ミサイル ポーランドに落下 専門家はどう見る?今後は?

ロシアがウクライナへのミサイル攻撃を続ける中、15日、NATO=北大西洋条約機構の加盟国であるポーランドはロシア製のミサイルが国内に落下し、2人が死亡したことを明らかにしました。ロシアによる軍事侵攻後、NATOの加盟国内で初めて犠牲者が出たことになり、緊張が高まっています。

ロシアと欧米の関係に詳しい筑波大学の東野篤子教授の解説です。

(11月16日の正午のNHKニュースで放送した内容です)
(動画は7分。データ放送ではご覧になれません)

今回のような事態はいつ起きてもおかしくなかった

Q.今回の事態、まずどのように受け止めているか

(東野教授)
ロシア側からのウクライナの各都市に対する無差別な攻撃、特に民生インフラをねらった攻撃は全土に及んでいましたが、それは西部のリビウなども例外ではなかったわけです。

こういったロシアからの攻撃を常にウクライナが迎撃するという状況になっていましたので、正直なところ、今回のような事態はいつ起きてもおかしくなかったと考えています。

当事国も含めて非常に慎重に対応

Q.先ほどバイデン大統領が軌道から考えるとロシアから発射されたとは考えにくいと述べているが、東野さんどのように聞かれましたか。

(東野教授)
これは、おおかたのNATO諸国の認識を反映していると思います。ロシア製の武器の破片であることは間違いないですが、ロシアから発射されたものとは考えにくいということが次々と確認されている状態。

実は被害国であるポーランドの大統領も決定的な証拠がないと言っています。

現時点では早急な判断や決めつけを避けて当事国も含めて非常に慎重に対応しているという印象です。

Q.ロシア製だからといってロシアによるものという可能性が高いとは言えないということなのか。

(東野教授)
そのとおり。ウクライナ側も例えば旧ソ連時代の武器を中心としてそういった武器を持っている可能性が非常に高いですし、実戦でも大いに使っています。

ウクライナがロシアからの攻撃を迎撃したときに生じた破片が残念ながらポーランドの領土内に入ってしまい犠牲者を出してしまったという可能性もありますし、ウクライナ側の誤射である可能性もあります。このあたりはウクライナ政府側の主張とは真っ向から食い違っています。

ウクライナ側の認識はNATO諸国とは異なる可能性も

Q.一方でゼレンスキー大統領は「ロシアのミサイルがポーランドを襲った。テロは私たちの国境にとどまらない」と発言していますが、この発言どう受け止めますか。

(東野教授)
ロシアのミサイルがということはまだ言えない状況だということは先ほども申し上げたとおりですので、若干、勇み足的な発言ではなかったのかと個人的に考えています。

NATO諸国との認識が、この点において異なってくる可能性も否定できない。

ただ、こういった主張をゼレンスキー大統領が言っているのは、いつNATO領土内に被害が及んでもおかしくないということで、被害が及んでしまったということ自体は残念ながらそのとおりです。

ロシアの攻撃かどうかを断定する状況にないということでNATO諸国とはやはり温度差があることは否めない。

真相究明には時間か

Q.今それぞれ現在入っている情報をまとめますと、東野さんとしては今回の事態をどのような結果、起こったものだった可能性を考えておられますか。

(東野教授)
まだ断定は全くできません。

ロシア側のミスである可能性もまだ否定できません。

ウクライナの迎撃弾が間違って落下してしまった可能性もありますし、ロシアが誤射をしてウクライナ側がそれを迎撃した結果であるとも考えられます。まだまだ真相解明には時間がかかると思いますね。

Q.東野さんとしてはロシアが誤って着弾させたものという見方ももちろん可能性としてはあるし、ウクライナが迎撃した結果、流れ落ちたものである可能性もあるということ?

(東野教授)
両方考えられるというふうに見ていますが、ロシアからの着弾の可能性は今のところ相当低いということは言われます。排除はしないという程度ですね。

今後のポーランド、NATOの対応は?

Q.このあとポーランドはNATOの加盟国であるわけですけれどもNATOとしては今後どういった対応を進めていくというふうに考えられますか。

(東野教授)
まずポーランド側の対策とNATO側の対策ちょっと分けて考えてみたいんですけれども、ポーランド側としては国家安全保障会議をすでに招集しており、そして国境地帯における安全保障を高める意味で即応態勢を強化しています。

NATO側の対応としては、ポーランド側からの要請に基づいて北大西洋条約第4条を発動して16日中に北大西洋理事会っていう大使級の会合ですけれども、こちらを開く見通しです。

第4条に基づく対応ですので、NATOの有名ないわゆる第5条、集団防衛の条項を直ちに使うということではないということ。

まずは第4条に基づき協議を行うということを重視している。

NATO側から、いたずらにこの状況をエスカレートさせないという非常に慎重な見方が出てきます。

ただ、ポーランド側に被害が生じていることは事実で、第4条の発動をこの戦争が始まってから2回目に発動したということになります。

今後、映像情報などの解析も

Q.このあと注意深く見ていきたいと思われてる点どういったところでしょうか。

(東野教授)
まず状況、そして証拠の確認です。今、非常に映像技術が発達していますので、すでにこの破片がどういったものであるのかということについて相当解明は進んでいるようです。

どういった種類の武器で、どこの部分の破片なのかっていうところも含めて明らかになっていますが、それがどのような状況で発射されて、そしてどのような状況でこの様にポーランドの人たちを巻き込むような悲劇を起こしてしまったかということについては映像情報などをきちんと見ながら解析していく必要があろうと思います。

国境地帯で非常にリビウにも近いところで、ある程度のしっかりと張り巡らされた情報はあるとの考え方です。

その情報を後から精査していき情報の把握に努めること。

このプロセスにおいて、いたずらにロシアの犯行と断定しないっていう姿勢が今のNATO諸国に非常に強く伺えますので、できるだけ冷静に、そしてエスカレートさせないようにおさめたいっていうところが非常によく見えてくると思います。