ウクライナへの巨額支援 アメリカは続ける?続けない?

ロシアによる軍事侵攻から8か月余り。
これまでウクライナへの巨額の支援を続けてきたアメリカがいま、揺れています。

今月8日に行われる中間選挙で民主党と共和党、どちらが多数派を握るのか。
結果次第では、バイデン政権がウクライナ支援の見直しを迫られる可能性も出てきているのです。
※アメリカ中間選挙の基本情報は記事の最後にあります。

“ウクライナに帰れるように…”

ニューヨークにあるリトル・ウクライナと呼ばれる地区。
ここに建つ教会は長年、多くのウクライナ系アメリカ人の精神的なよりどころとなってきました。
ロシアによる軍事侵攻以降、ウクライナから避難してきた人たちも大勢、集まるようになり、取材に訪れた日曜日には多くの人が祈りをささげていました。
ウクライナから避難している人
「神様がウクライナとウクライナ人を守るよう、すべての世界が私たちを支援してくれるよう祈りました」
「戦争が終わり状況がよくなったらウクライナに帰れるように期待しています」

ウクライナ支援 増える反対議員

これまで巨額のウクライナ支援を表明してきたアメリカ。
その額は日本円で数兆円にのぼります。

今回の中間選挙では、その支援のあり方が議論の的になっています。

アメリカの議会では過去3回、主要な追加支援の法案が採択され、超党派の議員が賛成票を投じてきました。
しかし、投票の内訳を見るとことし3月はわずか8人だった反対が5月には57人に。
反対票を投じる議員が増え、与野党の団結にほころびが生じているのです。

「白紙の小切手は切らせない」

先月には共和党の下院トップ、マッカーシー院内総務の発言が物議を醸しました。
マッカーシー院内総務
「バイデン政権は国内でやっていないことがある。人々は不況に陥ることになる。ウクライナに白紙の小切手をもう切らせない」

この発言について、記者から問われたバイデン大統領は、次のように答えています。

記者「共和党が多数派になったら…」
バイデン「ウクライナ支援の打ち切りが懸念される」

共和党議員「これはヨーロッパの戦争だ」

共和党の下院議員で今回、再選を目指すスコット・ペリー議員は、ウクライナ支援に反対票を投じてきました。
アメリカは他国に比べ突出した規模の支援をすでに行っており、今後は制限する必要があるとしています。
スコット・ペリー議員
「支援法案には何の制約も設けられていません。資金提供額、時期について制約がなく、議会による歯止めがききません。私もアメリカが力になれればとは思います。しかしこれはヨーロッパの戦争なのです」

民主党候補「ウクライナ支援続けるべき」

スコット・ペリー議員の対立候補、民主党のシャメイン・ダニエルズ氏。
自身もベネズエラからの移民で、ウクライナ支援に反対することは民主主義に反し、国際社会でアメリカの孤立を深めると非難しています。
シャメイン・ダニエルズ候補
「共和党は、アメリカは引きこもり、同盟国を支援せず、世界情勢に関わらないという考え方だ。ウクライナの支援は継続すべきだ。強固な民主主義を支えていく必要がある」

油井キャスターに聞く

中間選挙の結果は、アメリカによるウクライナへの支援にどう影響するのか。

2021年までワシントン支局長をつとめ、今回の中間選挙を現地で取材している油井秀樹キャスターに聞きました。

Q.共和党が勝った場合、支援は打ち切られる?

A.支援自体がなくなることはないと思いますが、支援の規模やスピードに影響を及ぼす可能性はあると思います。

先月、ウクライナを守る責任がアメリカにあるかどうか尋ねた世論調査では、民主党支持者の56%が「責任がある」と答えたのに対して、共和党支持者は29%でした。

共和党内にはアメリカ第一主義的な内向き傾向が強いことがうかがえます。

ただ、ウクライナ支援をめぐっては共和党の下院と上院でも温度差があるんです。
下院では支援に慎重な立場の議員が上院に比べて多くなっています。

▽下院トップのマッカーシー院内総務が支援の見直しを示唆する発言をしたのに対し、
▽上院トップのマコネル院内総務はウクライナを積極的に支援する立場です。
このため今回の選挙を受けて、トランプ前大統領に近いアメリカ第一主義を掲げる候補がどのくらい当選するか、また、上院と下院のどちらが党内で主導権を握るかがウクライナ支援の行方を占う鍵となります。

Q.民主党が勝った場合、積極的な支援続く?

A.ウクライナ支援が続く可能性は高まりますが、実はバイデン政権を支える与党・民主党も一枚岩ではありません。

先月には下院の民主党リベラル派の議員30人が、バイデン大統領に対してロシアとの直接対話に乗り出し、戦争を早期に終わらせる努力を加速すべきとする提言を発表して物議を醸しました。

ウクライナ政府の頭越しにロシアと直接交渉する印象を与えるだけに、民主党内の反発を受けて提言は撤回されたものの、ウクライナ支援をめぐって共和党も民主党も揺れている現状を浮き彫りにしました。
中間選挙でどの勢力が台頭するかによって、バイデン政権がウクライナ政策の見直しを迫られる可能性もあり、ウクライナをはじめ関係国は選挙の結果を注視することになりそうです。

アメリカ中間選挙の基本情報

中間選挙は4年に一度、大統領選挙の中間の年に行われます。

▽連邦議会の上院と下院の議会選挙や
▽州知事選挙などが実施されます。

もっとも注目される連邦議会の選挙は、上院はおよそ3分の1の35議席が改選に。

一方、下院は435議席すべてが改選されます。
このうち、上院は現在100議席の定数に対して、無所属を含む民主党系が50議席。

共和党が50議席と同数になっています。

しかし、議長を務めるハリス副大統領が1票を持っているので、民主党が事実上の多数派となっています。
上院・下院ともに現在は与党・民主党が多数派で主導権を握っていますが、今回の選挙でその構図に変化が生じるのかどうかが最大の焦点です。