セブン&アイ 「そごう・西武」を米投資ファンドに売却を発表

セブン&アイ・ホールディングスは、経営不振が続く傘下のデパート「そごう・西武」をアメリカの投資ファンドに売却すると正式に発表しました。売却にあたっては、家電量販店、ヨドバシカメラの持ち株会社が一部の店舗を取得する方針で、全国の10の店舗の取り扱いが今後の焦点となります。

流通大手のセブン&アイ・ホールディングスは、11日臨時の取締役会を開き、主力のコンビニ事業に経営資源を集中する一環として、傘下の大手デパート「そごう・西武」のすべての株式をアメリカの投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」に売却することを決めたと正式に発表しました。

売却に際し、家電量販店、ヨドバシカメラの持ち株会社の「ヨドバシホールディングス」がパートナーとなり、東京 池袋の旗艦店など一部の店舗を取得して家電量販店を展開する方針です。

売却は来年2月の予定で、売却額は2000億円を超える規模となる見通しです。

そごう・西武は、全国で10の店舗を展開していますが、ヨドバシ側が関与するのは首都圏の一部にとどまるとみられ、地方都市の店舗がどのように引き継がれるのかが今後の焦点となります。

かつて小売りの盟主と言われたデパート業界の一角の店舗を異業種の家電量販店が取得する形となり、業界再編が進んできたデパート業界の構図がさらに変わることになります。

セブン&アイ そごう・西武売却の背景は

「セブン&アイ・ホールディングス」が、そごう・西武を売却する背景には、これまで多角化を進めてきた事業の在り方を見直し、経営資源を主力のコンビニエンスストアに集中させることで、グループの収益力を高めるねらいがあります。

「セブン&アイ」は、2005年に、コンビニとスーパー、レストランの3つの事業会社の持ち株会社として設立したあと、積極的な事業の買収や資本提携などを通じ、事業の多角化を図ってきました。

2006年に今のそごう・西武の前身となるミレニアムリテイリングと経営統合した際も、コンビニやスーパーの商品開発力とデパートのブランド力を生かした品ぞろえの強化や、複合商業施設の展開などが期待できると説明し、業態の垣根を越えた再編として注目されていました。

しかし、専門店やネット通販の台頭でデパートやスーパー業界の不振が続く中、十分な相乗効果が得られなかったうえ、規模拡大に向けて買収してきた子ども向け用品の専門店や通信販売大手なども含めて、傘下の事業をグループの成長にどう結び付けていくかが課題となっていました。

ことし2月までの1年間のグループ全体の決算は、最終的な利益が2107億円に上りましたが、利益の大半を国内外のコンビニ事業が稼ぎ出した一方、「そごう・西武」は3年連続で最終赤字となっていました。

こうした中で、セブン&アイの主要な株主であるアメリカの投資ファンド「バリューアクト・キャピタル」は、会社の収益性が低く、意思決定が遅いなどとして、ことし1月、主力のコンビニ事業に経営資源を集中するよう書簡を送り、これに対しセブン&アイは、そごう・西武の売却を具体的に検討していくことになりました。

すでに去年以降、家具や雑貨を販売する「Francfranc」の保有株式の25%余りを投資ファンドに売却したほか、スポーツ用品専門店の「オッシュマンズ・ジャパン」を靴の小売りチェーン店「エービーシー・マート」に売却するなど、事業の選択と集中を進めてきました。

今回、そごう・西武というグループを代表する事業の売却に踏み切ることになり、今後、傘下のほかの事業についてもグループの構造改革を一段と加速させるものとみられます。

店舗網の行方が焦点に

「そごう・西武」は、「西武」と「そごう」の2つのデパートを首都圏のほか、広島県、秋田県、福井県に合わせて10店舗展開しています。

関係者によりますと、このうち旗艦店の西武池袋本店はヨドバシホールディングスが投資ファンドから店舗を取得し、一部のフロアに家電量販店を展開する方針です。今ある海外の有名ブランドの取り扱いなどが今後の課題となります。

その一方で、ヨドバシ側が店舗や不動産の取得を通じて関与するのは全体のうち首都圏の一部にとどまるとみられます。このため、地方都市に展開している店舗について、どのように引き継がれるのか今後の行方が焦点となります。

