コロナ後遺症は遅れてやってきた 18歳男性は感染3か月後に…

コロナ後遺症は遅れてやってきた 18歳男性は感染3か月後に…
パティシエを目指してこの春、専門学校に入学した男性。
しかし体に異変を感じ、休学を余儀なくされています。

けん怠感などの原因は「新型コロナ後遺症」
そう診断されました。
症状が出たのは感染から3か月後でした。

「こんなに遅れて症状が出ることがあるのか」

目に見えにくいコロナ後遺症。
苦しんでいる人は皆さんの周りにもいるかもしれません。

(岡山放送局 記者 内田知樹)

突然の体調不良 原因が分からない

岡山県倉敷市に住む18歳の男性の体に異変が現れたのは4月下旬、大型連休の頃でした。
だるさを感じ、どんどん悪化していったといいます。
男性
「最初は学校にも行っていましたが、だんだんひどくなって一日中、布団で横になって過ごすようになり、食欲もなくなってきました。何もやる気が出なくて、朝、学校に休みの連絡をして、そのあとは、ぼーっとしていました。生活リズムが崩れて、一晩中、起きている時もありました」
パティシエを目指し、ことしの春、専門学校に入学したばかりでした。

男性は3歳のころ、家族に連れられて誕生日ケーキを買いに出かけた洋菓子店で、すてきなお菓子と笑顔で働く職人たちの姿に心を奪われ、目標ができたといいます。
夢に向かって歩み始めたとたんの体調不良。

最初は「五月病」かと思ったそうですが、体調は悪くなる一方でした。
いつまでたってもよくならないので、地元のクリニックを受診しましたが、原因は分からないと言われました。

募る不安。そして、同級生と差がついてしまうという焦りで、精神的にも追い詰められていきました。

ほとんど学校に行けなくなっていた男性は、6月、専門学校から休学か退学か選択するよう告げられます。

幼いころからの目標を諦めたくないと、休学を選択するしかありませんでした。
男性
「このときは新型コロナの後遺症だとは思っていなかったので、なにか他の病気なのかと思って不安でした。SNSを通じて同級生たちが楽しそうな学生生活を送っている姿を見るのもつらかった」

コロナは治ったと思ったのに…

男性が新型コロナに感染したのは、高校3年生だったことし1月でした。

38度を超える発熱などが10日間続きましたが、徐々に和らぎ、3月にはすっかり回復していました。

しかし、今度は原因不明の体調不良に襲われます。
地元のクリニックの紹介でことし7月、岡山大学病院が設置する新型コロナの後遺症の専門外来「コロナ・アフターケア外来」を受診することが決まりました。

去年2月に設置された外来で、これまでに治療にあたった患者は400人以上。

検査の結果、男性は「新型コロナの後遺症」と診断されました。
男性
「自分は18歳で若いので、後遺症ではないと思っていました。同じ世代で後遺症なんて聞いたこともなかったし。しかも、体調不良になったのは感染から3か月がたったあとのこと。こんなに遅れて症状が出ることもあるのかと思いました。一方で、ほかの病気かもしれないと不安に思っていたので、診断名がついて正直、ほっとしました」

「コロナ後遺症は遅れてやってくることも」

岡山大学病院は、専門外来をことし7月下旬までに受診した369人のデータを分析しました。

このうち46%の患者が、新型コロナの発症から91日以上たったあとに受診していました。

男性のように、感染からしばらくたって後遺症が現れることも珍しくないといいます。
岡山大学病院総合内科・総合診療科 櫻田泰江 医師
「思考力や集中力が低下するブレインフォグという症状とか、脱毛といった症状は、少し遅れて出てくることが多いです。新型コロナに感染して、回復し、仕事や学校に戻ると、休んでいた分を取り戻そうと頑張って仕事とか勉強をする。その反動で時間がたってからけん怠感とか眠れないといった症状を訴える患者もいます」

コロナ後遺症の症状は…

コロナ後遺症は、男性が訴えたけん怠感のほかにも、さまざまな症状が見られ、感染した株によっても特徴が違うことも分かってきました。

岡山大学病院を受診した369人のうち、オミクロン株に感染した124人とデルタ株に感染した132人が訴えた症状を比較したデータです。
オミクロン株の患者では「けん怠感」が64%と、デルタ株の患者よりも15ポイント増えています。

「頭痛」も29%と、9ポイント増加しました。

一方、デルタ株の後遺症でよく見られた「味覚障害」は14%でマイナス25ポイント、「嗅覚障害」は12%でマイナス32ポイントと、オミクロン株の場合、大幅に減少していました。

特効薬がない 回復までは半年近く

なぜ時間がたってから症状が出てくるのかや、株ごとに症状の違いがどうして生じるのかなど、後遺症には、まだわからないことが多いといいます。

特効薬もないため、対症療法が主な治療です。
男性の場合は、漢方薬や睡眠薬などを服用することになりました。

岡山大学病院の調査では、感染してから後遺症が回復するまでの期間は、平均で176日と、症状は半年近く長期化することがわかっています。

周囲の理解と思いやりを

男性はこれまでに3回通院して診療を終えましたが、まだ、よく眠れない日もあるといいます。

ただ、高校生のときから続ける飲食店での調理のアルバイトができるまでは回復しました。

来年の復学に向けて、専門学校のテキストで自習するなどして準備を進めています。
男性
「後遺症と診断されたあとに、家族や専門学校、アルバイト先、友達が『しかたないことだから、治るまで休んでね』と理解してくれました。患者は精神的にも弱っているので、まわりの人は優しく接することがいちばん大事だと思います。同級生たちは1学年上になってしまうけれども、いまは来年の春の復学が楽しみです」
後遺症の症状は、けん怠感や頭痛など見た目ではわかりにくく、専門外来で主に10代の患者の診療にあたる医師も、特に若い世代の患者については周囲の理解が重要だと指摘しています。
櫻田泰江 医師
「全身けん怠感とか夜眠れないといった症状は、日中の活動を大きく制限してしまうので、後遺症は社会生活上かなりの影響のある状態だと言えます。特に子どもの場合は自分から症状を訴えることが難しいので、怠けていると捉えられてしまうこともあります。感染から回復した子どもの様子がいつもと違うと気付いてあげることが大事だと思います」

後遺症に苦しむ人は皆さんの周りにも…

感染拡大からもうすぐ3年。新型コロナへの向き合い方も変わってきました。

どうすればコロナと『共存』して社会経済活動を進めていけるのか、社会で模索が続いています。

一方で、後遺症に悩み生活に大きな影響を受けている人たちがいることも忘れてはいけません。

皆さんの周りにも、コロナ後遺症に苦しんでいる人がいるかもしれません。
まずは後遺症について知り、どのようなサポートができるか、考えることが大切だと感じます。
岡山放送局 記者
内田知樹
2021年入局 長野県出身
事件担当を経て、倉敷支局勤務。両親が病院勤務で医療分野に関心。フルマラソンの自己ベストは2時間54分