ロシア国防相 ウクライナ南部ヘルソン州州都からの撤退命令

ロシアのショイグ国防相は、プーチン政権が一方的な併合に踏み切ったウクライナ南部ヘルソン州の州都を含むドニプロ川の西岸地域から軍の部隊を撤退させるよう命じました。ロシア軍がウクライナ侵攻直後のことし3月から掌握していた戦略的な要衝からの撤退となれば、戦況は重大な局面を迎えることになりそうです。

ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は9日、戦況をめぐる会議を開き、その映像を公開しました。

この中で軍事侵攻の指揮を執るスロビキン総司令官は、ウクライナ南部のヘルソン州について、州内を流れるドニプロ川の西岸地域にとどまる部隊が孤立するおそれが出ているとしたうえで、川の東側で防衛を固めるのが最善の選択だと報告しました。

これを受けてショイグ国防相は「部隊の撤退を進め、川を渡る人員や武器、装備の安全な移送を確保するためあらゆる措置に着手せよ」と述べ、州都ヘルソンを含むドニプロ川の西岸地域から軍の部隊を撤退させるよう命じました。

ロシア軍は、ウクライナ侵攻直後のことし3月、ヘルソン州の全域を完全に掌握したと主張し、プーチン政権が9月にヘルソン州など4つの州の一方的な併合に踏み切りました。

これに対し、領土奪還を目指すウクライナ軍は反転攻勢を強め、州都ヘルソンに向けて部隊を進めていました。

ロシア軍が戦略的な要衝のヘルソンから撤退するとなれば、戦況は重大な局面を迎えることになりそうです。

ゼレンスキー大統領「非常に慎重に動いている」

ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、新たな動画を公開し、ロシア軍がウクライナ南部の戦略的な要衝、ヘルソンから軍の部隊を撤退させるよう命じたことについて「きょう、情報空間には多くの喜びがあり、その理由は明らかだ。しかし、感情は控えめでなければならない」と述べました。

そのうえで「われわれは損失を最小限に抑え国土のすべてを解放するため、非常に慎重に動いている」と述べ、ロシア側の動きを見極めながらヘルソンの奪還に向けて慎重に部隊を進めていると強調しました。

さらにゼレンスキー大統領は「いま最も激しい衝突は東部ドネツク州で起きている。われわれは立ち向かい、何ひとつ譲らない」として、南部だけでなく東部でも反転攻勢を続ける姿勢を示しました。

ヘルソン州を支配する親ロシア派勢力 幹部が交通事故で死亡

ウクライナ南部ヘルソン州を支配する親ロシア派勢力のトップは9日、幹部の1人、ストレモウソフ氏が交通事故で死亡したと、SNSで明らかにしました。

ロシアの国営メディアも、ストレモウソフ氏の死亡について速報で伝えましたが、詳しい状況はわかっていません。

ストレモウソフ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアの立場を正当化するプロパガンダを、SNSを通じて積極的に発信していました。

ウクライナ軍事専門家「プーチン大統領にとって悲劇」

ウクライナの軍事専門家のジダノフ氏は、NHKのインタビューで「ヘルソンは、ウクライナへの侵攻後、ロシア軍が占領した唯一の州都であり、撤退となれば、プーチン大統領にとって悲劇であり、政治的に打撃となる」と指摘しました。

また、ウクライナ側にとっては「ヘルソンの奪還にあててきた兵力を、南部ザポリージャ州や東部ドネツク州などに振り向けることができるようになり、有利な状況だ」と分析しました。

その一方でジダノフ氏は「ロシア軍の部隊が戦線から大規模に離脱している様子は見られない」としたうえで「兵士に民間人のふりをさせたり、市民が出ていった住宅地から攻撃したりする準備を進めている」として、ウクライナ軍がヘルソンに入れば、市街戦になるおそれもあるという見方を示しました。

南部 黒海沿岸地域の戦略的要衝

ウクライナ南部ヘルソン州の州都ヘルソンは、ロシアによる軍事侵攻において、南部、黒海沿岸地域の戦略的な要衝です。

ヘルソンは、ロシアからベラルーシを経てウクライナを縦断し黒海に注ぐドニプロ川の河口に位置し、交通の要衝でもあります。

ウクライナへの侵攻を続けるロシア側にとっては、ヘルソン州は2014年に一方的に併合したクリミア半島の北に隣接し、輸送や水の供給を左右する重要な地域です。侵攻直後のことし3月、ロシア軍が掌握し、9月には一方的な併合に踏み切りました。

ヘルソンは、州内を流れるドニプロ川の西岸地域にあったロシア軍の拠点で、また侵攻後、占領した唯一の州都でもありました。

一方、領土の奪還を目指すウクライナ側にとっては、ヘルソンの奪還はロシア軍がさらに進軍するのを食い止めることになるとともに、州都を奪い返したという象徴的な意味を持ちます。

ウクライナ軍は、ドニプロ川に架かる橋を破壊するなどして、ヘルソンにいるロシア軍への補給路を断ち、孤立させるようにして反撃を続けてきました。

ヘルソン州の親ロシア派は先月以降、ヘルソンのある地域から住民を対象にした強制的な移住とともに、統治機構も安全な場所に移していると明らかにし、ロシア側が退避を余儀なくされた形です。