家電量販店を展開する場合、デパートとしてこれまで営業してきた既存のフロア構成を大きく見直す必要があります。

主要なテナントの入れ替えや改装を伴うことも予想され、厳しい事業環境が続いてきたデパート事業のてこ入れをどのように進めるかも焦点となっています。

「そごう・西武」の利用客は

「そごう・西武」の売却について店をよく使うという30代の女性は「ショックです。池袋の店舗は、にぎわっているイメージだったので、経営状態が苦しいと聞いて、ちょっとびっくりしました。現状に満足しているので今の売り場を維持したうえで池袋がもっと盛り上がるようなお店が入ってくれるとうれしいです」と話していました。

また、地下の食品売り場を利用する50代の男性は「デパートが家電量販店などに変わるのは、少しさみしいと感じます。街の真ん中に建物があるので、そこに行ったらワンストップでいろいろな物がそろうイメージの店にしてほしい」と話していました。

「そごう・西武」とは

「そごう・西武」は、「西武」と「そごう」の2つのデパートを各地に展開していて、16年前に「セブン&アイ・ホールディングス」の子会社となりました。

このうち西武は、かつて、「西武百貨店」として、堤清二氏が率いた日本有数の流通グループ「セゾングループ」の中核企業でした。

西武鉄道グループの創業者の一族として生まれた堤氏のもとでデパートの店舗網は全国に広がり、中でも「おいしい生活。」のコピーに代表される先進的な広告や、時代を先取りした文化・芸術などの活動は、若い世代のファッションやライフスタイルに大きな影響を与えました。

一方、そごうは江戸時代に創業し、明治のはじめに大阪 心斎橋に店を構えた呉服店が発祥の老舗デパートです。

昭和32年には首都圏の1号店として東京 有楽町に進出。「有楽町で逢いましょう」という当時のキャッチフレーズは歌や映画にもなり、広く親しまれました。

戦後の経済成長の時代に個人消費をけん引した両デパートですが、バブル経済の崩壊によって拡大路線が裏目に出て経営が悪化します。

そごうは、2000年に1兆8700億円の負債を抱えて経営が破綻し、西武百貨店の支援のもとで再建を進めましたが、その西武百貨店も経営が悪化して2003年には取引先の銀行などから金融支援を受けました。その年に両社は、経営統合して「ミレニアムリテイリング」となります。

その後、2005年にセブン‐イレブン・ジャパンやイトーヨーカ堂を傘下に持つ「セブン&アイ・ホールディングス」と経営統合することを決め、翌年には子会社となりました。

これにより、財務基盤を安定させるとともにデパートのブランド力とコンビニやスーパーが強みとする商品開発力を生かした新しいサービスを生み出し、顧客も開拓できると期待されていました。

しかし、その後も、郊外型のショッピングセンターや低価格の衣料品などの専門店の台頭に加えて、ネット通販の普及などでデパート業界の経営環境は厳しさを増し、収益力の大幅な改善にはつながりませんでした。

セブン&アイの子会社となった2006年の時点で28店舗あった「西武」と「そごう」の店舗数は、採算が見込めない店の閉鎖を進めたことで現在は10店舗まで減少しています。

さらにおととし以降は、新型コロナの感染拡大による生活スタイルの変化やインバウンド需要の落ち込みもあり、決算では、3年連続で最終赤字に陥っていました。

思うような相乗効果が出ない中、親会社のセブン&アイは、業態を超えた経営統合から16年たったことし、そごう・西武を売却する方針を決め、売却先や店舗網の取り扱いなどその行方が注目されていました。

ヨドバシホールディングスとは

ヨドバシホールディングスは、家電量販店のヨドバシカメラを傘下に持つ持ち株会社です。

ヨドバシカメラは、1960年にカメラの小売り会社として創業し、その後、取り扱う商品を家電全般に広げることで、事業を拡大してきました。大都市や地方の中核都市の駅前など、全国に24店舗を展開し、家電以外にも日用品や本、スポーツ用品などの販売も手がけています。

また、1990年代からネット販売にも参入し、国内の小売業全体でも有数の売り上げ規模を持つとされています。

ヨドバシカメラの昨年度の売り上げは7530億円と5年連続の増収で、業界3位となっています。

ヨドバシホールディングス「より一層価値ある店づくりを」

「そごう・西武」を買収する投資ファンドのパートナーとして参加する家電量販店、ヨドバシカメラの持ち株会社「ヨドバシホールディングス」はコメントを発表しました。

このなかでは、「そごう・西武の百貨店と連携した新たな店舗の出店をはじめ、最先端の情報システムの活用や豊富な品ぞろえなどによって、より一層、価値ある店づくりに努めてまいります」としています。

会社は、店舗の形態など具体的な内容は決まり次第、発表するとしています。