐川さんは守ってもらえるのか」

夫のような犠牲を二度と出してほしくないと、雅子さんは、控訴する方針です。
(大阪放送局記者 島崎眞碩)

雅子さん “佐川さんは守ってもらえるんだ”

25日の判決のあと、赤木雅子さんは、夫の俊夫さんが使っていたマフラーを身に着けて、取材に応じました。

赤木雅子さん
「夫と一緒にいるような気分で判決に臨みました。しかし、私が知りたかったことは何も出てこなかった。なんのために裁判で2年8か月も頑張ってきたんだろうと思えて、残念でならない。夫は法律に守ってもらえなかったのに佐川さんは守ってもらえるんだと理不尽に感じました」

夫が関与させられた改ざん 手記には“苦悩”

夫で、近畿財務局の職員だった赤木俊夫さんがみずから命を絶ったのは4年前。

森友学園に関する財務省の決裁文書の改ざんに関与させられたことがきっかけでした。

2017年、学園への国有地の値引き売却が発覚しました。
この問題で財務省の佐川宣寿元理財局長は、「交渉の記録は残っていない」、「政治家の方々の関与は一切ない」などと発言しました。

しかし、実際には財務省では「国会審議の紛糾を懸念」したなどとして、近畿財務局に交渉の経緯や政治家などの名前を記録から削除するよう指示。

公文書が改ざんされました。

俊夫さんが残した手記には、改ざんに関与させられ、命を絶つほど追い詰められた苦悩がつづられていました。
赤木俊夫さんの手記
「抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした。(55才の春を迎えることができない儚さと怖さ)」
雅子さん
「夫が亡くなった日は生きていて一番つらい1日になってしまった。当時は大騒ぎしたけれど、改ざんがどのように行われたのか答えは出ていないのに、夫の死がなかったことのようにされてとても不満です」

妻が起こした民事裁判 “夫の死の真実が知りたい”

夫の死から2年後、雅子さんは国と佐川元理財局長に、合わせて1億円余りの賠償を求める訴えを起こしました。

「夫はなぜ自殺に追い込まれたのか。真実を知る」ためです。

開示された「赤木ファイル」 抗議の意志が明らかに

裁判が動いたのは、去年6月。

俊夫さんが職場に残したいわゆる「赤木ファイル」が開示されたのです。
財務省本省に対して、直接、抗議の意志を示したメールなどが残され、一方的に改ざんを強いられた状況が読み取れる内容でした。

雅子さん
「夫の仕事のしかたがわかって立派だったと思うし、夫の足跡でもあるので見ることができてよかった」

突然の国の“認諾” 当事者の尋問1人も行われず

しかし、去年12月、国が、突然、裁判を思わぬ形で終わらせました。

非公開の協議の場で請求を全面的に受け入れる「認諾」という手続きをとり、あえて高額に設定された賠償金にもかかわらず、支払いを一転して認めたのです。

改ざんに関わった当事者の尋問は、実施するか判断する前に裁判が終わったため、1人も行われませんでした。

改ざんの具体的な指示の内容や、佐川元局長が誰かから指示を受けたのかどうかも明らかにされませんでした。

国の説明
「いたずらに裁判を長引かせるのは適切ではなく、決裁文書の改ざんという事案の性質などに鑑み、請求をすべて認める」

雅子さん
「お金を払えば済む問題じゃないです。私は夫がなぜ死んだのか、なんで死ななきゃいけなかったのかを知りたい」

残された佐川元局長との裁判でも直接 話は聞けず

残されたのは佐川元局長との裁判。

本人らへの尋問は裁判所が「尋問をしなくても判断は可能だ」として認めませんでした。

ことし7月、すべての審理が終わり、直接、話を聞きたいという雅子さんの願いは届きませんでした。

雅子さん
「国の対応は夫の命をとても軽く扱われているような気がして、夫は何回も殺されていると感じた。佐川さんに話を聞くことがかなわないかぎり、夫の死の真相には近づけない」

訴え退けられる 佐川元局長の個人責任認められず

そして迎えた、25日の判決。

争点は、国家公務員だった佐川元局長個人の賠償責任が認められるかどうかでした。
佐川元局長側は「職務中の行為に関する賠償責任は国が負い、公務員個人は責任を負わないとする判例が確立している」として訴えを退けるよう求めていました。

一方、雅子さんにとって佐川元局長との裁判は、夫の死の真実に迫るために残された、最後の大きな闘いでした。

裁判所には、佐川元局長個人の賠償責任を認め、夫のような犠牲を二度と出さないようにしてほしいと訴えていました。

判決で、中尾彰裁判長は、最高裁判所の判例に加え、すでに国が「認諾」によって賠償を認めていることを考慮して佐川元局長個人の賠償責任を認めませんでした。

そして、「賠償責任を負わない以上、道義上はともかくとして、元局長に説明や謝罪すべき法的義務もない」と述べて訴えを退けました。
雅子さんが問い続けている、佐川元局長の改ざんの具体的な指示の内容や、誰かから指示を受けたのかどうかは、裁判で明らかになりませんでした。

専門家「司法の信頼損なう懸念」

行政訴訟に詳しい日本大学の鈴木秀洋准教授は、真実を知りたいという当事者の声に応えない、形式的な判決だったと指摘します。
日本大学 鈴木秀洋准教授
「最高裁判所の判例の枠組みから外れず、形式的にあてはめた驚きのない判断だ。真相解明を求めて国に訴えを起こす当事者は、損害賠償制度しかないからその方法で司法を頼っているのに、そうした実態を無視して、金銭面で被害を補填(ほてん)さえすれば、それ以上でも以下でもないという判断を示し続けると裁判への信頼が損なわれることが懸念される」

意志貫いた夫の死 真相解明を

命懸けで裁判に臨み、気力や体力の限界も感じていた雅子さん。

裁判を続けるか悩んでいましたが、判決を受けて、控訴して闘いを続けたいと話しています。

去年10月には、赤木ファイルをもとに財務省内部のやり取りがわかる文書の開示を求める別の裁判も起こしていて、この裁判を通して、新たな事実が明らかになる可能性は残されています。

雅子さん
「夫は自分の意志を貫いており、私は亡くなった夫のことを尊敬しているし、大好きです。いまでも佐川さんは公の場で説明すべきだと思っている。夫の亡くなった理由や何があったのか知りたいし、二度とこういうことが起きてほしくないということを引き続き訴えていきたい」